第21話 テスト

結局勇樹はいつものようにテスト勉強など一切しなかった。

ただし普段まったく勉強をしていないわけではない。


課題を出されれば家でしなくてはならない。

そして金曜日の夕方に2時間だけメイドが家庭教師役も行なっている。


ほんとは家庭教師など必要ないのだが、メイドとの話はまた今度。


テスト当日もいつものようにゆっくり起きて新菜と朝ごはんを食べていた。


「今日のこのカリカリベーコン美味しいな」

「でしょ?自信作なんだ〜」


新菜が朝から褒められてご満悦だ。


「料理が上手だし将来いいお嫁さんになるな」

「な、なに急に言い出すの……プロポーズみたいな事」


いや兄妹だから。


動揺して自分の紅茶に何倍もお砂糖を入れている。


「あっまいー!」


朝からテンション高めの我が妹だ。

まだまだ背伸びした感じもたまらなく可愛いよな〜。

家では少しお茶目なとこもいいんだよこれが。

今日もシスコン全開で絶好調だ。


ちなみにテスト当日だが2人ともまったくテストの話もしなければ勝負の話もしない。


勇樹も余裕なのだろう。


実は新菜に勉強を教えていたのは勇樹である。

勇樹はアメリカでは飛び級で学習していたのでそのまま生活していたならば、現在は大学生なのだ。


しばし兄と妹のイチャイチャが終わると2人で学校へ登校した。

すると校門前に遠目に見ても仁王立ちする怪しい女性が立っている。

もちろん生徒会長の天城薫だ。


「今日は手加減しないから覚悟しておきなさい!」


ただのテストにこうもやる気を出せるのは、ある意味尊敬に値するな。


「前回は手加減してもらってありがとうお嬢さま」

「ば、馬鹿になさらないで!」


冗談だったのに顔赤らめちゃって。超真面目だな。

しかし新菜は違ったようだ。


「お兄ちゃんあんまり他の女子をいじらないで」

ジト目で俺を見ながら言っているが、女子をいじるって校門前で言われると誤解されるから……みんなが俺を見てるんですけど……。


「ごめんごめん俺のお姫さま」

「もう!お姫さまだなんて冗談言わないで……俺のだなんて……」


やっぱり顔がデレ顔になっていて、言葉と態度が逆な気がするが。新菜の喜ぶ顔が見れるなら恥ずかしい事も言える俺だった。


「ほら3人で校門でイチャつかない!」


なんだか少し怒り気味?の結衣がやって来てボヤいた。


「「イチャついてないわ!!!」」


新菜と生徒会長が同時に叫ぶ。


「どうでもいいから早く入ろうぜ」


「「「どうでも良くない!!!」」」


女子3人が同時に叫ぶ。

はぁ……女子が揃うと疲れるな……。


テストはこれからなのにすでに疲れた勇樹であった。



そして運命!?と言うほどでもないテストが開始された。

勇樹の得意な英語からである。


テストが始まるとすぐに髪の毛が邪魔な為に答案用紙がよく見えない事に気付いた。


勇樹の座席は窓際の一番後ろの席なので誰にも見られないだろうとテスト中だけ新菜に内緒で髪を後ろに結んだ。


勇樹にとって英語は第二の母国語だ。

スラスラと回答しているとなんだか視線を感じる。


クラスの担任の女性教師がこちらをガン見していた。

目が合うと視線を逸らし見てない素振りをする。

それが何度か繰り返された。


『カンニングを疑われている?』

俺が教室にいる事すら気付いていないような今までの反応から推測するが、今回のテストは負けられない。妹の為に。


そしてテストに集中しておそらく一番早く回答が終わり、顔を上げるとうっとりした表情の女教師と目が合う。


調子でも悪いのか?と思いながらいつもの髪型へと戻し終了を待つ。


「はい終了です。答案用紙を後ろから前に回してください」


なんだか今日は調子がいいな。

やっぱり今回はメイドに真面目に勉強させられたからだな。


今回のテストで驚く結果が出るとは本人すら思っていなかった。


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