魔法もいいけど、やっぱり剣が好きなのです

『攻撃力:(330+30)』


 スコルピウスを入手した……が、相変わらず水分は摂れていない。

 しかも、せっかく手に入れたのに大して攻撃力が上がらないのは残念に思ってしまう。


 それからも何度かこのサソリと戦ったが、思いの外簡単に倒せてしまうのだ。

 武器の攻撃力が低いのではなく……僕が鍛えすぎている??

 まさかね、多分サソリが弱いだけでしょ。

 RPGの最初だって、弱い魔物しか出ないしね。


 とはいうものの、地球とは違う成長の仕方をしている可能性もあるし、生まれた時からトレーニングをしていたおかげで常人離れを……

 ……うん、まさか……だよね。


 とにかく、気持ちだけでも喉を潤せるかと思ってスキルで生み出した水を飲む。

 やはり、数分でそれは無かったことにされるみたいで、全く効果は無い。


 まぁ、気持ちだけでも……なんて思って、砂漠で噴水のようにコーラを浴びてビシャビシャになっていたのだけど……


 服が乾くのを待っていると、一つの人影が見えてくる。

 僕のことを最初は魔物かと思ったみたいで、剣を構えて慎重に近づいてくる姿がもう……

「おいおい……こんなところに奴隷かよ?

 ん……しかもよく見たらヒューマンじゃねぇか」


 偶然通りかかったのは、ケモノの格好をした男性。

 ハロウィンの仮装とは比べ物にならないほどのリアルさで、まるで肌に直接……

 何にせよ、せっかく通り掛かったのだ。

 僕はこの機を逃すまいと、必死に男のすり寄った。

 喉が乾いて声も掠れていたものだから、我ながら少し驚いてしまったが。


「おいおい、あんまり触るんじゃねぇよ。

 こちとらヒューマンの奴隷になんて関わりあいたくねぇってのによぉ」

「もしかして本物……なの?」


 ゲームやコミックの知識としては持っているが、実際に獣人が目の前にいると不思議な感覚だった。

「本物ってぇのはどういう意味だ?

 俺は紛れもなく本物のフロックス様だぜ?」


 毛むくじゃらで軽鎧を身につけた男、犬……ではなく狼なのかな?

 グレーの毛並みで意外とゴワゴワした感じ。

 長剣も持っているし、多分冒険者だと思う。


「街を探しているんですけど、よかったら連れて行ってくれませんか?」

 僕は獣人のフロックスに案内を頼んでみた。

 このままじゃ本当に干からびて死んでしまいそうなのだ。


「馬鹿言うんじゃねぇよ。

 奴隷の言うことを聞いちまったら俺の方が処分されちまう。

 悪いことは言わねえから、早くご主人様のもとに戻るんだな」


 また奴隷なんて言われてしまった。

 そんな制度があることも知らないし、だとしてもこの場所にいる理由が……


「道に迷ったのなら、あっちに向かえ。

 お仲間さんが見えてくるだろうよ」

 うーん……近くに奴隷の働く場所があるって事なんだろうけど……


 僕が『奴隷じゃない』と言うのだけど、フロックスは聞き入れてくれない。

 人族の奴隷は珍しいらしく、ほぼ間違いなく貴族の者か余程の権力者が主人であることが多い。


 イコール、不興を買ってしまうと処分されかねない。

 つまり、関わりあいたくない存在ということだそうだ。


「じゃあ僕が奴隷じゃないって証明できたらいいんだよね?

 普通は首輪とか着けてるもんじゃないの?」


 さすがに魔法での強制力だとか、見えない呪印がどうのと言われては仕方ないが、奴隷制度があるのならその証拠もあって不思議ではない。


「いや、魔法による見えない刻印みたいなものが……」


 残念っ!

 もう僕には僕が奴隷でない証明は不可能だ……

 見えないものをどうやって見せろというのだ……


「そういや、反乱が起こせぬように魔法を封じているとは聞いているが。

 ……どのみちお前のような少年が魔法を使えるとは思えんしな」


 なんて蔑んだような目をするのだろうか?

 それほど奴隷というものに関わることは避けたいのだろうが、どう見ても僕はただの少年。

 『可愛い』をつけてもいいくらいの純粋無垢な、普通の少年なのだけど……


「……あと、魔法なら使えますよ?」

「いや、魔法が使え……うん、まぁそれはいいが、なにが『あと』なんだ?」


「あと、僕は可愛い少年だってことですよ」

「お、おう……最近のガキは自分で言うんだな……」


 魔法を見せれば奴隷じゃないと証明できると言うので、僕は噴水のように水を上空に向けて噴き出してみた。


「なるほど、たしかに奴隷にはできない魔法が使えるようだ。

 まぁ、そんな剣を持っている時点で奴隷なわけがないのだろうがな……」


 ……わかっていたのかよ!

 とはいえ、なるべくは関わりたくない気持ちが強いのだろうから仕方ないか……


「ぷはぁ! あー生き返ったよ……

 もう本当に死ぬかと思った、ありがとうお水っ!」

 動物の皮で作った水筒を手渡され、『少しだけだぞ』と嫌そうな声で言われた。

 もう本当に神か仏かと思ったね。

 男に水筒を返すと、半分くらいになっちゃったそれを持って、舌打ちをしている。

 うん、いやぁ申し訳ない。ほんの少しで我慢できるわけがなかったんだよ。


「街まで、おじさんに付いて行きたいんだけどダメ?」

「……お前が奴隷じゃないのはわかったが、足手まといは困る。

 俺は今からスコルピ狩りに行くんだ」


 スコルピ……というのは、サソリのことだろうな。

 狩りに行くのだからやっぱり冒険者か。

 だったら、今こそ僕を売り込むチャンスだろう。


「スコルピって、あの大っきいサソリ?

 ……なわけないかぁ。

 あんなの子供でも倒せるんだし、フロックスさんの討伐目標って言うのなら、大きなドラゴンなのかなぁ?

 でも、そんなの見たかなぁ……?」


 ニヤニヤとしながら煽ってみたけど、案の定ムスッとした表情を見せるフロックス。


 名前からして魔物は間違いなくあのサソリだろう。

 だったらこのフロックスという冒険者……大したことない?

 よし、せめて街に辿り着くまでは利用させてもらおうじゃないか。


「ほう……そこまで言うのなら、一人でスコルピが倒せるんだな?

 俺の代わりに素材を手に入れることができるなら、逆に『俺がお前に』付いていきたいくらいさ」


 よしっ、これで街へ行くことはできそうだ。

 別にフロックスについて来て欲しくはないが、サソリを数体倒すだけで信用が得られるなら安いものだ。


「おいおい……マジでやる気なのか?」

「だって、こうでもしなきゃ街に帰れないじゃん。

 連れて行ってくれるなら僕も助かるんだけどさ」


 砂漠を歩く僕とフロックス。

 身体の大きさに似つかない大きな剣をブンブンと振りながら歩いていた。

 素材はそのスコルピなのだけど、加工されているためか、フロックスはなにも思わないみたいだ。


 もしくは普通にありふれているから、子供でも持っていて普通……とか?

 剣を持つ子供なんて、どう考えても普通じゃないと思うのだけど……


「いやがった……

 おいっ、悪いことは言わねぇから後ろに下がっとけ。

 後で街には連れて行ってやるからっ」


 スコルピを見つけてすぐに、フロックスは僕の前に出ようとする。

「いやいや、僕が倒すって約束じゃん!」

「何言ってんだ、相手は魔物だぞ!」


 そんな僕たちの騒ぎを聞きつけてスコルピも急接近。

 カサカサカサ……シュッ!


「遅いよっ!」

 ザンッ……


 大きな剣を縦に一振り。

 眼前までやってきたサソリの尻尾だったが、それ以上僕に近づくことはなかった。


「ほら、簡単だったでしょ」

「お……おう……

 まさか無傷で両爪が手に入るとは……な」

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