第52話 公開告白
運命を変えたあのプロポーズから早いもので1か月が経っていた。
その中で大きく変わった事といえば俺と新菜の微妙な距離感だろう。
困難な状況から晴れて恋人同士になったのだから、いつもラブラブでべったり……とはならないのが恋の難しいところだ。
俺も新菜も兄と妹の家族関係から、突然異性として意識してしまったのだ。
俺が一時的に如月家から籍だけ抜こうとしたものの、それは両親にも新菜にも許してもらえなかった。
今もこれからもずっと家族なのだからと……
「お兄ちゃん!早く支度しないと遅刻しちゃうよ」
「もうそんな時間かよ。昨日夜更かししたのがまずかったな」
「進路をまだ決めてないのは、お兄ちゃんだけだからね。日本に残るかアメリカに帰るかも……」
「そんな心配そうな顔するな。それより……そろそろお兄ちゃんはやめてもいいんじゃないか?」
「だって〜お兄ちゃんって私の中では名前なんだよねー。それに勇樹さんとか勇樹とか勇とか……意識したら恥ずかしくて言えないよ」
言ってるそばから頬をピンク色に染めて照れる姿は破壊力抜群だった。
そんな姿に見惚れていると……あ、時間!!
「新菜遅刻するぞ!」
「きゃーーー!急げーーー!」
こんな光景は昔と変わらない。
「如月先輩おはようございます」
「勇樹くんおはよー」
「新菜ちゃんおはようー」
「おーす!」
「おはようー。それにしてもお兄ちゃん人気者になったよね〜。前は私の方が人気あったんだけどなー」
「なりたくてなった訳じゃないぞ。ガールズコレクションに出て、マスコミがーーあっ!」
しまった。自ら地雷を踏んでしまった……
「そうだね……マスコミがね……」
「に、新菜?新菜さん?にーちゃん?目が怖いよ……ほら!スマイルスマイル!」
「誰のせいだろうねー?誰かさんが有名モデルにテレビ番組で公開告白されたからじゃないかなー?勇樹くんにはスーパー可愛い彼女がいるはずなのになんで告白されるかなー?かなー?かなー?」
語尾を何度も言うの流行ってるの?
可愛いさと怖さが同居して不思議な気分を味わう羽目になるとは。
「でもそれは俺のせいじゃなーー全部わたくしめのせいですごめんなさい」
「よろしい!」
これが俺たちのいまの力関係だ。
先に告白した惚れた者の弱みという奴だろう。
少しだけ…いやだいぶ?新菜が日を増す事に強くなっている気が……
問題のモデル【SAYAKA】
ガールズコレクションで共演させてもらった、モデル界の大先輩だ。
ドラマや映画、CMと見ない事はないほどの人気絶頂モデルが、バラエティー番組で俺に公開告白してきたのだ。
なんでもガールズコレクションで共演した際に一目惚れしたとかで、彼女の事務所や俺が入ったばかりの事務所には取材の申し込みが殺到している。
公開告白の際には新菜と家で夕食を食べていたから、もう大変だった。
飲んでたスープを口から吹き出し、向かいにいた新菜の顔にぶちまけたのは記憶に新しい。
その後の1週間は地獄のような羞恥心との戦いになる罰ゲームがあった事だけ伝えておこう。
もうお婿にいけない……
番組では現役の高校生とは言わず伏せていたけど、今のこのメディア社会で情報を隠す事など不可能に近かった。
最初のうちは通っている学校の在学生で噂になり、挙げ句の果てには他校の生徒へと伝わっていくスピードは近所のおばさんの井戸端会議並に早かった。
新菜との仲は妹だけど恋人という不思議な関係を在学生も先生も暗黙ルールとして受け入れてくれていたので問題なかったけど、芸能人が告白するんだから恋人がいても告白して自分の気持ちを伝えようみたいなブームがおきてしまい俺は人気者になってしまったのだ。
業界人に告白出来るチャンスなんてなかなかない最高の思い出作り?
この話題になると新菜のプンプン顔が炸裂するのは必然だ。
「で、でも新菜のファンも増えてるんだろ?事務所にファンレターがすごいって聞くぞ?」
「それはお兄ちゃんもじゃない。いっそ私達の関係を公表しちゃおうか?」
「それはやめてくれ。どこかのリアルバラエティーみたいに公開したり、パパラッチ的な事をされたらそれこそプライバシーがなくなるし、イチャイチャだってできなくなるぞ?……ん?どうした?」
「そんなハッキリと目の前の彼女に向かってイチャイチャできなくなるなんて言わないでよ……期待しちゃうじゃない」
「ふーん。期待しちゃうんだ?新菜嬢は期待してしまうんだね?」
「お、お兄ちゃんのおたんこなす!」
まるでお酒を飲んでいるのかと思うくらい顔を真っ赤にしながら両手をブンブンさせている姿はまるで幼稚園児のようだ。
普段から落ち着いた感じの美少女がこんな仕草をしたらそのギャップ萌えは堪らない。
学校に着く頃には俺たちは茹でだこのようになっていた。
「へいそこの夫婦!イチャつくのは家でやってよ!」
「まだ夫婦じゃない!」
後ろを振り向くとニヤついている結衣の顔があった。
その顔ムカつくなー。
「まだ?まだね〜。あー暑い!10月なのになんだか暑いよー。熱いかな?アツアツかな?」
「新菜行こうか?」
「そうだね」
「あの……ちょっとふたりとも……」
久しぶりの勇樹のミスターゼロ時代のスキル【スルー】が発動され校門には寂しい少女がひとり立ち尽くしていたそうだ。
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