攻撃は最大の防御なのです

 空き地に行った数日後から、地魔法の授業は教室で基礎理論から始まった。

 座学が一通り終わると、さっそく実習授業である。

 それほど場所をとるような実習ではなかったし、中等部と中庭を共用してこじんまりとした中で行われていた。


 それにしてもまさか、女神がスープのことを『盾』だと勘違いしていたとは思わなかったな……

 どれだけスープを思い描いても、全くスキルが発動しなかったのはそういうことだったのか。


 実習が始まり、先生が地面を動かすようにと、生徒に指示を出す。

 わざわざ練習のために用意された、ふかふかの柔らかい土だ。

 腐葉土……に近いかもしれない。


 しかし、一番手のツグミちゃんはうまく動かせない。


『いい?

 黙って練習していたってバレると、二度は許してはくれないかもしれない』

 僕は空き地での練習前にそう伝えていたのだ。


 ヤンたちも、それにヒガラお嬢様だって1週間も練習すれば、かなり上手になると思う。

 だけど水魔法の時の二の舞は勘弁だ。

 だから、僕はあえて正しい地魔法は教えなかったのだ。

 もちろん全員の承諾済みだ。


「あー、やっぱり操作するってのは難しいな」

 ツグミちゃんに続いた二番手のヤンも大失敗。


 なぜかヒガラお嬢様が一番上手だったが、多分僕たちに黙って練習したのだろう。

 空き地では、小石が全く動かなくてイライラしていたみたいだったし。

 『まぁこんなものよね』なんて言って、得意顔をしているのだから可笑しいものだ。


 遠くから僕たちを見ていた中等部の生徒たちも、ヒガラお嬢様の地魔法には感心して拍手をしている。


「なんだなんだ?

 ……全くお前たちには毎度驚かされるな」

 先生にはそれが普通じゃないことくらい、すぐに理解できたんだと思う。


 だが、前回のようにとんでもないことをしたわけでもない。

 チラッとだけ僕を見た先生は、やれやれといった風にため息をついていたのだった。


「あとはクロウだけだな。ほどほどに……頼むぞ」

 僕は先生に言われて一歩前に出る。

 中等部のみんなも、僕の番になった途端にざわついていた。


 さすがに前のようなヘマはしない。

 ちょっと土の中に鍋のフタを生み出して、土を盛り上げる程度で終えようと思うのだ。


 さて……と手を前に出して構えた途端、中等部の方がなんだか騒がしいのに気付いて、意識をそちらへと移す。

「おいっ、あれ魔物じゃないのか?」

「マジか、グリフォンじゃねーか!」

「キャーッ!」


「グリフォン……?」

 上空を見上げると、確かに羽の生えた獅子のような魔物が僕たちを見ているのだ。

 騒ぎに気付いた先生は、すぐに僕たちは校舎の中に入るよう呼びかける。

 僕も……魔物を見たのは初めてだ。

 プリンが出るという空き地ですら、結局見ることはなかったのに。


「なぁっ、クロウならあの魔物倒せるんじゃないのか?」

「いやっ、無理だよあんなの⁈」

 校舎内へと向かう途中、ヤンに言われてビックリしてしまった。


「そうよっ! クロウのあの水魔法なら!」

 『そうだそうだ』なんて期待を込められた言葉が僕に投げかけられる。

 確かに水魔法でグリフォンを打ち落とすことは可能かもしれない。

 いや、でもさすがにそんなこと……


「水刃っ!」

「土壁っ!」

 二人の教師が、頑張ってグリフォンと戦っている。

 上空を飛ぶグリフォンは、火の玉を吐いて攻撃してくる。それも何発もだ。

 それを地魔法で防いで、先生は高威力の水魔法で攻撃をしている。


 さっさとどこかへ行ってくれればいいのに、水魔法が効いていないためかずっと上空で停滞しているグリフォン。


「僕も攻撃してみますっ!」

 そう言って僕は一歩前に出る。

「クロウ君、頑張って!」

 ツグミちゃんの声援を受けて、スキルを放つ手にも力が入る。

 しかし、勢いよく水魔法を放ってみたのだが、途中で威力は落ちて効果はほとんど無いようだ。

「届かない……か」


 ざわざわとみんなが焦りだす。

 今度は攻撃をした僕目掛けて火の玉がやってきた。

「盾っ!」

 こちらはもう慣れたもので、空中に出現した鍋のフタが僕たちを守ってくれた。


 セキレイ先生、一瞬だけギョッとしていたな……


 しかしこのままでは……

 せめて空を飛ぶのをやめてくれれば、どうにかできそうなのだけど。


 鍋のフタを投げてみるか?

 いや、前に試したがこれはほとんど動かせない『盾』だった……

 魔法だったら良かったのだけど……


「あっ、そうだツグミちゃん!」

 僕は校舎内に向かって叫ぶ。

 『アレ』に向かって『例のアレ』を!


 本来なら生徒がそんなことをするのは、絶対に許されないのだろう。

 魔法は卒業するまでは攻撃のために使用することを禁じられている。

 たとえそれが魔物だとしても。


 僕がツグミちゃんと目を合わせ、強く頷くとツグミちゃんもすぐに前に出て構えていた。

「やめろっ、魔法に反応して君も襲われるぞっ!」

 セキレイ先生が叫ぶ。

 そう、攻撃をされた魔物は、攻撃をしてきた者を襲う習性があるのだ。


 だから冒険者になるまでは、決して魔物とは戦わない。

 中途半端な威力では、かえって逆効果なのだから……


「大丈夫、絶対に守るから!」

「う、うん!

 ……いくよっ、ニードルレインっ!」


 ツグミちゃんは僕の名付けた名前の魔法を放つ。

 ただの水では途中で威力が落ちてしまうが、これが鉄の針ならばどうだろうか?


 物質のことを教えるのに、鉄銭と呼ばれる『100G』、つまりお金を用いたわけだが、意外にも水魔法同様に生み出すことは可能だった。


 まぁ、魔法だからすぐに消えてしまうけど。

 金貨とかコピーできたら、簡単にお金持ちだもんね。


 それに物質によっては魔力の消費がとても激しいらしく、連発は難しい。

 ツグミちゃんの限界は、一度に五本の針だった。


 そして、今使える最強の魔法がこのニードルレイン。

 竹槍のような太さの金属が勢いよく放たれて、そのままグリフォンの羽と後ろ足を貫いた。


「クエエェェッ!!」

 魔法が命中すると、グリフォンは羽ばたくのをやめて落ちてくる。

 そこに僕の水魔法……を使おうと思ったら、ヤンたちが勢いよく前へ。


「くらえぇぇ!」

 ヤンによるイシツブテ。

 バルは水魔法を勢いよく。

 クイナは中庭に落ちていた大きめの石で頭部をめったうち。


 これは……ひでぇ……

 ちょっとだけグリフォンに同情してしまいそうだ。


 すぐにセキレイ先生が三人組を止めに入って、三人を引き剥がす。

 そこに中等部の先生は長剣を抜き、迷いなく一気に首を斬り落とした。

 近くにいたセキレイ先生、そして三人組には魔物の血が……


 こちらにも少しは飛んできたのだけど……

「クロウ君、ありがとう」

 鍋のフタは、魔物の血からみんなを守るのにも役立った。

「ううん、ツグミちゃんが頑張ってくれたおかげだよ」

 勝ててよかった。いやぁ、ツグミちゃんに地魔法(?)を教えといてよかったなぁ。


 ただ、たった一回の魔法だったのに、その消費魔力は水魔法の比ではないようだ。

 地魔法で魔力を消費しすぎたツグミちゃんは、ヒガラお嬢様に支えられながら笑っていたのだった。

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