第34話 ナイトプール

 ホテルの外はすでに日も落ちていい具合に暗くなっていた。勇樹は待ち合わせをしているプールサイドへと向かう。


 誰もまだ来ていない。やっぱり女子は準備とかに時間がかかるんだろうな。

 そういえばさっきチケットを見たら今回のナイトプールは有名女性ファッション雑誌の『ニャンニャン』がプロデュースしてるらしい。

 俺なんかが来て場違いじゃなければいいけど……周りを見ると今のところ女性しかいないし。


 「あ、いたいた。おっまったせーー!!」

 結衣相変わらずうるせー。元気なのはいいけど目立つからやめてくれ。


 3人がそれぞれカラフルな水着でやってくる。


 「わ、私達の水着姿、ど、どうかしら?殿方とご一緒するの初めてなので緊張しますわ」

 殿方って……薫のやつはいつの時代に生きてるんだ。男性が苦手なのは相変わらずみたいだ。


 「じゃじゃーん!真打ち登場。ふたりともひきたて……むぐ」

 新菜が張り切っているのにふたりとも邪魔するなよ。でも仲のいい友達できて良かったな。


 全員揃ったところで勇樹はあらためて思う。


 しかし……やっぱり俺がいるのは場違いだろ。写真をひたすら撮ってる女子ばかりだし。カラフルなネオンがキラキラしてて、シェルフロート?貝殻のフロートやらアイスクリームやら……おいおいあっちにはユニコーンに乗ってる大人の女子がいるぞ。ついていけないな……あ、落ちた。


 「ねえねえあっちにネオンで出来た並木道があるって!その先にミラーボールがあってメインのインスタスポットらしいよ!」結衣がはしゃいでいる。


 そんな趣味あったのか。そもそもここは本当にプールなのか?泳げないから全然いいけど。


 たしかに並木道はキラキラと輝いていて綺麗だ。他のグループの女子達もキャーキャーと騒いでるな。よく見ると騒いでるのは学生っぽくて、とにかく綺麗に写りたいのか落ち着いているのはOLのような気がする。別に胸の大きさでも判断はしてないが、落ち着いた感じの人達の方が大きいような……


 写真のメインスポットの順番待ちの間に勇樹は観察していた。連れの3人にも目を向けてみる。


 「あー!勇樹くんが私達の胸見てるー!」


 「やだお兄ちゃん……」


 「殿方……」


 そこは殿じゃないだろ。

 うんやっぱり結衣が一番小さいからうるさい人で正解だ。新菜達はOLじゃないけど。

 そんな馬鹿な事を考えている間に順番がやってきた。どうやら次の順番の人達が前のグループの写真を撮ってあげるようだ。


 インスタメインスポットでは俺が真ん中に入りしゃがんで後ろと両脇に女子3人がくっついてくる。

 み、水着越しはヤバいからやめてくれ。いろいろあたってるから……ほら写真撮ってくれてる女の子たちがヒソヒソ耳打ちしてるから。


 順番がだいぶ後ろの連中も撮ってないか?

 何枚かいろんなポーズで撮ってもらいようやく解放された。


 「あの〜写真いいですか?」次の女子グループが俺に声をかけてきた。

 後ろの順番の人が撮るはずなのに、並んでる間にケンカでもしたのか?まあいいか。


 「いいですよ」

 「「「やったー!!少しお借りします」」」


 新菜達に言ってるようだが、普通はスマホを貸さないだろ。それにスマホ持ってるじゃん。


 いろいろと誤解した勇樹の大きな大失敗である。腕を引かれ連れていかれる。


 なになになに。捕まって連行されてるみたいだ。やっぱりここは男子禁制で俺は突き出されるのか。勇樹の考えとは裏腹にメインスポットへと連行された。


 「じゃあ真ん中に来てくださいね〜。はい腰に手を回して〜。あ、もう少し下じゃないと……」


 うわー何が起こっているんだ。2人組の大学生風のふたりの腰に手を回してほっぺたにキスする…ふりをして写真を撮られる。


 「ありがとうございました!またね」

 手を振られウインクされる。


 「次は私達で〜す。今年はかわいい美少年BOYモデルを呼んでるなんてさいーこー!」


 え?何語を話しているんだ。喋り方が独特で聞き取れないぞ。

 ここで新菜が薫と結衣を引きずりながらやってくる。


 「やっぱりダメー!私のお兄ちゃんなんです!」


 「ミッションは半分成功?」

 薫と結衣が何か話しているがやっと解放されてもうどうでもいい。とにかくプールサイドまで逃げて来た。


 新菜のおかげで助かったな。怖い思いをしたので帰りたいがまだプールに入っていないので気は進まないけどフロートに座る。


 ひっくり返らないよな……

 パシャパシャと結衣が水をかけてくる。

 人の気も知らないでなにかけやがる!後ろからも水がかかる。なんだ?知らない女の子達が笑顔で「こっちも〜」とか言ってる。

 

 気付けばプールの真ん中に流されて写真を撮られてる。新しいタイプのイジメだろこれ。あ、ユニコーンも来た。俺もうユニコーンにでも乗って帰りたい……

 そう思った時にメインスポットの方から主催者のイベントのMCが喋りだした。みんな一斉にそちらへ向かう。


 今度こそ助かったみたいだ。それからは4人で少しだけ写真を撮って東京タワーを下から眺め俺はぐったりしながら苦い思い出を残して帰って行った……

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