あの女神はなんのスキルを与えてくれたのです?
「まぁ、お前たちのおかげで被害はほとんど無かったわけだが……」
教室に戻ると、セキレイ先生は神妙な顔をして喋りだす。
床に視線を移したり頭を掻いたりと。
その仕草から、僕たちのことを怒るに怒れないのだろうことも察してしまう。
食事の時間が近かったこともあり、授業は無し。
お昼まで、少しだけ話をしたいのだと言うセキレイ先生。
まず、水以外の物質を生み出すのは、高等部になってから習うことだと教えられた。
消費魔力が多くなり、中等部までの子供達ではすぐに倒れてしまうかららしい。
そしてそれは、水や土などの属性魔法と呼ばれるものではなく、生成魔法と呼ばれる部類に入るとも言っていた。
ちなみに水魔法の消費魔力が少ない理由は、誰しもがその実物を見ているからという説もある。
だけど、一般的には水の女神様からの恩恵だと信じられているのだとか。
そして、何故か先生は僕を見る。
「ん……んん。それでだ……」
何を言いたいのだろうかと思っていたら、急に教室のドアが開く。
「セキレイ先生、勿体ぶらずに早く見せてもらってくださいよ!」
バーン! と強く開け放たれた扉は、反動でわずかに跳ね返ってくるくらいにだ。
入ってきたのは学院長……と中等部の先生だった。
「す、すまんがクロウ君。
先ほど中庭で見せてくれた魔法をもう一度やって見せてくれないか?」
どうやら報告を受けた学院長が、『私も見てみたい』などと言い出したらしく、ずっと教室の前で待っていたのだと。
「いいだろ? さぁ、見せてくれないか、クロウ君っ!」
ズンズンと迫ってきて、僕の席までやってくる学院長。
がっつくように身を乗り出した姿は少し怖い。
そんなに期待されても、僕のスキルで出てくるのは鍋のフタなんだけど……
空中に作り出した鍋のフタは数秒で消滅してしまう。
すぐに連続で……とはいかず、ほんの少しのクールタイムが必要なようだった。
「まだやるんですかぁ……?」
「いいじゃないか少年よ! その様子なら、まだまだ余裕はあるのだろう?」
先生たちはそんな鍋のフタを触ったり叩いたり。
『金属の生成魔法など、魔力の消費が激しすぎて私には不可能だ……』なんて呟き、あれこれと議論を始める先生たち。
僕のスキルの場合、魔力は関係ないのだろう。
女神様の力なのか、それとも他に代償を支払っているのだろうか?
「いやぁ、素晴らしい地魔法を見せてもらったよ。
それとみんな、今日の昼ごはんにも期待しておくれ」
ほっこりと、いやニンマリとした表情で満足げに教室から出て行く二人。
食事を期待するとはどういうことか?
なにやら嫌な気がしてしまう僕だった。
そして昼食で配られた料理には……
「むちゃくちゃ#美味__うめ__#ぇ!
なんだよこの肉は⁈」
真っ先に三人組が美味しそうに料理を頬張っていた。
僕だって肉を食べる機会は滅多にないが、この肉が上等なものだということはわかる。
まるで交雑牛……いや、和牛のシャトーブリアンにも匹敵するような柔らかさ、そして赤身の濃厚さ……
セキレイ先生の前には特上サーロインステーキのようなサシの入ったステーキが……
僕の予想が当たっているのなら、間違いない、これは……
「先生っ、もしかしてグリフォンの肉ですかっ?」
魔物がこんなにも美味しいとは思わなかった。
想像だが、筋張っていて煮込んでも食べられないものだと思い込んでいたからな。
なんて自身ありげに尋ねてみたところ……
「いや、たまたま立派な牛肉が市場に並んでいてな。
グリフォンの素材を買い取ってもらった金で買ってきたんだよ。
お前たちが倒したんだから、ちゃんとお前たちのために使わなきゃいけないだろ?」
戦った者たちで戦利品を分け合う。
それが冒険者としての常識なんだそうだ。
今回は僕たちが生徒だということもあり、食べ物で消費してしまおうということらしい。
結局僕たちが食べているのは、ただの牛肉だった。
というか、牛がいたんだな……
馬車も見かけるし、牛がいても不思議ではなかったが……
ちなみにグリフォンに限らず魔物の肉は魔力を含んでいて、主に冒険者が食べる干し肉に加工されるらしい。
少しの体力と魔力の回復ができるそうだ。
「せっかくだ、午後の授業はやめて『干し肉作り』でも教えてやろうじゃないか」
羽や牙、皮なんかは武器や防具にも加工されるため、それらは全てギルドに持ち込んだらしい。
学院でも干し肉作りの授業は予定されており、それに使う生肉にはもってこいの素材なのだそうだ。
普段は、あまり回復効果の感じられないファングとかいう魔物の肉を使うことが多いとか……
「これがグリフォンの肉だ。
魔力に満ち、このままでは食用には向かないが、それも加工することで『素材』から『回復アイテム』へと昇華されるのだ」
なんて説明されたところで、見た目はただの肉の塊。
干し肉作りは簡単で、これを薄く切り分けて乾燥させるだけらしい。
見た感じだと、塩胡椒でもして焼くだけで十分美味しそうなんだけどなぁ……
そういえば、さっきのお肉には胡椒はかかっていなかったようだったが……
そういえばドリンクバーにもミル付きのものが置いてあったな。
「……⁈」
先生は、誰かに切り分ける作業をさせようとしていた。
「先生、変なこと聞くんですけど『胡椒』って高いんですか?」
「胡椒? まぁそこそこ高級ではあるが、それがどうした?」
どうもこうもなかった。
今僕の手には手回しのミルが握られている。
中身は不明だが、想像していた通りに胡椒が入っているとすれば、料理の味がグッと引き締まり、臭みの解消にも……
気になったら試してみたくなってしまう。
ただ間違っていたことは、それが普通のスパイスとしてのミルだと思っていたことだった。
僕はヤンが切り分けた一切れの生肉に、その中身をガリガリとふりかけてみる。
「お、おい……一体なんの魔法だ?」
先生は驚いている。
そりゃあ当然だろう。直前まで生肉だったグリフォンの肉は、一瞬で干し肉へと変化していたのだ。
さすがにこれには僕の表情も引きつってしまった……
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