第42話 プライベートビーチ
「うわー!ほんとに穴場のビーチだね」
「ここはプライベートビーチのようなもんだからな」
俺と新菜は夏休みも終盤に入ってきた為、以前から約束していた海に来ている。
なんでもうちの両親の親友の別荘らしく、なんとタダで泊まってもいいって事だった。建物は洋風でかなり凝っている作りになっているので持ち主もそれなりの地位なのだろう。
まあうちの父親はスポーツ業界では大物だし、母親もファッション業界でも有名らしいので驚きはしないけど。
「あの別荘からしか、このビーチへ降りて来れないから船が来ない限りふたりっきりだね。うふふ」
やばい!かわいい……じゃなくて、なんだか先日のフレンチトースト食べたあたりから新菜が恋人みたいな言い回しを時々してくるようになったんだけど。
悪い気どころか嬉しい反面、俺の気持ちに気がついてしまい演技してるんじゃないかと思ってしまうな。
でも新菜は決して俺を軽蔑したりひやかしたりしない事をじゅうぶん知っているし、やさしく対応してくれてるのかも……
あーー!!もうあれこれ考えるのはやめよう。俺らしくもない。昔のミスターゼロと言われていた俺が、まさか恋で悩むなんて初恋って凄いんだなと思わず笑ってしまった。
「くくく」
「なんだかお兄ちゃん楽しそうだね?」
「約束通りの海にふたりっきりで泊まりで来れたんだから楽しいに決まってるだろ」
「お泊まり…」
ボソっと呟くと俯きながら顔を見られまいと後ろを向いているけど、耳が真っ赤だよ。ふたりっきりって自分から言ってきたのにほんと純情なんだから。
だけど…ほのぼのした気持ちも一瞬だった。
後ろを向いている為、以前に横浜で一緒に試着をして買った水着姿の新菜が!新菜が!
白い生地にハイビスカス柄の水着だったはずだけど、後ろから見るとビキニの下は完全に白い水着のように見えてお尻のラインが丸見えで……まさに破壊力抜群だった。
俺は暑さの為か水着の為か、くらっと…ほんとにくらっときてしまい鼻血を出してしゃがみ込んでしまった。
「お兄ちゃん!!」
心配して駆け寄ってくるけど…それって逆効果な気がするけど……
だってすごく水着姿が似合っているし夏休みの間にさらに女性らしくなって色気まで手に入れて俺の密かな想いをどうする気だよマジで。
「新菜はなんでも手に入れていくな」
「本当に欲しいものは手に入っていないけどね」
なんだか意味深な事を言ってるけど、水着姿で支えられると体が密着して今度は気絶しそうでいまはあまり考えられない。大事な事な気がするけど。
しかし妹を女性と意識した途端にこれとは…我ながら異性への免疫が弱いな〜。
同世代の男子はやっぱり彼女とかいるのかな?いままでの学校生活でも隣の席の女子達と話した事もないな。
俺から壁を作っていたのだから仕方がないけど、いま思うとわざわざ人との繋がりを絶っていた自分が恥ずかしいな。
いろいろな出会いを大切にしていけば俺も成長していたのに、もったいない事をしたもんだ。
夏休みが終わったらまずは隣の子の名前を覚えよう。
「お兄ちゃん落ち着いた?」
「ああ。ありがとう。考え事をしていたらおさまってきたよ」ほんといろいろ……おさまったうん。
「じゃあせっかくのプライベートビーチだし遊ぶか!」
「イエーイ!じゃあまずは…ビーチフラッグス!」
え?マジで?バカンス気分ってよりそれトレーニングじゃない?言い出したらきかないの知ってるからやるけど。
「じゃあこれくらいハンデね」
「そんなんでいいのか?もっといいんだぞ?」
「私の運動神経なめたら痛い目見るよ。ふふ」
「じゃあ賭しよう!勝ったら……うーん……」
なんにも思い浮かばないと思ったところで新菜が、
「なんでもひとつお願いを聞いてもらえる!」
これは絶対に負けられないな。特にお願いしたい事はないけど勝負は負けたくない性格なんだよ俺。
小学校の運動会や中学校の体育祭ではいつも1着だったんだぞ。誰も気付いてないかもしれんが。アメリカはスポーツのレベルが高かったけど頑張らず勝てたのはなんでだろうか?親の遺伝子?
「ハンデで私がスタートの合図するよ!レディー…ゴー!」
振り向きフラッグ代わりの木の枝の方を見るとーーー
新菜はえー!やばい!でも俺だって毎日お姉さん達とジョギングして鍛えてるんだ。
少しずつ差を詰めていくがまたしても………
ちょっと、そのビキニで、あんまり、激しく、動いたら、あかーん!まともに前を見れなくなってしまった。
「取った!取った!やったー!勝ったー!」
そんなに喜んじゃって、かわいくてなにも言えね〜。
「後でお願い聞いてもらうからね!」
なんだかドキ!っとするような笑顔が気になる。
なにをお願いされるんだ俺……
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