落ちてきた雫

烏神まこと(かみ まこと)

1

 星也は、短い言葉とともに恵の腕を掴んだ。


「行こう」

「どこに?」


 返事はない。星也はそのまま強引に手を引き、彼を病室の外へ連れ出そうとする。しかし、それを恵の体が拒んだ。全身が震える、足が鉛のように重い。何度も繰り返される逃走と治療によって刻み込まれた恐怖がその反応を引き起こしたのだ。

 次の瞬間、サイレンが鳴り響き、白い部屋が真っ赤に染まった。

 想像していなかった事態に焦り、苛立ちを見せる星也を見て恵は目を細め、歪に笑った。


「もう一度捕まるくらいなら、殺してよ」

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