手持ちは残り50万Gです
「全くなぁ……一度入札すると辞退はできないんだぞ。
ったく、普段の言動が大人っぽいから大丈夫だと思っていたのによぉ……」
「いいじゃん、フロックスだって可愛そうだと思ったんでしょ?」
「そ、そりゃあそうだが、それとこれとは関係ないだろ……」
結局、犯罪奴隷は一人も雇うことなく、僕とフロックスは市場を後にした。
前金で計10万G、今までにかかった費用5万Gと、本人への準備費用5万Gが必要になるそうだ。
一般奴隷の相場が100万前後なのに対し、かなり安い値がつけられてしまっていた。
まぁ、本来なら人に価格などつけるべきではないのだろう。
とにかく、僕たちで面倒を見る……と主催者から直で言われたのだけれど、まぁそういう風に見られたみたい。
朝にはヤエを迎えに行って、共に行動しなければならなくなる。
「一応言っておくけ……いや、やっぱりなんでもない。
お前はまだ子供だしな。そんなやましい気持ちであの少女を買うつもりはなかっただろうしな」
子供だから? 大人が別の目的で少女を買うことがあるということか?
いや、今の言い方だと禁止されているからダメだぞと言いたかった……となると……
「フロックスこそ考えちゃダメだよ?
見た目は可愛らしかったけどさ、そういうのって本人の同意無しでは禁止されてるんでしょ?」
「なっ……バ、バカ言ってんじゃねーよ!
誰があんなチビ助……!」
ふふふ……動揺したということは、間違いなくフロックスも意識をしてしまうこと。
まさか本当に襲ったりはしないだろうけど、獣人の習性は僕にはわからないしなぁ。
しかし実際に近付いて見てみたら、年上なのに僕よりも背が小さいのがエゾリスという種族。
病気で辛そうにする姿もあって、より儚げに感じてしまった。
こんな少女が魔法の暴走のせいで死に直面するなんて……と嫌な気分になったくらいだ。
宿に戻って、僕はすぐに横になる。
こうやって目を瞑って、何も考えないようにするのが一番落ち着くのかもしれない。
「とりあえず寝ようよ。
明日は僕、あの子に色々と教えてみようと思うからさ」
「なんだ? 残り少ない人生を快楽で満たしてやろうってのか?」
「……そうだね、楽しくてやめられないようにはしてあげたいよ」
面倒だったから話を合わせてあげたのに、『変態だな』と言われてしまう。
どうでもいいけれど、朝も早かったので寝かせて欲しいと思う僕であった。
翌朝、といってもやはり夜明け前。
フロックスが普通に目を覚ますものだから、僕まで起きることとなった。
せっかく時差ボケを治す機会でもある睡眠を……とは思うが、フロックスと同行する以上仕方ないんだろうか……
僕たちはワイルディアのツノを少しばかり納品しておいた。
残っているスコルピの爪は、ギルドではなく別ルートで売りたいのだとフロックスは言う。
だったら武器にしてしまって販売したらいいんじゃないか?
フロックスでさえも、素材がそれだとは気付かなかったくらいなのだから。
「一本だけ試してみてもいいよね?」
「あぁ……しかし本当に爪が素材だったんだな」
だからそうだと最初から説明していたと思うのだけど。
僕はフロックスの目の前で、スコルピの爪を持って武器を想像する。
しかし、素材に変化は感じられない。
見ていたフロックスも、『やっぱり冗談なのかよ』なんて言う。
冗談のつもりなんてなかったが、なぜか武器には変わらないのだ。
「一回きり……とか言わないよね?
考えることが間違ってたのかな……」
武器に変わるように考えてたと思うのだけど……その時は暑さとか緊張が……
万能ではなないのかなんて思いながら、少し考える。
そもそも僕のスキルは、女神の勝手でつけられた『ドリンクバー』なるもの。
女神が色々と勘違いしてくれているおかげで、何が起きるのかも分からない謎のスキルだ。
まぁメインのドリンクバーは、そのまま液体の出るものだったし、鍋のフタがスープ、サラダは植物を成長だか創造だかのスキル。
それに加えてタバスコとハラペーニョがあって、ブラックペッパー入りのミルは万能料理スキル。
なんだか既に貰いすぎな気はするけれど、魔法が使えるのならもっと色々なことができたような気もしてしまう。
製氷機は、わずかばかりの氷魔法代わりに。
武器に関しては……
「っ……ナイフ作成!」
目の前のスコルピの爪は、みるみる形を変えて刃物になった。
僕の背後で感心する声が聞こえてきたが、さらに試してみたくなって、僕は爪をもう一つ手に取った。
「ふ……フォーク! ……じゃあ箸っ!」
「何をやっているんだ?」
「いや、他にも作れないかと思ったんだけど……無理みたい」
三叉槍とか杖と勘違いしていないかと、ちょっとだけ期待したわけだが、どうもスコルピの爪では作ることができないみたいだ。
諦めたわけではない。また別の素材が手に入ったら試してみようと思うだけである。
「しっかし、こんな見たことも無い武器が売れるものかねぇ?
切れ味は確かに良いみたいだが、それもクロウが使うからであって……」
正直高価買取は期待していなかった。
というか、いつまでも素材のまま置いておくのも嫌だっただけだ。
さすがは生ものというか、素材として使う分には多少腐敗し始めていても構わないのかもしれないけれど……
「さっさと身辺整理して、街を出る準備をしようよ。
僕の親の情報も無かったみたいだし、別の街で聞いてみたいしさ」
「ん、そうだな。じゃあ俺は武器を売却してくるぜ。
あ、一本は俺用に残しておいてもいいよな?」
「いいよ、フロックスにも強くなってもらった方が助かるんだしさぁ」
僕は奴隷市場の方へ向かい、先日の少女を引き取りに行く。
フロックスと一緒だったから良かったけれど、こうやって5歳児が一人で来るような場所ではないな。
他にも来ていた人たちに、やたらと稀有な目で見られていたのが、正直辛いまであったのだ。
「先日はどうも。おや、フロックス様はご一緒では?」
「うん、ヤエって子も緊張していると思って、子供の僕だけで来たんだ」
「それはそれは、気を使っていただいて、きっとヤエも嬉しく思ってくれるでしょうぞ」
主催者ではなく、受け渡しはまた別の老人が待っていた。
解呪の魔法と、首輪を外すことができるのは、この人だけみたいだ。
そして引き渡しと同時に、僕たち用の新たな呪印を刻み込むルールだとか。
「それって、使うと魔法が出せなくなっちゃうんだよね?」
「えぇ、私に施せる最高位の呪印ですじゃ。しかしヤエはその高い魔力のせいで完全には抑えきれず……」
「フロックスから言われているんだけど、それって魔力を抑え込まないってことできるの?」
「印だけ……ですね。それは術者のわたくし次第ではありますが……」
もしも奴隷が犯罪を犯すと、処罰の対象はその主人にもいってしまう。
それが故意でないにしても、魔力の暴走で宿が吹き飛んだなんてことがあれば、おそらく禁固刑では済まされないのだとか。
大丈夫だろう。どのみち魔道具がなければ魔力は完全には抑えられないのだし、呪印を施されてしまうと必要な時に困ることになる。
「本人の意識が無い時が一番危険です。くれぐれもご注意を……」
そんなことを伝えられ、僕は遂に少女と会うことになったのだ。
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