魔法がなくても不自由はない?

 煌々と輝く店内の裏側、冷たいコンクリートと冷たい流水が身体を芯から冷やしてしまう。


「なんで私が皿洗いなんてしなきゃいけないのよぉ……」

 女神アルバトロスは、地上に降りたことを少しだけ後悔していた。


 お金が無くても女神の祝福を与えれば、だいたいどの生物も納得する。

 幸せを感じることは、生きるために最も大切なことなのだから。


「なによお金お金って……

 人間って本当に生き物なの??」

 一枚、また一枚と洗い終えた皿を並べていくが、ほんの少しの苛立ちで手に力が入ってしまった。

 パリンッ……


 少なくとも、これほどの守銭奴たちを他の世界では見たことがないアルバトロスであった。


 まぁ、『賄い』とかいう食事は美味しいけれど……

 いやいやそうではない。

 自らの手で作物の育つ土地を潰してしまい、生きるために遠くから運ばれた食物を買う。


 この地球という星の生き物は不思議すぎて仕方がない。

 魔力の源である世界樹を切り倒し、そこに都を作ったのが約二万年前だったか……

 破滅も近いと思っていたら、私の想像しない進化をし続けて今に至っている。


 自ら電気を生み出し、原始構造を調べて未知の物質を作り出すという恐ろしさ。


 まぁいい、私自身もこの先の未来は少々気になるのだから。

 賄いはまぁ……美味しい。

 カルボナーラとかいう小麦と乳をふんだんに使った料理だというが、形が違うとこうも旨いものか……


 その料理に皆が使っているペッパーミル?

 あれは料理を一瞬で完成させる魔法道具だろう?


 『バイト』とかいう者たちが、店内からコッソリ持ち出してかけているが、これは……

 ただの調味料。胡椒が入っているだけだった……

 うん、もう間違えたことは気にしないことにした。


 『やっぱりこれで完成だよね~ばえる〜』なんて大きな声で言われたら、そういう魔法道具だと思っても仕方ないじゃないの。

 なんで二種類もあるのかと不思議だったけど、中身が岩塩と胡椒の二種類だっただけだなんて……


 というか、今気付いた。

 この世界に魔法なんてないんだった。


 美味しい料理は手作りだし、水道ってどこから引っ張ってきてるの? 山? 川?

 もしかして魔法が当たり前の世界よりも進んでいる???


 そう考えた女神は、試しにどこかの世界から魔法の力を消してみようかと考えていた。

 簡単なことだ、直径1kmはあろう世界樹をドーンと切り倒してあげればいいだけなのだから。


 地球の場合は根っこから掘るという、よくまぁやったよね……っていう理由によって二度と魔力は溢れることはないが。

 切り倒すだけでも数千年は復活しないだろうから。


 そしてそのせいで、また一つの世界が危機に見舞われてしまったのは、また別のお話……

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