第39話 恋人つなぎ

 「ず、随分と早い到着だったな。待ってたんだが」


 「あら、待ってたにしては楽しくショッピングしていたようですけど?」


 この威圧感はなんだ!?そんなに海ほたるも一緒に行きたかったのか?ま、まさか薫もトイレを……!?

 それにしてもここまで来るのが異常に早過ぎるな。彼女はもしやスーパー◯ールでは?


 「家の者に大急ぎで送っていただいたので早く着きましたの」


 やっぱりお嬢様だな。きっとうちと同じようにメイドか執事に送ってもらったのだろう。俺も本当に急いでいる時はメイドに頼むだろうし…ただうちのメイドはーーその話はまた今度。


 「そんなに焦らなくても…でも結果論とはいえ、ひとりだけ置いてけぼりでごめんな」


 「その分は遠慮なくお願いしますから♡」 


 や、やばい。もともとモデルのような美貌に加えて今日の洋服は真っ白なノースリーブのワンピースだ。すごく魅力的に見える。さっきから新菜と同じくらいの注目を集めているのも頷ける。

 しかも普段から男性嫌いを全面に出していて俺にも控えめな性格は嫌いではないけど、今日はすごく積極的で少しドキドキしてくるな。なんでだろう?


 「そ、それじゃあみんなと合流するか?」


 「何を焦っていらっしゃるのですか?うふふ」


 なんでそんなに嬉しそうなんだ?そういえば薫ともゆっくり話す機会なんてほとんどないからな〜。意識すると緊張してしまうな。ははは……これが緊張ってやつか。


 「とりあえず待ち合わせするか」


 「その前に……なんでも聞いてくださると……」


 そんな丁寧に言われると、かしこまりましたと言ってしまいそうだよ。


 「ふたつ聞いてくださると嬉しいのですが……」


 「え!」


 「あ、図々しい事を言ってごめんなさい……」


 あんなに普段は強い生徒会長が俺の前ではこんなにお嬢さまされると、新菜を思い出してつい油断してしまった。


 「まあ…遠慮するな」


 「ほんとでございますか?」


 学校とは本当に別人だよな。新菜も家と学校では別人だったりするんだけどそこがかわいいんだよなー。

 いろいろ考えていると突然…左手に暖かくて柔らかいぬくもりが……ぬくもり?ぬくもり?えっ!?


 「アウトレットモールにいる間だけ手を……ダメでしょうか?」


 そんな上目遣いで言われたら断れる訳がないだろ。でも……これって……恋人つなぎだろう。新菜が好きなやつだ……新菜以外とするのは初めてだけど、心の臓が壊れてしまいそうです。はい。


 よく薫は落ち着いてられるもんだと横目で見てみると、おいおいおい!顔が赤くって普通はいうところだけどーーー

 

 顔が!顔が!沸騰してるぞ!

 よく見ると白い素肌までピンク色だけど大丈夫なのか?それを見ていると、女性って生き物がほんの少しだけ理解出来た気がする。すごく神秘的で繊細なんだな。


 「このままでいいからみんなと合流しよう」


 「はい……」


 付き合ってるわけではないけど新菜以外の女の子もかわいいところがあるんだな。


 そしてみんなにラインをしアーケードに集合をかける。どうやらすでに3人はすでにパンケーキを食べているらしい。

 さっきご飯を食べたけどよく食べれるな。女子の言う別腹ってほんとにあるんだな。


 薫も急いで来たので食事はまだらしいし、そのままお店で待ち合わせをする流れになった。


 店に入っていくなりーーーー


 『ぶぅほーー!』


 「きったねーなー結衣。何を吹き出してるんだよ」


 よく見ると新菜もぷるぷるしてるようなしてないような。

 先生は…笑ってる?考えてる事がよくわからん。飲み物を飲んで落ち着いた結衣が叫んでくる。


 「ど、どーゆー事!!ふたりは付き合いはじめたの?」


 何を取り乱してるんだ?新菜も深呼吸しだしたけど……


 「て!て!て!」結衣……ボキャブラリーなさすぎだろ。それとも何かのギャグか?

 新菜も立ち上がって近付いてくる。顔が無表情だけど…


 「痛い!イタタタ!」


 「さっきはあー言ったけど…なんかムカつく!」


 ほっぺたをつねられた。爪が食い込んでマジで痛い!


 なんで……あ!!


 薫と手を繋ぎっぱなしだった!!


 「公認……」

 薫!誤解を招くように呟くな!アウトレットにいる間だけの公認だろう!


 ーーーー事情を説明してようやくみんな冷静になりつつある。なんでそこまでみんな怒るんだ?まったく理解出来ないな。俺は悪くない!たぶん…


 それからは更に大変だった。手を繋いだままで全員のファッションショーに付き合わされたのだから。

 

 今日は女性のかわいさと女性の怖さを勉強した勇樹であった。

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