第49話 自然体

 「では作戦会議を始めます!よろしくお願いします」


 「……よろしくお願いします」


 返事をためらった為に新菜が睨んでくるので仕方なく挨拶をした。

 現在の時刻は午後の20時。新菜とふたりで作戦会議が開かれるところである。

 そんなにたいそうな事ではないのだが……


 「まずは勇くん報告をお願いします」


 そんなテンションでずっといくの?ほんとに?


 「執事作戦はある程度の効果はあるけど、授業中はいろいろ失敗だった」


 「具体的には?」

 俺の返事に急に不機嫌な顔を見せてくるからちょっと怖い。


 「授業中に…その…」


 「ほら!モジモジしないでハッキリと!」

 さらに機嫌が悪くなってないか?


 「授業中に耳に息を吹きかけてきたり、腿を触ってきたり……お昼休みまで辱めを受けました」


 そう。新菜との昼食まで繰り返され美香を帰すまで行為はずっと続いていたのだ。

 なぜか急に新菜が静かになる。てっきりもっと怒られると思っていたので、拍子抜けであったが理由はすぐに分かった。


 「勇くんは私の代理彼氏さんですよね?これは浮気ではないのでしょうか?」


 うーんそうきたか。普通に怒ってくれた方が気が楽なんだが……


 「私へのご奉仕とお詫びが必要です」


 両手を広げて抱きしめてと言わんばかりなので、恥ずかしくて一瞬ためらうがここはのってやろう。

 そもそも好きなんだから役得である。


 どうせならとちょこんとクッションに座っている新菜の後ろへ回って後ろから軽く抱きしめてやるとーーー

 予想外の行動で動揺したのだろうか。あふあふと小刻みに震えながら耳が赤くなっている。


 耳元で「ごめん」と優しく囁くと、「ヒャッ!」と声を上げて涙目…というよりうるうるした目をしている。


 「こ、これくらいで今回は許してあげる」


 言葉と行動が逆な気もするけど、ひとまず許してもらえたようだ。


 まだ頬を赤く染めているけど気を取り直してこう語る。


 「明日からは私と腕を組んで学校に通います。彼氏だから当然だけどイチャイチャしても構いません」


 言ってて恥ずかしいならやめた方がいいのに。そこまで俺の為にしてくれるのはありがたいよほんと。

 でも好きな人が出来た時の為に自分を大切にするんだよと

兄らしい事を心の中で思う。


 「仲のいいところを見せつけてやればしばらくは誰も寄ってこない予定です」


 いやいやいやさすがに鈍い俺でもそんなはずないと分かる。もしかしてーーー


 「代理彼氏だからって兄である事に変わりはないんだからもっと甘えてきてもいいんだぞ?それが妹の特権なんだろう?自然体で俺たちの仲がいいならそれが一番だよ」


 「それに……」


 「それになあに?」


 「俺はさ……お兄ちゃんって呼ばれるのが最強だと思っている。俺にとっては恋人よりも妹って存在の方がその…一番大切なんだよ。今までも…これからも……」


 あー正直に言っちまった…初恋の事以外は。


 「そ、そんな言い方は反則だよ…お兄ちゃん……」


 久しぶりにあどけない顔で頬を赤く染めて何かを訴えるような目を向けるがその瞳は優しく見える。


 うーこれだ!これが最近なかったんだ。いまいち調子が狂っていたのもこの感情を忘れかけていたのも、すべてはお兄ちゃんがなかったからだ。

 こんな事に力説する俺はほんとにシスコンだとあらためて思う。


 「じゃあ明日から成功方で行くぞ」


 「そうだね。お兄ちゃん?」


 「んっ?」


 「だーいすき!」


 やっぱり新菜は可愛い。俺はどこへ向かっているんだろうか。



ーーーー次の日の朝


 

 今日も注目を浴びて登校している。

 今回の理由はわかっている。

 周りの視線などまったく気にもしないで、新菜が俺の腕にしがみついている。

 そして俺たちは談笑しながら学校へと歩いているけど、あまりにも自然にふたりで和やかなムードで歩いているので暖かい視線を感じる。


 「おはよう〜!今日も仲がいいね!」


 「おう!大好きだからなぁ」


 嬉しくてつい本音が出てしまった。

 

 「もうお兄ちゃんてば…私の方が好きだと思うよ?」


 「えっ!?」


 冗談だとわかっていても顔が熱いのを感じる。


 「ちょっとふたりとも〜私もいるんだけど〜?」

 結衣がふてくされているようだ。


 「来月の文化祭のベストカップルコンテストに兄と妹で出て見たら?ミスター、ミスコンテストとダブル登録出来るみたいだよ?」


 「そんなのあるのか?」

 見せ物にはなりたくない気もするけどちょっと出てみたいと顔を見合わせる俺たちだった。


 学校にそろそろ着くというところで、俺たちの歩いている横に1台の車が止まる。


 「いたいた!やっと捕まった〜」

  車から降りてきたのは俺たちの写真を撮ってくれて今回のゴタゴタに巻き込んでくれた内の1人だ。


 「お願い!助けて!」


 「また写真撮るなら今度は事務所を通してください。親がいうには所属してるらしいので」


 「許可は撮ってある!明後日のガールズコレクションにふたりで出て欲しいの!」


 もっと大事になる気しかしないと思う思いつつふたりでならいいかとアイコタクトをする兄と妹だった。

 

 

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