第46話 誰なの!?

 校長室でかなり時間を取られたため、本来であればホームルームが始まる時間だろう。


 「私も雑誌買ったわよ。ふふ。でもすごい反響だから学校で気をつけてね」

 姫野先生が無邪気な顔で言ってくる。


 「俺には関係ないと思うけど」

 人気があるのはあくまでも新菜であって俺ではない。

 髪も切ってさっぱりはしているものの、2年以上『ミスターゼロ』と呼ばれていたのだ。

 そう簡単にみんなの態度が変わるとはとても思えない。俺自身もどこまで自分が変わっているのかわからないくらいなのだから……


 教室の前まで来ると姫野先生が大きく深呼吸をしている。そんなに緊張する事でもないだろうに……


 ガラガラ!!


 ドアを開けるとーーー

 「先生遅いよ〜!」

 待たされた生徒達がボヤいているようだ。


 先生の後に続いて俺が教室に入って行く。


 「「「えっ!?」」」

 

 「「「キャーーーーー!!!!!!!」」」


 「きゃー!なんで王子様がうちの学校にいるの!」

 「あの雑誌の人だ!!」

 「マジやばい!!マジやばい!!」


 クラスの女子が一斉に騒いだために、パニック状態になってしまった。

 こ、こえーよ……何が起こったんだよこれ……

 相変わらず自分をわかっていない勇樹に理解しろという方が間違っているのだろう。


 「先生!王子様はうちのクラスの転校生ですかー?」

 「こんな時期で珍しい!」


 ん?転校生って誰の話してるんだろう?

 王子様って俺のことか?馬鹿にされてる気分だな。


 「時間も押してるし席に着いて」

 

 自分の席へ向かう途中に結衣と目が合った。

 なんだか複雑な表情を浮かべて心配そうにこちらを見ている。


 「先生ー!自己紹介なしですかー?」

 誰かが言っているが本当に俺だと気付いてないのか?

 ばれたらと思うと不安で仕方ない。


 「みんなが知ってる人よ。自己紹介なんて必要ないでしょ」


 自分の席に着くとみんなが不思議そうな顔をしている。いー加減気付けよ。結衣に目で助けを求めると……


 「みんな聞いてー!この人は私の友達のみんなも知ってる勇樹くんだよー!」


 「ちょっと結衣抜けがけー!」


 「違うって!だーかーらー!みんながミスターゼロって呼んでた勇樹くんだってば」


 クラス中が一瞬静まり返ったーーーー


 そして……


 「「「「えええええええ!!!!!」」」」


 クラス中が大絶叫となり、隣のクラスの教師が注意しに来たくらいだ。


 ほとんどの生徒がまだ疑いと好奇の目を向けてくるが今までとは何か反応が違う気がする。

 校長や担任の姫野先生から聞いていないのだろう。授業にやって来た教師でさえ変わりはてた勇樹の姿に気付かずニコニコと視線を向けてきた。


 最初の休み時間がやってくるとーーーー


 結衣が急いでやって来た。


 「あの雑誌買ったよー!やっぱり勇樹くんは髪の毛切ると……うわっ!何みんな?」


 気付けば俺の机の周りにはクラス中の女子が集まっていた。よく見ると廊下にも他のクラスの生徒が大勢集まっている。恐らく噂があっという間に広まったのだろう。

 ああ……ほんとにあれを試す事になってしまうとは……


 前日に新菜から対策方法を伝授されていたが、あまりにも恥ずかしくて家で練習するたびに悶え苦しんでいた。ダメもとでやってみるか。


 「みなさん落ち着いて聞いてください。僕もこれだけかわいい子に一度に囲まれると胸がドキドキして耐えられないよ。頼むから今日だけはそっとしておいてくれないかな?」


 えーと……最後にとびきりの笑顔だったっけ?


 みんなを新菜だと思って最高の笑顔を見せる。

 うぅ……恥ずかしくてたまらない。どんな罰ゲームだよこれは。恐る恐る周りの様子を伺う。


 「はぁ……はい王子様」

 「そんな目と笑顔で言われたら……」

 「騒いでごめんなさい。かわいいだなんて……」


 うっとりしながらこちらを見つめてくる。

 なんだっけ?ここで追い討ちの必殺技だっけ?

 照れながらウインクすると…全員が心ここにあらずといった感じでようやく落ち着いたようだ。

 もうこれ以上はムリ。絶対ムリ。初日からこんなに疲れるとは……


 その後の勇樹のクラスはあまりまともな授業にならなかった。

 女子は勇樹の方をチラチラ見ているし、男子は突然パッと現れた美少年がクラス中の女子の視線を独り占めするのだから面白い訳がなかった。その為、男子からは妬みの視線が向けられまともに黒板を見ているものは勇樹だけであった。


 お昼休みになると同時に勇樹は素早く食堂へと駆け出して行く。

 別にお腹が特別空いているわけではなく、ここで新菜と一緒に昼食を取る約束をしていたのだ。

 ゆっくりしていたらまたみんなに囲まれてしまうからな。いま一番安全なのは、新菜と一緒にいる事だろう。


 勇樹の感は当たっていた。お昼を一緒に取ろうとクラスの女子が消えた勇樹の姿を探しているし他のクラスの生徒はようやく噂の正体を一目でも見ようと押しかけていたのだ。


 いつも一緒にお弁当を食べていた結衣が大勢から問い詰められていたのは言うまでもない。


ーーーーーー


 「それで……みんなの反応はどうだったの?」

 「反応も何も……もうお手上げだよ」

 両手を上に上げてポーズを取った。


 「しかも昨日のあれをやる羽目になったし」

 「うそ!ほんとにあれやったんだ?あはは」

 「どうゆう事だよ?」

 「あれは……個人的に私が見たくてやっただけ?」

 舌をペロっと出していたずらっぽく笑う新菜。かわいいじゃんか…


 「マジか!本気で全部やっちゃったよ……」

 「うわー本場のあれ見たかったなー。でもちょっと残念。私だけが見れる特権かなってちょっと思っていたから」


 騙されたのにいじらしい事を言われ何も怒れなくなってしまった。ずるいだろそれは。


 「そっちはどうなんだ?」

 「こっちはあんまり。お兄ちゃ……勇樹くんの事を聞いてくる子が増えたくらいだよ。入学して来た時にもう経験済みだから大丈夫かな」


 やっぱり慣れていると余裕があるもんだな。

 関心していると周りの気配が変わっている事に気付いた。

 食堂の窓際のテーブルで食事を取っていたのが、いつの間にやら食堂で俺たちは注目を浴びていた。


 「やっぱりふたり揃うと絵になる〜」とか聞こえてくる。

 やっとリラックス出来たと思ったのも束の間か……


 野獣たちが開放される放課後が怖いな。手を打っておこうと勇樹はラインを一つ入れたのだった。

 

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