第26話 終業式の恋バトル
今日は1学期の終業式だ。
授業がないのに学校に来る必要あるのかよ。
勇樹は面倒な事は相変わらず嫌いである。
しかし女子達は違っているらしい。
「夏休みになると会えなくなるじゃん!連絡するから夏休みも一緒に遊ぼうね」
教室で結衣が何を焦ってるのか訴えてくる。
夏休みも何も一緒に遊んだ記憶なんてそもそもないぞ?
「受験に向けて夏季講習とか行かないのか?」
「うちの親は諦めてるから……それに進路がまだ決まってないし。勇樹くんは大学行くの?]
「アメリカの大学に行くか、日本の大学に行くか決めてないな」
「ア、アメリカに戻っちゃうの?」
「なんだ?俺がいないと寂しいだろ?」
終業式だし珍しく冗談を言ってみる。
「や、やだよ……」
『え、え、えーーーーー!泣かせてしまったぞ』
どうするんだよこれ!?
結衣の仲良い仲間達が俺を睨んでいる。
ジェスチャーで指示がくる。
ん?抱きしめて?なんだ?キス?
無茶振りするな!!
「少なくても新菜が卒業するまでは多分日本いるけどな」
「ほんとにー!驚かさないでよ」
驚かせた気はまったくない。
むしろこっちがびっくりしたよほんと。
そろそろ終業式の為に体育館へ移動する。
体育館では毎度退屈な挨拶が繰り返されていた。
次は生徒会長の薫の挨拶だな。
いつもながら俺といる時以外は無表情だが、凛々しいな。
いつもこの感じなら憧れの存在ってのもまんざら嘘じゃないんだな。
おっ!?なんだかこっちを見たぞ。
俺が注目浴びるからあまり見ないでくれ。
話している間もずっと俺の方だけを見ている気がする。
そろそろザワついてきたからほんとやめてくれ。
「夏休み中も高校生として自覚を持ち、最後の夏を思い出に残る素晴らしい恋をしましょう」
おいおい!?最後の方は違うんじゃないか?
教師達が慌てて薫を引きずり下ろしている。
最近では愛嬌がある(俺といる時だけ)生徒会長だとさらに人気が出ているらしい。
もうすぐ終わりかと思われたその時、1年生の列の方が何か騒がしい。
「なんで付き合ってくれないんだよ!」
「私は兄以外の男の方が苦手だし興味ないのです」
「ミスターゼロのどこがいいんだよ!それに兄妹じゃ恋愛対象にならないじゃないか!」
「あなたに兄をどうこう言う資格はありません。兄は決して他人の悪口は言いません。思いやりがあるのです。兄は理想の恋人です」
錯乱した男子生徒がやはり教師に引きずり出されていく。
どこから突っ込めばいいのかわからないな……。
最後に気になるような事を言ってた気もするが、目の前で妹に告白してるところを見て動揺している為、頭に入らなかった。
混乱に乗じて新菜の近くへ行くとすぐにかけよって来た。
「夏休み前になって最近特に多いんだ。でも怖かったよ〜」
俺の胸元へと駆け寄ってくる。
頼むからみんなそっとしておいてくれ。
「先生、新菜が落ち着くまで保健室で休ませてもいいですか?」
許可を取るとふたりで保健室へと歩いて行く。
「いつもの事だから全然大丈夫なのに」
そう言っている新菜の肩が小刻みに震えている。
しっかり肩に手をかけて引き寄せ俺は言う。
「妹に一生優しく出来るのはお兄ちゃんの特権なんだぞ]
「なにそれ?」
ふたりで笑い合った。
終業式に出席しているため先生もおらず保健室は静かだった。
「お兄ちゃんのいる学校に入れてほんと良かった」
「俺も前より学校が楽しく感じてきてるし新菜のおかげだな」
その感情は事実だった。
2年間の高校生活よりも、この数ヶ月の方がいろんなものを勇樹にもたらしてくれたのだ。
「エアコンが効いてて快適で眠くなってきちゃうね」
ベッドに腰掛けていた新菜が布団に入りこんで横になっていた。
その時だった!!!
「えい!」
俺の腕を引っ張り布団に連れ込まれてしまい、抱き合うような形になってしまった。
「小さな頃はよく一緒に寝たねよね」
「新菜が寂しいから俺の布団に入り込んでただけだろ。髪に何かついてるぞ」
抱き合う形で新菜の髪についているホコリのような物をつかもうと手を顔の近くへ持っていった。
不思議とこういった時は必ず何か起こるものだ。
保健室のドアが勢いよく開いた。
「ヤッホー!新菜ちゃん大丈夫〜?」
「私の挨拶の後になにかあったようですね」
「如月くん妹さん落ち着いたかな?」
結衣、薫、なぜか俺の担任の女教師まで一緒に現れた。
「「「なにやってるのーーー!」」」
3人が同時に顔を真っ赤にしながら叫んでいる。
あ。。。。穴があったら入りたい。。。
あ、布団に入ってるじゃん俺……。
伝説の『妹に手を出した事件』であった。
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