色が違うのは何故です?

『攻撃力:302』

『素早さ:289』


 日に日に身体が軽く感じられるのはどうしてだろうか?

 いや、そんな目に見えて変わるのではなく、先週はこんなものだったなぁ、その前はもっと動けていなかった気がするのだけど……と。

 強いて言うなら……そう、徐々に呪いが解けていく気分とも思える。


 小学生ってこんなに動けたか?

 いや、月の重力は地球の6分の1だとも言う。

 ならば、この世界ではこれが普通なのかもしれないじゃないか。

 剣を振るう事もないし、全速力で走ることもそう多くない。

 でもまぁ、鍛えていただけあって、学院のみんなには足が速いとは言われるけれど。


 剣かぁ……そろそろ剣術を教えてもらうことはできるだろうか?

 いや、きっとその時は父レイブンから言い出すに違いない。

 今は基礎体力を上げて、その時になってガッカリされないようにしておこう。


 それにしても一時は、スープやサラダのスキルで食事には困らないと思っていたというのに。

 だけど、そのどちらも食事を出現するスキルではなかったのだ。


 しかもドリンクバーもまた、出現している時間はほんの数分間。

 飲んでもお腹が満たされなかったのは、すぐに消滅していたせいなのだろう。


「ずいぶんと楽しそうじゃないか。

 魔法の授業は面白いのか?」

 父レイブンが、食事の最中聞いてくる。


 そりゃあいつもより楽しい。

 今から母カナリーによって目の前に並べられる料理は、僕のスキルで作ったものなのだ。

 そう、今日はこの世界では見たことのないピザを作ってみた。


 小麦、野菜、生乳が原料で、中でもやはりトマトは欠かせなかったし、久しぶりに母と市場へと。

「もう、本当にびっくりしたわよ……

 最近の魔法って料理もできちゃうのね」


 水魔法も火魔法も使わずに、僕はクリスピータイプのものを焼き上げる。

 このミルの名前は『神速クッキングミル』とでも名付けておこう。

 略して神ング……いや、普通に神ミルでいいや。

 まぁそんなスキルもわかったわけで、最近は母のお腹も大きくなっていたし、できるだけ家のことも手伝ってあげたかったのだ。


 消化に悪そうとか、塩分多そうなんてことは考えていない。

 野菜多めで栄養のありそうな料理を考えた結果、この料理になっただけである。


 それとは別に、スキルで出現させた『あるアイテム』を使いたい気持ちもあった。

 結局、『それ』をふりかける気にはならなかったのだけど……


 食事の時間は楽しく過ぎていき、もうすぐ産まれそうだという子供の名前の話になる。

 僕の時は女神様から授かったらしいのだが、あの女神がそんなことを全員に行なっているとは思えないのだがなぁ。

 『面倒くさい』的な発言がちらほらと聞こえていた気もするし。


 そして平穏な日々は続き、しばらく時は流れた。

「また新しい魔法を覚えたの?」

 教室の横の席、いつの間にかツグミちゃんの指定席に。

「ツグミちゃんだって凄く上達したじゃない。

 でもいいなぁ、クロウばっかりさぁ」

 またその向こうにはヒガラお嬢様。

 席替えなんてした覚えはないのだけど……


「あっはは……でもまだ使い道がよくわからなくって。だから黙ってたんだよ」

 その日の授業も全て終わり、帰り支度をしていた時の会話である。


 授業を終えた僕は、ツグミちゃんとヒガラお嬢様と共に、街の外れへと向かっていた。

 今日は、料理にかけるのを『躊躇ってしまったアイテム』を試してみる。


 一つは赤い液体の入った小瓶、いわゆるタバスコというやつだ。

 もう一つは緑色の小瓶で、名前はハラ……ハラペーニョだったかな?


 どちらもドリンクバーの横に置いてある『ご自由にお使いください』という調味料……なのだが、あの女神だから信用ならない。

 だから先日は試さなかったし、別の場所で試したところ、それが正解だったと胸を撫で下ろした結果となった。


 ちなみに粉チーズも出てくるかと思ったのだけど、それはスキルでは生み出せなかった。

 女神が確認した時には置いてなかったのだろうか?

 そして問題は、このタバスコがやけに毒々しい赤色をしているということだ。

 明らかに食べられるものの色ではないぞ……


「あら? ここって、よくスライムが出てくる畑のある場所じゃない」

「そうなの? ヒガラちゃん……」

「大丈夫だよツグミちゃん。

 スライムは弱いし、試すのならやっぱり魔物がいいかなって思ってさ」


 それに、この畑はすでに収穫は終わっていて、暖かくなるまで放置されるみたいだから。

 それがアイテムを試すにはちょうどよかった。


 少し歩くと、葉クズに集まるスライムを発見しする。

 倒したところで小さな核を一つ落とすだけの魔物。

 お金にもならないし、街の人もスライムには恐れている様子はない。


 僕はまず、赤い小瓶を取り出した。

 普通だったらピザかパスタにかけたいところなのだが、どうやら女神様的には攻撃アイテムに見えたらしい。


 チュドーン!!

 威力はそこそこだったが、反撃にこないところをみるに倒したのだろうか?


 一応魔物なのだし、念のためにもう一撃……


 グリフォン相手だったらわからないけれど、スライムは簡単に吹き飛んだ。

 心底、あの時ピザにかけなくて良かったと思う僕。


「あれ? なんか核じゃないのも落ちてるみたいだけど……」

 僕は倒したスライムのところに、ツグミちゃんが様子を見に行っていた。

 危険だからと止めたのだけど、僕が魔法を使ったなら大丈夫だという認識らしい。

 こんなものでも魔法に見えるのかな……?


 ツグミちゃんが拾い上げたのは銀色の輪っかだった。

 腕に着けるにはちょうどいいサイズ。


 しかし、核じゃないものということは、普通に落とし物だとも考えられる。

 爆発で壊れなくて良かったと思いながらも、少しだけ期待してしまう僕。


「もしかしてレアドロップだったりして」

 そう、魔物がいるということは、たまには変わったものを落とすこともあるかもしれない。


 たまたまそこに銀色のスライムがいたとか、たまたま銀色でドロドロとしたスライムがいたのかもしれないのだ。


 落とし物の可能性も捨てきれないので、もう少しだけ周囲を見回してみる。

 すると、水色のプルプルしたスライムに混ざって、やや緑がかったスライムを発見した。


 突然変異?

 いや、レアな魔物だろうか?

 どちらにせよ、まとめて吹き飛ばすだけ。


 再び、ちゅどーんを繰り返すわけだ。

 ちなみに緑のハラペーニョは未だに用途不明。

 魔物を毒にでもするのかもしれないが、試したところで効果は感じられていない。


 更にドカンと大きな爆発がもう一つ。

 意外にも緑色のスライムは、まだ形を保っており僕目掛けて突っ込んできた。


「きゃあっ!」

 横にいたツグミちゃんが驚いて、僕の腕を引っ張る。


「っとと……」

 変な体勢になりつつも、偶然僕の足が緑のスライムにクリーンヒット。

 まるでガラスが砕け散るかのように、緑のスライムは弾け飛んでしまった。


 キラキラと消滅していくスライムたち。

 意外と綺麗かもしれない。

 夜の畑で打ち上げスライム……

 いやいや、変な想像をしてしまったじゃないか。


 とにかく倒してみると、魔物が消えた後の地面には、再びあの輪っかが落ちていたのだ。

「うん、やっぱりドロップアイテムみたいだよ」


 父が教えてくれたことがあった。

 冒険者の中では有名な話らしいのだけど、魔物の中には珍しい希少種というやつが存在するそうだ。


 他の普通の魔物とは違い、倒した時に素材は残らない。

 魔力が強過ぎたりして消えてしまうんじゃないかって話だった。


 その代わりに不思議なアイテムが生まれることが多い。

 おそらく今回の腕輪もきっと……


「わ……私はいらないわよ。

 そんな落ちていた輪っか……」

「そう? なにか良いことがあると思うんだけどなぁ~」

 ヒガラお嬢様に振られてしまい、仕方なく僕とツグミちゃんで着けてみる。


 普通に考えるとスライム程度ではせいぜい『最大HPの上昇効果』だろうか?

 これで永続回復効果とか、魔法反射効果とかだったら面白いのになぁ。

 そしてステータスを見ると、それはすぐにどんな効果だったのかが分かった。

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