第5話 胸にズキューン!

「お兄ちゃんだいぶ伸びてきたしそろそろ髪切ってあげようか?」

「じゃあ今日学校から帰ったら頼むよ」


朝ごはん中の会話である。

勇樹はいつも新菜に切ってもらっているが、

女性のセミロングくらいに長い。前髪も長いため顔がほとんど隠れている。

年頃の男子であるがセットも面倒なのでまったくしない。


「じゃあ帰ってきたら切るからね!」

約束したためか朝からご機嫌だった。


今日も授業中は睡眠学習をしていると(ただ寝てるだけともいう)、

あっという間にお昼休みになっていた。


お弁当をカバンから出していつものように一人でゆっくり食べる準備をしていると、

突然目の前にペットボトルが現れた。

正確には勇樹の後ろから、結衣が頭越しに顔の前に持っていた。


勇樹の前に回り込むと、そのまま前の席に座った。


「この間のお礼によかったらこれ飲んで」

「じゃあありがたくもらっておくよ」


遠慮もゼロのようだった。


「あれ?いつもお弁当なんだ?なんだか似合わない」


笑いながら言われてしまった。


「妹がいつも作ってくれるから」

「へ~。妹さんお料理も上手なんだね」


少しうれしい。

そのお弁当は色鮮やかで、栄養バランスも良く考えられていて綺麗に盛り付けもしてあった。


お弁当を食べようと前かがみになると前髪がお弁当に触れそうになる。


「あーあー髪の毛ついちゃう!せっかくのおいしそうなお弁当に」


結衣は咄嗟に勇樹の前髪をかきあげる。


一瞬の出来事だったが、結衣は驚きの声をあげて顔が赤くなる。


「えっ!?」

「なんだ?」

「いや・・・顔が・・・その・・・」

「なんだか分からないが失礼な奴だな。」


お前が一番失礼なやつだろ!と思うが驚きのあまり突っ込むこともできない。


「だってびっくりしちゃって・・・」

「食べ過ぎで体重でも増えたのか?」

「それセクハラだから!!事実だけど。あっ」


余計な事を言ってしまって後悔してるらしい。


「顔が赤いぞ?便秘で体重増えてるなら

 早くトイレ行ってくれば?」

「何言ってんの!!!!!!!」


走ってどこかへ行ってしまった。

お昼ご飯中にする話じゃなかったな。。。。


新菜の作ったお弁当を前に勇樹も後悔していた。


結衣はほんとにトイレに駆け込んでいた。

鏡で自分の顔を確認すると思っていた通り

真っ赤だった。


「やばい。やばい。やばい!ほんとやばい……」


胸を押さえながら確認すると鼓動が激しくなっていて、

どうにもならない。


お昼ご飯食べなきゃ。

気を取り直して教室へ入ると、

いつも一緒にご飯を食べてる仲間はいなかった。


「どこか行ったみたいだぞ」


なんとなく勇樹が教えてあげた。

すると結衣は黙って先程の勇樹の前の席に座った。


「い、一緒に食べようか?」


返事はない。

教室中が気になって仕方ないようだったが、

誰も気付かれないように様子を伺う。


「髪の毛鬱陶しくない?」

「今日妹に切ってもらうから」

「へ、へ〜。】

「妹さんにもお礼を言いたいから行ってもいい?」


教室にいる全員が2人の方へ注目してすぐ元に戻る。


「じゃあ放課後に!」


弁当も食べず急いで教室を出て行く結衣。


『わ、私どうする気なんだろ?でも確認したいし……』


ひとりでぶつぶつ言いながら、ドキドキが止まらない結衣だった。

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