第37話 信じる心
海ほたるでの食事は……あまり記憶にないな。
新菜が俺の隣を譲るなんて今までなかったし、俺の隣にはいつも新菜がいるのが当たり前になっていたからな。
でも急にどうしたんだろうか?怒ってる訳でもなさそうだけど、シスコンの俺にはかなり辛い……
みんながいろいろお土産を見て回るらしいので、俺は階段を降りて海がよく見える先の方へひとりで行く。なんだろうこれ?説明を読むとどうやら東京湾アクアラインのトンネルを掘った時のドリルだか歯車だかみたいですごく大きい。
なんとなく気分転換にこっちを見に来たけど少しは気が紛れてきた。なんて考えているとーーーーー
「だーれだ?」後ろから目を隠された。
俺をあまり舐めるなよ。この柔らかい中にある暖かいぬくもり、そしてほのかに香るいい匂い。わからない訳がないだろ。
「俺の大事な可愛い新菜だろ」
「えっ!?」
振り向くとそこには初めて告白されたかのような耳までもがうっすら赤くなっている新菜が、あぅなど言葉にならない声を発していた。
「お、お兄ちゃんそんな答え方は反則でしょ〜」
いつもの照れた時に見せるぷんぷん顔がまたかわいいなぁ。今は以前と変わらない素振りを見せているけど……そんな事を考えていると新菜が腕を組んできた。
「えへへ〜」
なんだこれ?この無邪気な笑顔の方がよっぽど反則だろ。自然と俺の顔もしまりのないデレ顔になっているらしい。
「お兄ちゃん嬉しいのかな?ひょっとして……嬉しいのかな?」
ひやかすようないたずらっ子の顔をして、俺の顔を下から上目遣いで覗き込んでくる。なにを言われてもかわいい。
「…………」
「お兄ちゃん?今日の態度……ごめんね。でも信じて欲しいのは、昔も今もこれからもお兄ちゃんを大好きなのはずっと変わらないからね!お兄ちゃんの為にーーー」
「俺は新菜を信じてる。俺のためだって事もわかってるから……だから気にするな」
カッコつけてみたけどほんとはちょーさみしいよ〜。でもここは我慢だ。兄貴として立派になるためだ。
「ふたりっきりの時は甘えさせてね」
おいおいおい。理性がブッ飛んでしまいそうだけど、妹だぞ。
「当たり前だろ」余裕を見せろ俺。頑張れ俺。
「あ、いたいた!先生こっちにいたよ〜」
ちっ!いいところで結衣がやって来やがった。まあさっきまでより心に余裕があるから許してやろう。
「うわー!?これやばい!おっきいねー」
エロい言い方するなよ結衣。そんなキャラじゃないだろお前は。さっきのドリル?歯車?ほんとどっちだこれ?オブジェを指差している。
写真を撮ってあげようか提案すると一緒がいいと駄々をこねだした。
新菜が撮ってあげるとスマホを構えてる。そういえば女性と一緒の俺の事を撮るの初めてじゃないかな。
「じゃあいくよ〜」パシャ!
いいタイミングで先生が入ってきた。
「ツーショットの抜けがけはまだダメよ〜」
結局全員が交代で写真を撮って、いろんなポーズをしたり変顔をしたりーーーー
結衣がグループラインに写真をあげると同時にそれは起こった。
俺のスマホの着信音が鳴ると……
画面いっぱいに100個くらいの泣き顔の絵文字が!?
今度はカタカナで『シクシクシクーー』やはり画面いっぱいに入力されてる。
こ、怖いぞこれは。もちろん薫の投稿だ。あー結衣少しは気を遣えよ。これは仲間ハズレにされたと思ってるじゃないか。
うん?なになに…すぐ行きます。
!!!!!!!!
「薫がすぐくるって俺にライン来た」
「ああ……やっぱそうなるよね」
「そうだね」
「なんだか悪い事した気分だな」
ほんとは先生と結衣が無理矢理ついてきたので俺と新菜は被害者だぞ。その後は誘わなかったのだから同罪だけど……。などと後悔していると薫からラインが入ってきた。俺が悪いと思いついお詫びになんでも言ってくれとラインしたのでその返事みたいだ。地雷を踏んだ気もするが、いつも少し遠慮している薫の事だから問題ないだろう。多分……
「それでは遠慮なく♡」
うわ!遠慮しないのかよ。しかも♡ってなんだ?文章で初めて見たけど嬉しい気持ちと恐ろしさが同時にこみ上げてくる。
ずっと海ほたるで待ってる訳にもいかないので、千葉方面にあるアウトレットモールへと向かう。海ほたるパーキングエリアを出る際にさっきの男子トイレの話をしてみると…
「あはは、面白〜い!見てやろうじゃないの!」
結衣はやっぱり変なやつだ。得する事なんて何もないのにな。先生と新菜はまったく興味なく、むしろ怪訝な顔をしてすでに反対側を向いて対策をとっている。ちょっと安心したよ。
「ギャーーーーー!」
うぉー!ビックリした。結衣が恐ろしい声をあげているが、自業自得だ。なぜか変な事を教えるなと俺がみんなに怒られるがなんて理不尽なんだよ……少し俺はふてくされるけど、もうすぐアウトレットモールに着くので気持ちを切り替えよう。
アウトレットでは薫になにを要求されるのか。そっちがすごく気になる勇樹であったーーーー
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