中3
火と水の小品集
1.火をけしてみる
火がともる。水をかける。すると消える。それが面白くって、私は何回も繰り返した。
この遊びを、私はいつも近所の川原でするのだった。落ちている枝を集めて、石の上に積んで、マッチを擦れば火はすぐに燃え始める。単純なやつ、といつも笑った。単純だ、火なんて。そして水をかければあっという間に消えてしまう。こんなに勢いよく燃えてるのに、水にあっさりと消されてしまう。
火には悪いけど、私は個人的に水が好きだ。れんれんと流れる水は、冷たくて静かなのに強い。私もそういう人になりたかった。燃え盛る炎を一瞬で消せるような水に。火なんてただうるさく燃えるだけじゃないか。
この火遊びを通報されて警察に指導されたことがあるので、それからは場所に気をつけていた。今日は橋の下だ。ここに人が来ることは滅多に無い。私は火をつけて、消して、火をつけて、消して、を日が暮れるまで続けた。
2.火にのまれる
朝、ニュースのコメンテーターが言っていた。
「子どもはいつまで経っても子どもなのよ。子は親の背中を見て育つって言うでしょう。子どもに人殺しをさせているのは実は、私たち大人なんじゃないかしら」
もっともな意見だ。でも、幻想だ。子どもはそんなにかわいらしいものではない。大人の影響で、やむなく殺人をするのではない。子ども自身が考えて、子ども自身で手にかけたんだ。
そんなことをぼんやり考えていると、嫌なニュースが目に入った。
「本日未明、○○県○○市で火事が発生しました。住民は水をかけて必死に消火活動を行うものの、火は止まらず、一人が死亡しました」
水をかけても火が止まらない。乱暴な炎に住民が飲み込まれていく。その場面を想像するだけで不快になった。
3.水にのまれる
火が好きな人もいるのだろう。焼かれて死にたいという人もいるのだろう。でも私は溺れて死にたい。
そう考えて部屋のベッドに寝転んでいると、ふわっと体が持ち上がった。
水だ。まわりに水が満たされている。
冷たくはなかったし、体が重くもなかった。空を飛んでいるみたいだった。
何も音はしない。ただただ水が溢れ出てくる。
私は水の中に潜って、すいっと泳いだ。心地いい感触に満たされる。月並みな表現だけど、本当に魚になったみたいだ。
水を呼吸して、水の中で生きる。最高だ。
水が柔らかい。水が私を包んでくれる。
うとうととしかけたとき、ふと思った。
……でも、水ってそんなに優しいものなのだろうか。
その瞬間、水が冷たくなった。水が口から体に入り込み、肺を溺れさせる。さっきまであんなにふわふわとしていた水が急に硬くなり、体を突き刺す。痛い、苦しい。
沈む……と思った瞬間、意識が白くなった。
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