第11話 本気

勇樹の3年C組はサッカーで準優勝し、残るバスケットボールで優勝すると球技大会での総合優勝が決まる。


しかし今回の生徒達の注目は、優勝よりもバスケットボールの決勝戦だ。


学校のアイドル的な存在で、天使を泣かせたことだけでも大事件なのに、あの『ミスターゼロ』が決勝戦に出ると宣言していったのだ。しかも最愛の妹の為に……


「ほんとに試合出るのか?敵なら俺たちがとってやるぞ?」


バスケ部の男子が言った。

おそらく足を引っ張られたくないが事情が事情だけに遠慮してるようだ。


「ああ。バスケは向こうでよくやっていたから大丈夫だ」

「向こう?じゃあ無理するなよ」


そんな話をしていると例の3人組がやってきた。


「素人が無理すんなよ。まあ叩きのめしてやるけどな」


3人組は中学時代強豪校のバスケットボール部に所属していたらしい。

勇樹はいつものように無関心のようで何も言わない。


「お兄ちゃんごめんね。嫌な思いさせて」

「悪いのはあいつらだ。勝ったらデートしような」

「えっ!えっ!デ、デート?」


新菜はようやくいつもの表情に戻ってドギマギして照れている。

可愛い天使が帰って来た瞬間だ。


勇樹はぽんぽんと頭に手を乗せ、新菜の表情を確認すると整列へと向かう。


体育館は異様な雰囲気だ。ほとんどの生徒が見に来ており入れない人は窓の隙間から覗いていた。


いよいよ試合開始である。


ジャンプボールでは競り勝った相手がボールをキャッチしようとしたその瞬間!!!!!


すでに勇樹がボールを奪い電光石火のドリブルからの……


『バスン!!!!」


豪快なダンクシュートが炸裂する。


「お兄ちゃんかっこいい!」


周りは言葉を失っている中、新菜は当たり前のように喜んでいる。


一拍置いて大観衆の地響きが起こる程の大歓声。


「うぉーーーーーー!生で初めて見た!!」

「あれは誰だよ!ミスターゼロ!?」

「高校生って空飛べるの?」

「やばい!やばい!」


騒然となるのも当然だった。


新菜の元へ来てハイタッチし試合へ戻る。


「いぇーい!」


試合再開すると3人組で巧みにパスして攻めこん……パスカット!?


勇樹はスリーポイントシュートを打つと行方を見ずに振り向き自軍へ戻る。


『シュパ!』


綺麗にゴールが決まる。


「またまたいぇーい!」


新菜も楽しそうだ。


3人組は驚きつつもアイコンタクトをすると不適な笑いを浮かべた。


ゴール前までボールを運ぶとディフェンスする勇樹をマークしていたひとりが審判の死角から顔へ肘打ちをした瞬間!

3人組のひとりへ見事に顔面クリーンヒットする。


「あっ!」


ひとりが負傷退場した。


ゲーム再開で勇樹はパスを受けるとコート中央をドリブルで上がっていく。

そしてまたダンクシュートの体制に入る瞬間!


両側から2人がヒザ蹴りの様な格好で飛んだ。


しかしいるはずの勇樹はお見通しだったのか、飛ばずにバックステップしている。


当然だが空中で止まれるはずもなく2人がお互いに両脇から激しく激突。

さらに2人が負傷退場していった。


勇樹はゆっくりとシュートを決めると、


「結衣交代してくれ。もちろんゼロで抑えろよ」


笑顔の勇樹に夢心地の結衣は、


「はい。御主人様」


どうしても専属のメイドのように尽くしたいらしい……


勇樹は新菜の元へ戻ってくると、汗かいたから着替えてくると行って体育館を出て行きそれを追って新菜も出て行った。


試合は主力3人が負傷退場したチームに得点出来る能力がある筈もなく、100対0で終了し優勝。総合優勝も決まった。


後に違った意味で『ミスターゼロ』と呼ばれたようである。

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