第45話 雑誌
夏休みも終わって今日から学校が始まる。いろいろな意味で第2の人生のスタートだろう。
もちろん髪はしっかりとセットしているし、前よりは野暮ったさも抜けて少しはましな姿になっていると自分では思うんだけど人の評価なんて俺にはさっぱりわからない。
そして……「ほら!勇樹くん学校行くよ!」今日から新菜と一緒に登校するのだ。
これが一番緊張するかな。今までも何度か一緒に登校することはあったけど、妹としてではなく代理彼氏としての初登校だ。もちろん親しいやつら以外には話す気はないけどな。
勇樹と新菜が並んで歩いていると、なんだか以前にもまして視線を感じるんだが……
さすが新菜と言うべきだろう。男女を問わず俺たちが通り過ぎるたびに熱い視線が送られてくる。
なんだかこれでは俺まで注目されているようで勘違いしてしまいそうになるな。
あと、さっきから聞こえてくる「あの人たち……」とか「見てあの二人って……」と聞こえてくるのはなんだろう?
いくら新菜が人気があるにしても、同じ学校の制服を着ていない他校の生徒や中学生から大学生くらいまで注目しているようだ。
それは学校が近づいてくるとさらに騒がしくなっていく。いったいどうしたってんだ?
「なあ新菜って毎朝いつもこんなに注目を浴びているのか?」
「今日はちょっと様子が違うけどなんだろう?」
なんだか嫌な予感しかしないな……
学校へ着くと校門には担任の姫野先生が立っていた。
「ようやく来たわね。あなた達ついてらっしゃい」
ただでさえ注目を浴びていたのが、先生に連行されていくのだから嫌でもさらに目立ってしまっている。
まさか…俺の初恋の事がバレて血縁なんちゃらとか説得されるんじゃないだろうな。
でもこの想いは本人にさえ気付かれていないのだ。
連れて行かれたのは校長室だった。
「お兄ちゃん…どうしよう…」
「心配するな。なにかあっても新菜だけは学校に残れるようにするから」
心配からだろう。自然とお兄ちゃんと言ってくる新菜の表情は今にも泣きそうになっている。
両親からは問題を起こした時はすぐにアメリカに帰ってくるように言われていたので、親への連絡が入ってない事を祈るほかない。
「とりあえず座ってくれ。なぜ呼び出したかは…わかっているかい?」
相変わらずハゲ散らかしている校長の頭を見つめながらふたりで頭を横に振る。まったく心あたりがないのだから。
「ご両親とはすでにお話は済んでいるよ」
「「えっ!?」」
ふたりして絶句してしまった。
終わった……一番恐れていた事が現実になってしまったのだ。
「無断でアルバイトをしている件だけど、うちの高校とも契約して貰ったので特例ではあるが問題ないよ」
「お言葉ですがアルバイトなんてしていません!!」
「ふむ。どうやら非常に活発なお母様が進めていたのだな。これを見てくれたまえ」
テーブルに1冊の雑誌が置かれている。
ティーンエイジャーに絶大な人気を誇る、女子向けのファッション雑誌だった。
「「えーーーーーー!!!」」
俺たちは絶叫してしまった。
雑誌の表紙を飾っているのは、紛れもなく俺と新菜だった。
それはふたりで渋谷に出かけた際に、雑誌者の人が撮ってくれた写真だった。雑誌者の人には連絡をとって記念にふたりの写真をラインで送ってもらっていた。
「なんでもお母様の知り合いのモデル、ファッション関係の事務所と契約されたとか。そしてお仕事をする許可を出す条件としてうちの学校の入学案内のパンフレットおモデルになってもらうって事なんだが……聞いてなかったかい?」
あんの野郎……やっぱり嫌な予感が当たったな。うちの母はとにかく破天荒な性格で少し目を離すといつも周りを巻き込んで何かが起こる。父だけがコントロール出来るのだ。
「わかりました。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「いやいやむしろお礼を言いたいのはうちの方だ。プロのモデル以上のモデルになってもらえるのだから。あ、それからその雑誌は売り切れ続出で、君たちの反響がすごいと思うから気をつけなさい」
「君たち…ですか?なぜ僕まで?女性の雑誌ですし僕なんかが……」
「君たちふたりが契約したと聞いているが、詳しい事はお母様か事務所に聞いてみたらどうだい?」
「そうですね。では授業があるのでこれで失礼します」
はぁ〜。体の力が一気に抜けていくな。
新菜はいままでもモデルのスカウトなんて嫌ってほどあったけど、全て断っていたし母もモデルの話はまったくしていなかったはずだけど。
お正月に会った時にはひとりじゃダメとかなんとか言ってたから、てっきり友達とじゃないとダメなのかと思っていたけど。
なんで俺なんだ?陰キャラの俺がモデルなんて出来る訳ねーだろ。きっと新菜のマネージャーとかボディガードの代わりに無理矢理セットで契約させたのだろう。
こっちの身にもなってくれよ……
「なんだか面白いことになってきたね。勇樹くんと一緒の時間も増えるし。ふふふ」
「こんな状況でも代理彼氏扱いかよ。余裕あるな〜。俺なんか胃が痛いぞ……」
「それもあるけど〜今日はいろいろみんなの反応が楽しみで仕方がなくて」
何を楽しみにしているのか俺にはさっぱりわからないけど、きっとなにか今日は起こるのだろう。
俺は姫野先生と一緒に教室へ向かうのだった。
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