青汁……みたいです

『攻撃力:315』

『運:5(+5)』

 装備をしても上がるのは運だけだったか。

 それにたったの5って。元の数値も5だし、僕って運が悪いんだろうなぁ。


 家まで付けて帰ったのだけど、食事のときに着けるのは行儀が悪いだろう。

 僕はそれを外してテーブルの隅に置いておいた。

 父がそれを見てハッと驚いていたのだけど、どうやら冒険者には有名なアイテムのようだ。

「それはっ、グリーンスライムの腕輪じゃないか!」

 いやぁ、こういう時に父の言葉は役に立つ。

 アイテムのことだったら、やっぱり直接関わりのある人たちの方がよく知っているなぁ。


「どこで手に入れたんだ?

 それを身につけると幸せが訪れるっていう貴重なアイテムだぞ?」


 えっ? ……いや、普通に(畑で)拾ったんだけど……

 僕がスライムを倒して、だけど。


 しかし、たった『運+5』で貴重アイテム???

 確かにまぁ、上げる方法もわからない運が上がるのは貴重なのかもしれないけれど。


「ねぇお父さん、これお母さんにあげてもいい?

 僕は魔法学院にも行けて、毎日おいしいご飯も食べれて幸せだし。

 周りがもっと幸せになってくれたら、僕ももっと幸せだよ」


 母が幸せではない、というわけではない。

 やはり出産が近いと、時々表情が辛そうに見えてしまうものなのだ。

 それに、無事に兄弟が産まれてきてほしいという気持ちもあった。


「あぁ。きっと喜ぶんじゃないか?

 それにしてもグリーンスライムをお前がなぁ……」

 正直に魔物と戦ったことを言う。

 後でバレても面倒だし、普通のスライムだと思っていたことも伝えた。


「あれは新人の冒険者程度では、まともに戦えない魔物だ。

 きっと、どこかの戦闘から逃げてきたかで弱っていたんだろうな」


 そう言って父は一人で納得してくれたみたいだ。

 今まで街の外れで見ることはなかったらしいのだが、念のためギルドで対策を考えてみると言う。

 怒られはしなかったが、危険だから今後は近付かないようにも言われてしまった。


 しかし運が5……というのがどんなレベルなのか……

 攻撃力も気になるし、でも魔物と戦う機会は少ないし。

 まぁでも僕のステータスどうのというより、単純にタバスコ爆弾の威力がヤバいのだろう。

 『実はもう一体……』なんてことを言う必要もないだろうが、ツグミちゃんの方は問題になっていないだろうか?


 翌朝、早速先生はその話をされていた。

 普通のスライムだけだったから放置されていたのだが、グリーンスライムがいるとなれば話は別らしいのだ。


 それに、地面には大きくえぐれた跡があったので、他にも危険な魔物がいるかもしれないなんてことも。

 ごめんなさい……そっちの犯人は僕です。

 そういえば穴を埋めずに帰ってきちゃったな、失礼しました……


 今度から、タバスコ爆弾を使うときは気を付けなくては。

 さすがに何度も騒ぎを起こすわけにもいかず、その後、僕たちは大人しく授業を受ける日々を過ごした。


 しばらくして、母は無事に女の子を出産した。

 僕の時もこんな風に産まれてきたのだろう。


 年老いた産婆は街では有名らしく、僕の時にも同じ人に見てもらったのだとか。

 腕輪を身につけていた母は、それのおかげだと言って笑顔を見せていた。

 少しでも気持ちが楽になってくれたのなら、僕としても嬉しい限りだ。


「この子の名前はアイビス。

 女神様がさっき伝えてくれたんだ」

 父レイブンが、新しい家族をそっと抱き上げて名前を言った。


 僕の時のこともあったし、アイビスという名も、本当に女神が名付けたのかもしれない。


 ……とすると、僕と同じ転生者だったりする?

 いやいや、普通に女神様は誰にでも啓示を授ける殊勝なお方なのかもしれないじゃないか。信じられないけどさ……


 産まれてきた子はちゃんと泣くし、僕の時と違ったせいか父は慌てふためいていた。

 なんとなく記憶に残っているが、やはり赤ん坊はこのくらい泣くのが普通なんだろうな……


 と、そこまでは僕だって知識はある。

 さすがに出産の時に、その場にいるほどの勇気は無かったけれど。


 問題は、アイビスを産んだ後の母カナリーの様子がおかしいことだった。

「いかんっ、早く治癒師を呼んでくるのじゃ!」


 顔色が……これは出血量が多すぎたということなのか?

 布越しに、ではあるが何やら産婆が緊急処置を施しているようにも見える。


 アイビスをそっと布の上に置いて、すぐに家を飛び出す父レイブン。


「あわわ……」

 人間、本当に慌てふためくと、漫画の表現のような言葉もでるものなのだな。


 これは直接止血……とかそういうことなのだろうか?

 それにしても僕の渡した腕輪の効果はあまり無かったわけだ……


「何か……何か出来ることないの??」

「……どうにもならん、これを治せるのは治癒師だけじゃろうて。

 もしくは回復ポーションでも有ればとは思うが……そんなものすぐには……」


 すぐには手に入らないもの……名前自体はゲームなんかでよく聞くのだけど。

 女神からスキルを授かっているのに、こんな時にポーションの一つも出せないとは……


「いや、あの女神様のことだし……もしかして」

 僕はハッとして、すぐにスキルを使用した。


 『ドリンクバーの近くに置いてあったアレ』ではなく、『回復効果のあるアイテム』

と思うことで、何かしらは出ないものかと考えたのだ。


「あれ? ……これって」

 そう、次の瞬間手に握られていたのは、緑の液体『ハラペーニョ』だったのだ。


 確かに『調味料』だと思わなければ、回復できそうな色にも見えなくはない……


 ともあれ、すぐにそれを母に振りかけた。

 イメージの中ではドロドロだったけれど、フタを開けたそれは、サラサラと流れて瞬時に乾いたように消える。


「お……おおっ!

 一体何をしたんじゃ坊主……」

「ごめんなさいっ、ちょっと待っててくださいっ!」

 少しは顔色が良くなったみたいなので、僕は再びハラペーニョポーションを取り出す。

 直接飲めばより効果は高そうなのだが、ハラペーニョを直飲みする姿はどうにも異様に思えて仕方なかった。


 なんとか顔色も良くなって、危機は脱したようだ。

 しばらくして、治癒師が見つからないのだと言って戻ってきた父レイブン。

 その苦労は認めるが、すでに母は回復しアイビスを抱き抱えていた。


 やっぱり出産って危険なものなのだろう。

 何事もなくて、本当に良かったと思う僕であった。

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