第22話 待ち合わせ

「終わったーーー!」

全てのテストが終わると結衣が両手を上げてガッツポーズするように一番に叫んでいる。


「ある意味お前の場合はほんとに終わってるかもな」


勇樹がすかさず突っ込みを入れる。


「ちょっと!酷いじゃない。確かに終わった気もするのは事実だけど……それに……お前じゃなくてちゃんと結衣って呼んで!」


少し上目遣いで甘えるような声を出している。


どうも校門での出来事があってから、怒ってるような甘えてくるような……少し情緒不安定なのかもしれない。

少し優しくしてあげなきゃいけないな。


「結衣悪かったな。俺に出来る事があればなんでも言ってくれ」

「えっ!?そんなすぐ結衣って……なんでもって……」


結衣は顔を赤らめながら天井を見て呟いて妄想している。


『これはやばいな。末期じゃないか』

何の末期かは不明だが、自分のせいだとは少しも思わない勇樹であった。



今回もテストの為に学校が早く終わったので、新菜と一緒にランチを食べる約束をしている。


今回は東京ドーム近くにあるシュリンプ専門店を予約していた。

新菜は海老が大好きなのである。


校門だと新菜が人気で囲まれてしまう為に、駅で待ち合わせをしているので急いで向かう。


駅でも同じなんじゃないかと嫌な予感がする。


駅に到着するとなんだか人だかりが出来ている。

まさか……


「ちょっと離れなさい!」

「待ち合わせだからどいてください」

「みんなどいてー」


人混みをかき分けてなんとか中心にたどり着く。


「なんで3人いるんだ?」


新菜を守るように生徒会長が、そして2人を守るように結衣が周りを牽制していた。


どうやらこういう事らしい。

新菜が駅で待っていると他校の生徒がナンパしてきたらしい


俺以外の男性が苦手な新菜が困っていると、生徒会長の天城薫が登場。

生徒会長が説教をしようとするも美少女が2人に増えてしまった事で、さらに人が集まってきてしまった。


そこへまたまた偶然通りかかった結衣が2人を庇ったと……


とりあえずこの状況をなんとかしないとな。

3人ともかなり人気がある事に改めて思い知らされたし。


「俺の彼女たちを困らせないでくれ」

「おいおい冗談は顔だけにしろよ。こんな可愛い子達がオタクっぽいお前の女な訳ないだろ」


はぁ……いつもこれだ。

新菜の方を見ると頷いている。


仕方なく前髪をかけ分けて新菜の考えたセリフをいつも通り棒読みする。


「ジブンノカオヲ、カガミデミテカライエ」

あー恥ずかしいセリフだ。今時ドラマでも言わないぞ。


しかし効果があったのか驚きの表情と共に人が一斉にいなくなっていった。


「そんなに俺の顔って怖いか?」


新菜と結衣が苦笑いをしている中、生徒会長が驚愕の表情を浮かべている。


「やっぱりそんな俺って怖い顔してるのか……』

「あの……その……すごく……」


さらに自信をなくしていく勇樹。


新菜と2人で出かける時はいつもこんな感じだ。

人の顔見て怯えるなよほんと。


しかし勇樹は気付いていなかった。

男どもが諦めていく後に、美少年の勇樹を見て女性達が囁きあっている事に。


その時は当然のように新菜が立ちはだかるのだ。

誰も天使のような美少女と張り合う者などいなかった。


俺にはこんな可愛い妹がいるから別に怖がられてもいいけどな。


「ところで…そこのふたりは偶然じゃないよな?」


「い、いやー偶然って怖いね」

結衣の奴目を逸らしやがった。しかも嘘が下手すぎる。

でも情緒不安定だし仕方ないな。


「偶然じゃありません」

「じゃあ生徒会長はーーーーー」

「か、薫です……生徒会長ではなく薫ですわ」


顔を見せてビビらせてしまったらしい。

いつもの上からの態度ではない。


「偶然じゃないならどうして一緒なんだ?」

「新菜さんに次期生徒会長に立候補していただけないかと探していたんです』


それで声をかけようと思い近づいて行ったらこんな事になってしまったようだ。


「私は生徒会には入りません。兄との時間……いろいろ忙しく時間に余裕はありませんので」

「わかりましたわ」


案外あっさり諦めてくれたようだ。


「じゃあ俺たちはーーー」

「「みんなでランチしましょう」」


やっぱりこうなるのか……

新菜とのふたりだけの時間を奪われ少し元気がなくなる勇樹であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る