第15話 お弁当

楽しかったデートも終わり次の月曜日。


教室に入るなりざわざわしていた雰囲気が一変した。


あ~そういえばバスケで本気出しちゃったんだっけ。

みんなに少し出来るのばれちゃったよな。

少しどころではない。


「すごかった」

「運動神経いいけど顔もよかったら。。」

「性格よかったら。。」


などと聞こえてくる。がいつものようにスルー。


勇樹は高校に入学するまでは両親と一緒にアメリカに住んでいた。

父は元プロバスケ選手で母は洋服のデザイナー兼モデルで仕事をしているためである。


元プロ選手の父と本場アメリカでバスケをして遊んでいたのだから、環境には恵まれていた。

しかも親から受け継いだ運動神経の良さと本人のセンスの良さから、父親も面白がっていろんなことを教えた。アメリカに残るか聞かれたが日本と即答したが理由はわからない。


「おっはよー!」

結衣が元気に挨拶してくる。


「昨日はひどくない?いきなりすごい勢いで逃げるんだもん」

「ちょっと用事があってな」

「用事があったら普通は焼小籠包食べに来ないでしょ」


結衣がジト目で見ている。


「しかも・・・せっかく昨日は勇樹くんおしゃれな感じ・・・で、もっと見てたか・・・」


顔が少し赤くなって最後は小声で言っている。


「熱あるんじゃないか?顔が赤いぞ。喉も大丈夫か?」

「な、なに言ってるのよ!デリカシーないんだから!」


そそくさと席に戻っていった。

結衣は内心気持ちがばれたのかとドキドキしていた。


お昼休みになるとまた結衣がやってくる。


「お、お弁当一緒に食べようか?」

なんだか今日はやけに話しかけてくるな。


「仲間と食べなくていいのか?」

「大丈夫大丈夫。みんなに言ってあるから」


そう。結衣は球技大会のバスケの試合でかっこよかった勇樹が好きになってしまうかもと友人たちに言っていた。

試合ではかっこよかったけどほんとにあれでいいの?と言われたが、結衣からすれば勇樹の美形がばれる前の今のうちに少しでもリードしておきたかったのである。


仲間達は応援すると言って協力してくれることになったのである。


『ふふふ、弱肉強食。みんな甘いのだよ』

侮れない女の子だった。


「私の作った卵焼き食べる?」

昨日の夜に何度も練習した一番の自信作だ。

結衣は見かけ通りの元気印と違い、内面はすごく乙女なのである。


「おっ!だし巻き卵か。甘いのより俺は好きだ」

「す、好きって言った?」

「ん?俺は好きだっていたぞ。おいしいなこれ」


『俺は好きだ・・・俺は好きだ・・・きゃあああああああ』


もはや最後のほうは聞こえてないらしい。誰か教えてあげて。褒めてくれてるから。


前にも言ったが結衣は他の男子たちに結構人気がある。

そんな結衣がすごく乙女チックな仕草をしているのを今までほとんど見たことがなかった。


「なんでミスターゼロに」

「俺にも卵をくれ。。。」

「俺にも笑顔を。。」

「俺はあの箸を舐めたい。。」


最後はおかしな気もするが、すでに心は勇樹に奪われていた。


「あと好きなおかずは何?」


「おかずって何言ってるんですか!!」

瓶底メガネの学級委員の男子が大声で叫んだ。顔は真っ赤だし目が怖い。


「誰だあいつ?チキン。。唐揚げかな」

「わかった!れんしゅ・・・得意だからまたあげるね」


ほんと健気で一途な乙女なのである。


「なんだか悪いな」


ここまで一生懸命頑張ってるなどとは夢にも思わない勇樹は、食べ盛りの年頃なので最近お腹へるからラッキーぐらいな気持ちであった。


がんばれ結衣ちゃん。


「ところで・・今度買い物に付き合ってほしいんだけど」


なんだか最近聞いたような話だな。


「新菜と一緒にショッピングだったっけか?」

「えーと。。そう。いつにしようかと思って」


一瞬残念な顔しながらすぐにいつもの笑顔で答えた。


がんばれ結衣ちゃん。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る