第6話 美少年

放課後になると無言でそのまま帰ろうとする勇樹の後を追うように結衣がついて行く。


勇樹の家までは歩いて15分程の距離である。


両親はアメリカで仕事をしている為、現在は二人で住んでいる。日本の家というよりも外国のセレブが住むようなたたずまいではっきり言って裕福な家庭であった。


「この間は訳も分からず連れて来られたけど、やっぱりすごいおうちだよね……。」

「親のおかげだけどな」


家に着くと着替えてくるからリビングで待っててくれと言われ、ポツンと1人でソファーに座っていた。

外見同様に100人でホームパーティーでも出来そうなリビングは庶民育ちの結衣にとっては、いるだけで場違いな気がしてならない。


「待たせたな」

「めっそうもございません!?」


場に圧倒されて声がうわずる。


「なんだ?まだメイドごっこしたいのか?」


専属のメイドならしてもいいかな?

……ってどうしたの私…。


「メイド服ならたぶんあるぞ?」

「えっ?心の準備がまだ……じゃなくて、

なんで!そんなディープな趣味ないわよ!」

「昼過ぎまでは家事手伝いのメイドがいるから、聞いてみただけだ」


恥ずかしくて耳まで赤くなっている……

誰か助けて〜……


「ただいま〜!」


救いの女神の新菜が帰って来た。


「玄関に女性の靴があったけど、まだみかちゃ……」


メイドの名前を言いかけながら勇樹と結衣を見て固まった。


「い、いらっしゃい。今日はどうされたのですか?」


あきらかに動揺した声で尋ねている。


「この間のお礼を新菜にもしたいって。だから連れてきた。」

「あ〜!そうですよね!」


明らかに笑顔になりここで肯定するのもおかしいなと勇樹は少し思うが気にしない。妹は可愛いのだから。


「この間はいろいろありがとう。おかげでストレスが減って学校がもっと楽しくなったよ。」

「わざわざありがとうございます。今お茶入れますね。」

「それともお急ぎでしたら……」

「全然時間は大丈夫です!!!」


大声になってしまった。


「そんなお茶飲みたかったのか?悪かったな。場所が分からなかったから。」

「お茶が大好きで……」


『く、苦しい……でもまだ帰る訳には行かない……』


紅茶とクッキーを食べ終わる。


「いかがでしたか?それでは私と兄はこの後用事がございまし……」

「髪切るんだっけ?手伝おうか?」


今度はハッキリと驚く新菜は、兄と結衣をそれぞれ交互にジト目で見るが、勇樹はのんきにクッキーを摘んでいた。


どんな相手にも優しくする妹である。

……が

「慣れてますので大丈夫です」

「じゃあ見てるだけで」


勇樹に向かってすぐに答えた。


髪を切る準備が整い別室へ移動する。

普段はメイドが美容師の資格もある為、家族は専用ルームで切るが勇樹だけは中学の頃から妹に切ってもらっている。


「小学生の新菜に切らせるのは最初は怖かったけどな」 


新菜が中学に上がった兄の髪は自分が切るときかなかったのだ。


髪を流しタオルを取りに行くと、結衣が兄をガン見しているのに気付いた。


「結衣さん兄の顔を見ましたね」

「!!!!!!」


小声で言われたが声も出ないほどびっくりした。


「誰にも言わないでくださいね。本人も気付いていないようなので」


長い髪を丁寧に部分ごとにピンで止めていくと……

そこにはモデルのような美少年の顔があった。


ついでに部屋の端にはハートの目をした結衣の顔もあった。

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