第5話奇妙な依頼

ある日の昼下がり、私立探偵神宮寺那由多の事務所を一人の女性が訪ねた。

年齢は四十代だろうか、清楚な雰囲気を持つ女性だった。

少し頭をさげ、那由多に挨拶する。

那由多は彼女を応接用のソファーに案内した。

自分と依頼主用のコーヒーを用意し、ガラスのテーブルにおく。

那由多は自分のコーヒーに角砂糖を六個もいれたので、依頼主の女性は驚愕の表情をうかべた。

ものすごく甘いコーヒーをすすりながら、那由多は依頼内容をきいた。


今から約三十年前の話です。

私には年の離れた兄がいました。

兄には当時お付き合いしていた女性がいました。

そうです、わすれもしません。あの日のことです。

私は見てしまったのです。

兄の部屋に遊びにいこうとしたときでした。

その部屋から二人の話し声が聞こえました。

悪いとは思いつつ、私はいたずら心でドアの隙間から中の様子をのぞきました。

するとなんといこうかとでしょうか。

思い出してもぞっとします。

彼女が裸になっている兄の胸に指先をつきたてたのです。指はみるみるうちに吸い込まれました。その瞬間から、兄の体は干からびていき、最後にはミイラのようになってしまったのです。

その時の兄の恍惚として、それでいて苦悶にみちたあの顔は忘れることはできません。

あわてて、部屋に入ったのですが、いつの間にか兄の彼女は消えてしまったのです。

そして、つい最近なのですが。

その兄の彼女とそっくりな女性を街で見かけました。

その少女は三十年前となんらかわらぬ姿をしていました。

あまりに似ていたため、本人ではないかと思われましたが、もうあれから三十年もたちます。ですが、その女性は兄を死にいたらしめたあの人と何らかの関係があるとおもうのです。

神宮寺さん、その女性を探し出していただけませんか。


依頼主の女性はそういうと一枚の古びた写真を取り出した。

その色褪せた写真を受けとると那由多はじっとみつめた。

写真にはセーラー服を着た地味な雰囲気の少女が写っていた。


「わかりました。お受けしましょう」

にこりと微笑み、那由多は承諾した。

「ありがとうございます。こんな話、どこにいっても信じてもらえなくて……神宮寺さん、よろしくお願いします」

目をうるませ、依頼主の女性は礼を言い、事務所を後にした。


愛用のスマートフォンを取り出し、依頼主から借りた写真を撮影する。

その画像を義眼の王こと通称ウォッチメンに転送した。


それからしばらくして、那由多がおやつ代わりの牛丼特盛り汁だくをかっこんでいると、ウオッチメンから返送のメールが届いた。


割りばしをくわえながら、那由多はその返信メールを見た。


また、面白いことに首をつっこんでるな、神宮寺。たしかに写真の人物とそっくりな少女が近くの高校に通っているようだ。ついでに関係ありそうな写真をみつけたのでいくつか一緒に送っとくよ。


送られてきた数枚の写真を見て、那由多はかの尊敬する名探偵金田一耕介のようにぼりぼりと頭をかきむしった。

「なるほど、こいつは面白いな」

と一人呟いた。





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