第29話 江の島の思い出
「ごめん少し遅くなっちゃったよ」
「かなり早いと思うぞ?ただなんで薫と結衣までいるんだ?」
「薫さんは生徒会の用事で学校へ行くとお兄ちゃんが車に乗り込む所を発見して、結衣ちゃんは……なんで?」
「ひど〜い!勇樹くんに勉強教えてもらおうと思って新菜ちゃんに連絡入れたら先生に拉致されたと聞いたからでしょ!」
そんな偶然あるのかよ。
先生の車に乗ってから俺はすぐに新菜へこっそり連絡をした。またあらぬ疑いで妹に嫌な思いをさせたくないし嫌われたくないからな。
「そんなのどうでもいいよ。洞窟風呂入ろう〜!」
新菜がバシャバシャと音をたてて俺のところへやってくる。
「夏休みの初日なのにいきなり一緒に過ごせなくなるかと思ったよ」
泣き真似をしながら湯に浸かって俺の腕に抱きついてくる。
えっ!?たった数ヶ月前よりもさらに胸が大きくなってないか?
無意識に胸の谷間を凝視してしまった。
「育ち盛りみたい……」
温泉で火照ったのか、恥ずかしくてなのか可愛い顔がさらに初々しく見える。
「ほらほらここは他の方もいらっしゃるのですよ。礼儀正しくお入りなさい」
薫もそう言いながらも俺と背中合わせに張り付いてくる。
ちょっと待て。お、お尻がぴったりくっついてるって。わざと?わざとだよね?また新菜に怒られるじゃないか。
「うー」結衣が唸りながら何か考えている。
これ以上は必要ないから。すでに湯から諸事情により上がれないから。
結局のところ結衣は新菜の反対側の腕に絡みついて来て、最後に先生が前から抱きついてきたら完成と思いきや全員に剥がされた。
「教師と生徒はダメでしょー?」
「ドラマでもあったじゃない?」
「兄と妹もダメでしょー?」
「「アニメでもあったじゃん」」
「「「兄と妹でハモるな!!」」」
などとなんだかんだで楽しんでいる。
しかし4人の美女に囲まれて温泉に入ることになるとは人生わからないものだ。
ミスターゼロなどと呼ばれていたのが、遠い昔のように感じられてくる。
「そろそろ夕日が沈む頃だよ。上の外のプールからサンセットを眺めに行こう」
上へ移動すると同じようにサンセットを眺めようと何組ものカップルが水中でくっつきながら浮かんでいる。
ちょうど端っこの一角だけスペースが空いていたので5人で移動する。
何度も言うが俺の連れは全員が美少女と美人だ。
そんなグループが俺みたいなブ男で怖い顔をしている俺に全員がはべっていれば、他のカップルもビックリして当然だ。
今の俺は顔が全開なのだから。
勇樹の考えていた通り案の定、勇樹の顔を見たカップルの女性たちが熱い視線を送ってくる。
もちろん勇樹の美少年顔を見たいが為に……
勇樹の周辺だけが異様な雰囲気になっている。
ひとりの美少年が4人の美少女、美女に水着で囲まれているのだ。
まさに『ハーレム』状態である。
中にはドラマの撮影かと疑うものさえいたようだ。
やがて夕日が沈むと勇樹が決意するように語り始めた。
「綺麗な夕日だったな。みんな今までありがとう」
「えっ!?なんでお別れみたいな事言ってるの?」
「なになに!?ヤダ、やめてよ」
「冷静になっていただけませんか?」
「昇天するにはまだ早いわよ」
しょ、昇天はどうかと思うがそれぞれが俺を心配して言葉をかける。
「こんな俺にも素晴らしい仲間が出来た事、本当に感謝してる。だからもっと前に進もうと思う。俺がどんなに不細工でも構わない。髪も切って心機一転頑張ってみようと思う。人間関係もうまくいくように……。だからこれからもみんなの力を俺に貸してくれ」
みんなが呆然とする中、勇樹は新たな成長のためさらなる一歩を踏み出して行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます