第10話 天使の涙
劇的なゴールを決めた勇樹だったが誰も感謝の言葉も賛辞もないと思った矢先。
「勇樹くん凄いねー!!」
「お兄ちゃんやったね!!」
結衣と新菜である。
2人から褒められるだけで満足だった。
高校生活の中で嬉しい出来事など今まで感じた事のない勇樹には、新鮮であり良い変化である。
「次は新菜のバレーボールか?」
「急がなきゃ」
かなりキツキツなスケジュールである。
試合の相手は2年生でバレーボール部が2人所属していて、善戦したものの試合に敗れてしまった。
結局は1年生のクラスで決勝トーナメントへ進んだのは、バスケットボールの新菜のクラスのA組だけであった。
勇樹のC組はサッカーとバスケットボールが決勝トーナメントへ進んだ。
次の日決勝トーナメントが行われた。
新菜は準決勝まで進み、勇樹は補欠のバスケットボールが同じく準決勝まで進んでいる。
新菜の準決勝の相手は3年A組。
「あ〜次の相手嫌だなぁ〜」
「どうしてだ?」
「相手のチームの3人から付き合ってくれって言われて断ったから……みんなしつこい感じで……」
勇樹がプルプルしている。
「とにかく頑張れよ」
「ありがとうお兄ちゃん」
試合前の整列をしていると例の3人が新菜を見てニヤニヤしている。
「なんだか感じ悪いね』
結衣が勇樹に言ったが、普段は感情を出さないが無性にイライラして返事もしない。
大観衆の中試合が始まった。
いつものように新菜へとボールが集まりゲームメイクをしていく。そこへ振られた3人組の1人がマークについた。
相変わらずニヤけている。
ボールを奪う為、手が伸びてくる。
……が!手はボールではなく新菜の胸をめがけてきた。
「きゃっ!」
持ち前の反射神経で後ろへ避けてパスを出す。
その後も3人組は新菜がボールを持つたびに、ボールを奪う振りをしながら胸を触ろうとしているように見える。
新菜は完全に怯えていた。
もともと兄以外とはほとんど男性とも接する事もなく、純情で一切の汚れを知らない。
それが振られた腹いせに、免疫のない男性からこんな仕打ちを受ければ誰だって怖くて当然だった。
「審判!」
仲間が抗議するも絶妙に胸からボールへと手を伸ばす為、触れていないのもあり注意されるだけであった。
試合は前半で勝負が決まってしまった。
後半も同じような展開であった。
体育館にブーイングが響く中、新菜はとうとう堪えていた涙を流してしまう。
その時だった。
「新菜!もう下がれ!」
体育館中に大きなそしてハッキリとした事が鳴り響くと、試合中にもかかわらず物音ひとつ聞こえない静けさが訪れる。
試合は1年A組がその場で棄権を申し出た。
勇樹はゆっくりとコート中央の新菜へと向かう。
そして笑顔で頭を撫で、肩へと腕を回しコートを出て行く。
勇樹は自分のクラスの生徒に、
「次の試合絶対勝てよ。決勝は俺も試合に出る」
それだけ言って2人は体育館を後にしていった。
絶対に手を出してはいけない妹を、絶対に怒らせてはいけない男を目覚めさせてしまったのである。
勇樹の真の力の一部が開放される。
逆襲の始まりである。
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