第4話 夢の国

「お兄ちゃん早く早く!」


これから新菜と一緒に夢の国『ワンダーランド』に行くところである。


先日の一件で頑張った俺へのご褒美と人間観察を兼ねてるらしい。


「8時入園開始でなんで7時に行くんだよ?」

「人気のアトラクション【ソフラン】はすぐパスが、

 いっぱいになっちゃうから!」


どこかの洗剤みたいなアトラクションだな……


8時の入園開始まであと1時間。長い列に並んで勇樹は思う。


やっぱり新菜はお世辞抜きで誰よりも可愛いな。


今日の服装は白い半袖のブラウスにピンクの短めのスカートである。

真っ白で透き通ったその肌はより一層、清楚なイメージを抱かせる。

まさに天使だ。


周りの視線を独り占めしているが本人は気付いていない。

勇樹が優越感に浸っていると、


「どうしたのお兄ちゃん?」

「ご褒美ありがとう。」


自慢の妹である。心からそう思って言った。


その言葉に笑顔で答える新菜の方にも思惑があった。


『ご褒美と行って誘ったけど、お兄ちゃんとデート!うふふ』

作戦成功のようである。


「【ソフラン】は14時のパス取れたから、

 【おもちゃマニア】並びに行こう!」


新菜に手を引っ張られて歩いて行く。

マシュマロのように柔らかい手の感触。

勇樹の顔が緩んでいたが、前を歩く新菜の顔も実は照れてデレ顔だ。


「「やばい!!心臓バクバクしてる」」


2人して同じ事を考えている。

初々しい恋人のようだった。

列に並んでいると勇樹が、


「まだか〜?」

「まだ5分しか経ってないよ〜。こんな可愛い妹と一緒なんだから話しないともったいないよ!?」


今日は結構せめてくる新菜だった。

周りは女子グループとカップルが何組かいた。


「あのカップルみたいにお兄ちゃんもフレンドリーにしてね。

人間関係ゼロとか言われてるんだからいつか恋人も作らないと!」


ちょうどその後カップルが軽くキスしてイチャイチャしていた。


「お、俺にもしろっていうのか?」

「うわ!ち、ちょっとあれは違う!違う!」


焦っている仕草もほんとに可愛い。


新菜はいっぱいいっぱいになって苦し紛れに、


「今度の課題は友達を作ろうだね!」

「友達ね~・・・」

なにか考え浮かんでるようである。


【おもちゃマニア】は的にボールを当てるゲームで人気があり、

勇樹も新菜も夢中になっていた。

勇樹はそんな自分に驚いていたが、友達と来たりしても面白いかもなと密かに思っていた。


「超楽しかったね~」


新菜が腕を組んでくる。

どうした?妹よ?動揺しているけど内心すごく嬉しい。


「な、何事も経験だよ経験。ねっ!」


他のカップルの彼氏たちが羨ましそうに見ていると、

当然何組かが彼女に怒られている。


「俺って幸せ者だよなぁ~」


それから二人は他のアトラクションに乗ったりお昼ご飯を食べて、

パスを持っている【ソスラン】へとやってきた。

【ソフラン】は空を飛ぶアトラクションでリアルに大空を駆け回る壮大なアトラクションだ。

そこでちょっとしたトラブルがあった。


今日は新菜も気合が入っているので、短いスカートだった為、

座席に座るとスカートが上にあがり、真っ白で細い太ももが見えてしまったのである。


「きゃ!や、やだ恥ずかしい・・・」


勇樹は無言ですぐに自分の着ていたパーカーをさっと新菜の膝からかけてあげる。

誰にも見られずにすんだが、スカートの事にはふれなかった。


「さあ楽しもうか」

「うん!」


妹の為なら自然に気を使えるのである。

兄のやさしさを感じて幸せな妹。


そして夜になると光と音に溢れ、花火も上がる綺麗なショーが行われた。


勇樹は感動していた。ほんとに感動していたのである。

自分でも驚きだった。夢の国で現実を忘れているから?

周りの笑顔がそうさせているのか分からない。


でも悪い気はしなかった。少しだけ妹以外にも興味が出てきた勇樹だった。


「新菜今日はありがう!また来ような!」

「うん!また来ようね!」


充実した休日を過ごした仲の良い兄妹だった。

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