隠れて様子を伺うのです
「クロウ様っ、さぁ早くベッドにおいでくださいませっ!」
サクアが一人寝そべりながら枕を叩く。
そうだよね、なんとなく想像はしていたけど……
「ダメっ! やっぱりフロックスの匂い我慢できないよっ!」
一泊するだけなのに、どうしてこう毎度毎度悩まなくてはいけないのか。
男同士女同士で決定! ……にしたら、ヤエとサクアが猛反対。
僕も聞く耳持たずにベッドに潜り込んだのだけど、後から入ってきたフロックスの獣臭さに悶絶。
外で抗議を繰り返す二人をチラッと見て、やっぱりそれはダメだと思い直す。
「むー! せっかくクロウ様と寝られると思ったのにぃ」
「わ、私だってクロウさんと寝たいですっ!」
「クロウは俺が良いんだとよ。
お二人さんは仲良くそっちで寝な」
べ、別にフロックスがいいわけじゃない……
それに、やっぱり……
「臭いよっ!
何日身体を洗ってないのさフロックス!」
「お、おうっ……水浴びなら3日前に……」
「ダメっ、やっぱり僕もそっちで寝る!」
水浴びだけで匂いが完全に取れるものか。
ヤエみたいにお風呂にもちゃんと入るのが普通じゃないの?
まぁ今は山小屋だから多少のことには目を瞑るつもりだったけど……
「さぁっ、クロウ様どうぞここへっ!」
そう、そっちに行くのも正直躊躇ってしまう。
とはいえ夜も更けてきて肌寒くなってきたから、かけ布団には潜り込みたいところ……
無心……無心で寝てしまおう……
僕はゆっくりとサクアの寝るベッドの中へ。
少しして後ろからヤエも入ってきた。
しまった、ヤエに先に入ってもらえばよかった。
同じ獣の匂いでも、フロックスとは違うから辛くはないけど……別の意味でとっても辛い。
あぁ、毛並みが当たって気持ちいい……もういいや、寝よう……
と思ったところで、まぁ寝られるわけないよね……
おかしいなぁ、そんな趣味ではないのに。
二人ともスヤスヤ眠ってしまうし、意識してしまう僕が馬鹿みたいじゃないか。
再び寝ようとしていると、どこかでカタカタと物音が聞こえてくる。
(おいっ、この部屋で間違いないんだろうなっ)
(あぁ、昼間案内されたのを見ていたからな)
(ちょっと待て、顔を見られたくはないからな。
布で顔を覆ってから入るぞ)
何やら部屋の外で、誰かが喋っているようだ。
正直、嫌な予感しかしないのだが。
隣で寝ているのは幻獣姫様で、それも昨日襲われていたばかり。
その犯人が扉の向こうにいる者たちだとすれば、狙いはおそらく……
そう思うと、このままジッとはしていられない。
僕はゆっくりと布団から這い出る。
…………
カチャッ……キィィ……
おいおい、本当に入ってきたよ。
二人の男の手には、それぞれ大きなナイフが握られている。
ゆっくりと僕の寝ていたベッドに近づいていく二人組。
頭に付いたキツネ耳を確認し、布団の上から思い切りナイフを突き刺す一人の男。
それと同時に、もう一人の男はフロックスの寝ていたベッドで同じことをする。
ザクッ……
「ぐふっ……ぐぇぇ……」
(よし、やったか?)
(こっちはもう一人いるみたいだぞ?)
(残りは子供だけだと聞いている。
さっさとズラかるぞっ)
足音を立てないように、慎重に外へ出て行く二人組。
やれやれ……まさか目標以外も躊躇無く刺すなんて……
「もう大丈夫かな……?」
「だと思うけど、もう少しだけ様子を見よっか」
ヤエが小声で僕に聞いてくる。
僕の腕を握っていたその手は、かすかに震えているようだ。
ヤエの握る腕とは反対側、もう一方の腕を突いて声をかけてくる少女がもう一人。
「で、この後はどうするのよ?」
「さぁ……護衛に頼んで殺された事にできたらいいなぁって」
僕たち3人がベッドの下からモゾモゾと這って出てくる。
遅れて、もう一つのベッドの下からはフロックスも顔を出していた。
「くっ、俺には狭すぎるぞ」
ベッドをガタガタ揺らしながら、ようやっと出てくると、それを見て僕は笑ってしまう。
「ぷっ……ぐぇぇって。
もう少しでバレるかと思ったよ、あははっ」
刺されたにしても、もう少し演技できないものか。
まだ声を出さなかったサクアの方がマシだったかと。
「うるせぇっ、動かねぇようにしてたら変な声になっちまったんだよ!」
「それにしても、魔法ってこんなこともできるのね。
でもさぁ、あんな奴ら、とっちめてやれば良かったんじゃないの?」
布団をめくり、刺された僕たちの姿を確認する。
ヤエが魔法で生み出してくれた『それっぽい何か』は、見事に喉元を突かれており、確実に殺しにきたことが窺える。
「だってそれじゃ、また次があるかもしれないじゃん。
幻獣姫様はここで殺されてしまった。
あとは遺体は魔物にでも襲われて山中に捨てた事にしちゃえばいいんだよ」
何度も襲われるのは勘弁願いたい。
そう思って、咄嗟に思いついた作戦だ。
それにしても二人とも起きていたとはなぁ……
『命を狙われてるのよ。
こんな場所で安心して寝れるわけないじゃないの……』
『わ、私はクロウさんがいるからドキドキして寝つけませんでした』
僕がベッドから出た時に、二人ともすでにベッドから出ていた。
フロックスはなんだろう……冒険者の勘なのか、危険を察知していたみたいだ。
ヤエに物質を生み出す魔法を使ってもらい、それっぽい僕たちを布団の中で再現する。
深夜だし、月灯りくらいの明るさではバレないだろう。
そしてコッソリと隠れて様子を見ていたと……
「でもなんでクロウの人形がヤエのに抱きついてるのよ?
おかげで一人少ないとか思われたかもしれないじゃない」
「べ、別に偶然ですよ偶然っ!
街の宿屋ではこんな風に寝ていたからっ……」
ちょっと待てヤエ。
僕はそんなふうに抱きついて寝た覚えなんてないぞ。
その後はフロックスがすぐに眠りについて、僕はサクアに抱き枕代わりにされてしまう。
ヤエもまたサクアに張り合って僕にしがみついて……
「暑い……」
結局僕は、ほとんど寝ることなく朝を迎えてしまったのだった……
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