雑魚寝する護衛たちを想像したのです
「で……どうしてヤエが僕の膝の上に座ることになったんだっけ?」
「サクア様にクロウさんを取られないようにです!」
移動する馬車の中、二人乗りの馬車に三人が入り、中はピリピリとしたムードが漂っている。
「あら、取るだなんてそんな。
乗っていっても構わないと言ってくださったのはクロウ様ですのに」
笑顔で喋るサクア様がちょっと怖い。
二人乗りとはいえ、子供ばかりなのだから詰めれば座るのも無理ではない。
だからサクア様にも乗っていかないか聞いてみたわけなのだが……
まさか本当に乗るとは思わなかった。
だって仮にもお姫様なんだよこの人。
「それに、私の容姿を褒めてくださったお人は、クロウ様が初めてなんです……
本音を言いますと、私の全てを捧げたいとも思っていますわよ」
うん、昨日の宴の時に言ったよ。
耳を見せて欲しいって……
確かに可愛いとは言ったし、変じゃないか聞かれたから『そんな風に思う人がいるの?』なんて言ってしまった……
「ピキューッ!!
だから取ろうとしてるって言ってるのよ!
クロウさんはもう私と同じベッドで寝ている関係なんだからっ!」
後からフロックスに聞いた話なんだけど、獣人でも人族でもない存在は、世間的には醜いとされているそうだ。
っていうか、ヤエ⁈
「同じベッドって……数が足りないから一緒に寝ただけじゃんかぁ!」
八歳のくせにませてやがる……
「そっ……それでも一緒に寝たんだもんっ」
本当になんの張り合いだ?
まだ子供なんだからさ……
「ふふっ、まだ私の入る余地はあるみたいですね……
半獣人の私を可愛いって言ってくれたんですよ?
もう婚約するしか……」
婚約?? ダメだ、こっちはこっちで完全にイカれてる……
あれか、ケモ耳モフモフ尻尾のハーフを可愛いと思う僕の方が、この世界では異色なんだろうか?
話を聞いてる限りでは、きっとそうなんだろう。
「それよりさ……サクア様は襲われるような憶えとか無いの?」
「サクアでいいのですよ旦那様……」
「いやそれはわかったから……何か恨みでも買ったとかさぁ……」
この茶番はいつまで続くのだろうか?
……と思っていたら、急にサクアの表情も変わって僕の目を真っ直ぐ見据えていた。
「恨み……というのは、私が#半獣人__ハーフ__#だということを言っているのですか?」
そんなことだったらいくらでも話は耳に入ってくると言うサクア。
利用され民に不利益しか生まない形だけの権威など、殺意の対象になっても全く不思議では無いだろう?
そう、逆に僕へ問いかけてくるのだ。
僕は見た目5歳児なんだけど。
そんな事を聞かされても困るような気も。
なんて思ったけれど、それだけサクアが悩んでいるのだろう……
「じ、じゃあさ……身内に相談できる人とか、いないの?」
「身内か……
教皇や枢機卿が身内だと言うのなら答えは『いない』……ですね。
私は生まれてすぐに親元から引き離されていますし」
聖獣ガルム教の事実上トップが教皇様で、姫など肩書きでしかない。
表向きの体裁の為だけに#産まされた__・__#のがサクアなのだとか……
そんな正直にペラペラと喋ってしまっても大丈夫なのかと心配になるが、それだけ普段から言いたいことが溜まっていたのだろうな……
話が聞こえていたのか、フロックスも御者台から喋りかけてくる。
「そのガルム教の教皇様だがよぉ、裏で人族の奴隷を取引してるってぇ話だ。
他にも色々と黒い噂されてるらしいじゃねーか」
「私が姫を就任した2年前には、色々とやってたみたいね。
その当時は好奇心で色々と見て回ってましたから」
エッヘン、なんてサクアが偉そうにしている。
しかしガルム教……一体なんなのだろうか、この宗教は……?
ガタガタ揺れる山道を進み、次第に川の流れる音が近づいてきた。
馬車一台がようやく通れそうな橋がかかっており、その先には丸太を組んで作られた大きな建物が。
少し早い時間ではあったが、僕たちは馬を近くの木に繋ぎ、その山小屋へと入る。
「一泊お願いしたいのだが……」
「はいはい、4名様ですね。では2万Gになります」
フロックスに聞いていた通り、めちゃくちゃボッタクリだった。
相場の5倍以上なのは間違いない。
これで素泊まり食事別なのだから、とは思うが安全のためには仕方がないのだろう。
「さっきみたいな巨大な魔物が出てきたら、建物ごと壊されちゃいそうだけどね」
「あんな化け物、そうそう出てくることは……ん?」
フロックスは、テーブルに座る1組の冒険者に目をやる。
「俺たちに何か用か?」
フロックスがその冒険者に尋ねていたのだが、どうやら僕たちの姿を見てヒソヒソと会話をしていたらしい。
「い、いや何でもない!
な、俺たちは何も見てねぇよね!」
「あ、あぁ何でもないぜっ。
子連れパーティーがちょっと珍しかっただけでさぁ!」
慌てた様子で答える冒険者たち。
フロックスの顔でも怖かったのだろうか?
まぁ子供3人じゃ違和感しかないもんな。
さて、ボッタクられた先に行き着いた部屋にはベッドは2つ。
おいおい……さすがにおかしいだろ、と思って、僕は受付に戻ってもう一部屋使えないのか聞いてみる。
「こんな危険な場所で部屋をいくつも借りるなんて、あんたら正気かい?
ワーウルフの保護者さんよぉ、アンタも大人ならちったぁ常識ってもんを教えてやれねぇのかい?」
「え? 僕の方が非常識だったの?」
受付の人に怒られて、ちょっとビックリだった。
「そうだよ、他にも泊まりたい客はたくさん来るんだ。
部屋がねぇってなったら、そいつらは野営をするしかないんだぜ?」
そ……そうなったらほら、ロビーを貸すとか……いや、僕が間違っていたみたいだ。
大人しく一部屋で我慢することにしよう……
すでに先ほどの冒険者たちの姿も無く、客のいないロビーの中で時間を潰していた。
サクアの護衛の人達も小屋に辿り着いたようで、20人ほどの団体客に喜ぶオーナーの表情が僕にはもう忘れられないものになった。
しかも案内された部屋2つだけだったとか。
可哀想に……
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