目的は僕ではないのです?
「貴様が怪しげな薬を使うというガキか。
その力で一体何を企んでいるのだ?
人間に紛れて魔法学院に潜り込んだようだが、そんなことで騙せると思うなよ!」
矢継ぎ早に僕を責め立てる一人の男。
一体何を言っているのだろうか?
怪しげな薬……とは一体?
思い当たるものといえば、タバスコかハラペーニョくらいなものだが、言うほど怪しいか?
せいぜい爆弾と治癒ポーションの代わりになるくらいじゃないか。
うん、十分に怪しいな。だとしても一体どこから情報が漏れたのだろうか?
危険な使い方をした覚えもないし、まさか畑に残された僕たちの足跡なんかから?
とにかく、何も悪いことはしていない。
ところが、僕が何を言っても子供だからと相手にされず、今度は父が何かを言うと、男は『この場で処刑でも俺は構わんのだぞ』などと言う。
奥の寝室ではアイビスの泣き声が聞こえてくるが、兵が止めに行ったところで泣き止むはずもない。
「僕がついて行けばいいんですよね?
だがら、お父さんたちに手は出さないでください……」
ここで言い争っても仕方ない。
僕が諦めて大人しくすると、今度は『聞き分けが良くて当然だろうな、中身はガキじゃねぇんだろうから』なんて笑いながら言う。
まぁ、たしかに中身は子供ではないかもしれないけどさ……
だからって悪魔は酷くないか?
そんなつもりだったら、既に街は火の海だ。
まだ家族に手を出すつもりなら、今からでもそうしてやってもいいんだぞ……
ひとまず撤収だと言っていたので、僕も気持ちを落ち着ける。
すぐに外に連れ出されると、馬車に乗った人影が、僕に気付いて身を隠す。
年老いた……産婆さん?
……あぁそうか、あの人の前でハラペーニョポーションを使ったものだから、僕のことを気味悪がって通報したわけだ。
仕方ないかもしれないけど、関係ない両親まで巻き込むのはやめてほしいものだ……
しかし、そうなると疑いを晴らすためには一体僕は何をすればいいのか。
実際にアイテムを取り出して無害を証明する?
だけど、それは強い力を持っているのだと言っているようなもの……
いっそ学院長でも助けに来てくれないか……
縛られて投獄されるのだろうか?
忠誠を誓うとか、僕の力を国のために役立てたら許してもらえるのだろうか?
そんな考えを巡らせていると、前を歩いていた男の動きが止まる。
「な、なんだ貴様はっ?」
ん……なにかあったのか?
僕は顔を前に向ける。
目の前には、頭にツノをもった女性が一人……浮いていたのだ。
「あら、人間風情が私に向かってなんて口の聞き方なのかしら?」
女性は空から僕たちを見下ろしていた。
羽も生え、それ以上に目立つあちこち際どい衣装は、兵士たちの目には毒ではないだろうか?
「な、なな、なんて格好をしているのだ!
そんなところに浮いていないで降りてこないかっ!!」
いや、兵士以前に、この男にとってが一番の毒だったようだが……
「うるさいわね……私が用事のあるのは、貴方じゃないのよ」
おそらく、この人こそ本物の『悪魔』と呼べる存在なのだろう。
女が急に男に近づいて、『ふっ』と息を吹きかけた途端に、男は姿を消してしまった。
一瞬の出来事だ。マジックでないのなら、そういう魔法なのだろうか?
「な、なんだ⁈ 一体どうしたのだっ!」
ざわざわと兵士が騒ぎ出す。
外の様子が気になったのか、産婆さんも馬車から顔を出して驚いた形相を浮かべていた。
すると、女は僕の方に寄ってきて、ジロジロと品定めでもするようだ。
倒すべきか?
今ならタバスコ爆弾で……いや、それでは周りにも被害が……
「うーん……魔力のカケラもないし、この子じゃなさそうね。家の中……か」
まだこの悪魔が敵だと決まったわけではない……が、一人の男が消されてしまったのも事実。
ここで躊躇していたら、きっと全員がやられてしまうんじゃないか?
おそらく、その辺の魔物なんかとは比べ物にならない強さなのだろう。
本当に歯向かってもいいものなのか……
「まぁいいわ、役に立たないモノに要はないもの」
女の手が迫る。僕も消されるのか?
「うちの息子に手を出すなぁぁ!」
その瞬間、大声で叫びながら父レイブンが後ろから急接近。
長剣を握りしめ、悪魔の女性に向かっていった。
「父さんっ!」
僕はすぐに父の前に立ちはだかる。
悪魔を守るためではない。
悪魔の手はスッと向きを変え、今にも父を消し飛ばそうとしていたからだ。
やむを得ないっ!
僕は、すぐに鍋のフタを出現させ、タバスコ爆弾を片手に3つ。
それを思いっきり投げつけると同時に、僕の身体は悪魔の攻撃を受けた鍋のフタと共に吹き飛ばされた。
「あら……な、なかなかやるじゃないの……」
僕の方もずいぶんと痛い思いをしたが、悪魔にもかなりの痛手を負わせることはできた。
こちらはすぐにハラペーニョポーションを飲んで、体力は回復できる。
信じられないものでも見ているかのような父の視線は少しだけ辛かったが、それで家族が守れるのなら何の問題もない。
「そこまでして守りたいってわけ?」
少しだけ怒りを露わにした悪魔の声が聞こえてくる。
ただでさえ危ない衣装が、さらに爆発の影響で大変なことに。
そんな薄着でいるから爆発のダメージも大きいのだ。
胸を隠すように腕を回しているが、それだって自業自得だろう。
「いいわ、貴方の強さに免じて、貴方と貴方の家族は生かしておいてあげる。
それに、次に会う時は手加減しないわよ……」
悪魔は再び上空へ。
このまま立ち去ってくれるのだと信じたい。
「そうそう、目的だけは遂行しないとね……」
悪魔は振り返り、気付けばその腕には小さな赤子が抱かれていた。
「バイバイ、また会う日までぇ」
悪魔が手をパタパタと。
ニッ、と小さく笑った表情がとてつもなく不気味に感じられてしまった。
そしてその瞬間、僕たちの足元に巨大な魔法陣が出現し、僕だけでなく、僕の家や馬車や兵士をも、全てを巻き込んで魔法が発動したのだった……
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