第16話 愛愛傘

6月に入ると梅雨の為に雨の日が多くなってきた。


「まじか。降ってきやがった」


今朝は珍しく晴れていたので傘を忘れた勇樹が授業中の窓の外の雨を見てぼやく。

お昼休みになると、さらに雨足が強くなってきた。


「最悪だな」

「なにが最悪なの?」


最近一緒にお昼ご飯を食べている結衣が聞いてきた。


「傘忘れたのに雨が本降りだよ」


結衣の目が光った。チャンス到来!!梅雨ありがとう!


「じゃ、じゃあ帰りは傘に入れてあげるよ」

「寄り道させたら悪いだろ。遠回りになるし」

「お茶でもご馳走してくれればいいよ」


さらに責める。頑張れ私!


「じゃあ・・・」と勇樹が言いかけたところで教室のドアが開いた。


「あの〜如月と申しますが、兄はいますか?」

新菜が突然訪ねて来た。

後ろに数人の取り巻き女子がついてきてる。


クラス中の男子達が一斉に反応し指をさす。無視するんだ妹よ。


「ありがとうございます」


そう言いながら教室に新菜が入ってきたが、取り巻きは入って来ないでほっとする俺。


「どうしたんだ急に?」

「朝は晴れてたからまた傘持ってきてないんじゃないかと思って・・・それより・・・」


なんだか結衣の方をちらちら見て話す。

結衣もなんだか悪いことをした子犬みたいな顔をしてる。どうしたんだふたりとも。


「い、いつも一緒にお昼食べてるの?仲いいね!」

「さ、最近だよ。いつもひとりだから寂しいかなと思って」

「そ、そうなんだ。今度天気が良くなったら中庭で一緒に食べようか?多いほうが楽しいでしょ?お兄ちゃん」


急に俺にふってきて驚いたが、可愛い妹と食べるなら楽しいに決まってる。


「多いのは嫌だから取り巻きがいなければいいな。それよりどもって話しするの流行ってるのか?」

「「そ、そうだよ!」」


ふたり同時に返事とは息が合ってるし仲いいんだな。


「それより傘だよ。傘がないなら一緒に帰ろうかと思って誘いに来た」

「スマホに連絡くれれば...って俺いつも面倒で夜しか見ないしな。たださっき結衣が入れてくれるって言ってくれたから大丈夫だぞ」


「えっ!!」新菜が珍しく大きな声を出した。


「そうなんだ?でも私がいれば大丈夫だよね」

「もう約束したし。私も大丈夫だよ」


仲いいはずなのに全然大丈夫な気がしないのは俺だけ?

ここは気を遣ってみるか。いままでの成果を見せる時だ。


「じゃあみんなで帰ろうか」

ふたりがすごい勢いで睨んできたかと思えば笑顔でうなずいてくれた。

やるじゃん俺。

すごく残念な勇樹の行動であった。


放課後になり下駄箱で靴を履き替え三人揃ったので帰ろうとする。

相変わらず雨は激しく降っている。


俺を中心に右に新菜、左に結衣という配置に自然?になると同時に傘を差しだされる。


「「これ使って!」」


2つの傘で3人。なにかなぞなぞでしょうか?迷わず新菜の傘を取ろうとすると、結衣が泣きそうな顔をする。

新菜の入学当時に泣かせた自分が許せなかったのだろう。やはり2つの傘を受け取って両手に一つずつ持った。


他人が俺を見たらどんだけ傘が好きだって思われるんだ?

2つ同時に傘をさすのは非常に難しい。


どうにか両手で持っていると、新菜が俺の腕を胸まで引き寄せてくる。

『うわああああ』

なんだか柔らかいものが腕に押し付けられてるんだが。


新菜の水着姿を見てから妙に意識していた勇樹はかなりいっぱいいっぱいだ。


するとその行動に気付いた結衣も同じように腕を引き寄せてきた。

こちらは高校3年生である。さらに大きな柔らかいものが当たっている。


『うわあああああ』


勇樹はさらにおっぱいおっぱいだ。・・・違ういっぱいいっぱいだ。


しかも誰も一言も話さない。これは罰ゲーム?修行?レッスン?

とにかく早く家に着きたいと思う勇樹であった。

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