第6話復讐の炎

あれだけの怪我を負った明人であったが驚くほどのスピードで回復し、なんと入院してから十日後には病院をでることを許された。

日常生活に戻ることができたものの、左腕はまったくいうことをきかず、不便であることはたしかだった。

早く退院できたのを母親は泣いて喜んでくれた。

母親の顔を見た明人は再び、学校に通う決心をした。

何故だかわからないが、誰にも負けない、負けてはいけない、そんな自信のようなものが湧いてきていた。

久しぶりに学校にいくと案の定、山崎理恵のグループの一人の男子生徒に呼び止められた。

人気のない階段下に連れていかれ、いつものように暴力をうけ、金銭をとられるはずであった。

とうの男子生徒も明人のことを体の良いストレス発散の道具としかみていなかった。

胸ぐらをつかまれ、殴られようとしている時だった。

左腕から、あの林檎の声がきこえた。

良く見ると左手の甲に林檎によく似たアザが浮かびあがっていた。


左手の林檎はかたる。


王たるものがこのような下賤のものに臆する必要はない。王権の守護者の力、見せつけるが良い。


左腕に異常な熱さを覚えた。

燃えるような熱さであった。

炎のイメージが脳内に広がる。

明人は相手を睨み付けた。


「なんだ、その目は」

大きく腕を振りかぶり男子生徒が殴りかかろうとした瞬間、彼の頭部が紅蓮の炎に包まれた。目を開けているのがやっとのほどの眩しさであった。

耳をおおいたくなるほどの悲鳴をあげ、彼はのたうちまわる。

先ほどまでの威勢の良い姿が嘘のような惨めさであった。

床を惨めに転がりまわる。

「もう、いいだろう」

明人がそういうと炎は跡形もなく消えてしまった。

残ったのは頭髪をすべてやきつくされ、煤だらけになって倒れている男子生徒だけだった。

にやりと笑い、明人その場所を後にした。


自分を痛め付けていた者に逆らう気持ちを持たさなくするほどの傷を瞬時に追わせ、最初は痛快な気分であったが、時間がたつにつれ虚しさだけが心を支配した。


そして、その一部始終を見ていた少女がいた。


銀縁眼鏡の奥の瞳が下品に歪み、にやついた笑みをうかべていた。

舌なめずりし、明人に近づき、彼の手を握った。

突然手を握られ、戸惑っていた明人だったがその少女、森咲百合子の潤んだ瞳にじっとみつめられるとだんだんと思考力が低下していった。

「帆村くん……すごい力をもってるのね……」

百合子は言った。

少女は明人の手をひき、今は使われることがなくなり倉庫となっている教室に連れてきた。

「私、強い人好きよ」

熱い吐息を吐きかけ、百合子は言った。

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