これはどう見てもお鍋のフタです
「なぁなぁクロウ、また俺たちに魔法を教えてくれよ」
授業も終わり、ヤンたちが声をかけてくる。
あれからというもの、ヤンは家に帰っても魔法を練習しているようだ。
僕はというと、あれ以来冒険者のことが気になって仕方なかった。
『攻撃力:180』
『防御力:177』
全身に力を入れるだけでも効果があるから一応毎日鍛えてはいるけれど、まだ冒険者には全然敵わないんだろうな。
……5歳児だし。
ちなみに鍛える理由としては、魔物を狩ることで素材が手に入ること。
これはギルドで引き取ってくれるので、単純にお金になる。
このところ授業を意味もなく受けている気がして、両親に申し訳なく感じているのだ。
最近……第二子が、なんて話もしていたみたいだし……
「ちょっとクロウ君、ヤンだけじゃなくて私たちも教えてちょうだい!」
「前みたいなすっごい魔法、最近使わないから……もう一回見てみたいなぁ……」
おぉぅ……お嬢様たちまでも。
そうは言われても、先生には少し自重して欲しいとお願いされているのだけど……
「来週から地魔法の授業だろ?
クロウの魔法を見たら、俺たちも授業に身が入る気がするんだよっ!」
つまりヤンたちは、やる気を出すために僕に地魔法を使って見せて欲しいらしいのだ。
そもそも授業で習う地魔法とはどんなものなのだろうか?
「地魔法はね、地面の物質を守りに使う魔法なの。
中等部だと地面を少しだけ隆起させることもできるんだって」
僕が地魔法を知らないのだと言うと、ツグミちゃんが丁寧に教えてくれる。
ヒガラお嬢様もヤンたちも、『クロウがそんなことを知らないはずがない』なんて言うけれど……
しかしそうか、守りにねぇ……
「土を飛ばして攻撃に使ったりはしないの?」
魔法といえばそれぞれの属性攻撃があるものじゃないのか?
「え、えっと……
できないことはないと思うけど、土は柔らかいし、攻撃には火魔法とか氷結魔法が一般的みたい」
それは、攻撃するほどの威力はもたないが、イメージもしやすく、周囲には土が大量にあるため防御には最適と考えられているせいだった。
人目につくような場所では練習できないが、ヤンは秘密の場所を知っているのだと言う。
まぁ市場でも平気で魔法を使うヤンのことだから、あまり期待はできないけれど。
「へぇー……こんなところがあったんだぁ」
ヤンに連れられて、僕たちは小さな空き地へとやってきた。
地面には石がゴロゴロと落ちていて遊ぶには少し危なそうだが、確かに魔法の練習にはちょうどいい。
「たまーにプリンも出てくるけどなっ」
「やだっ、なによそれ……」
ヤンの言葉にヒガラお嬢様の表情が曇る。
「プリンってなに?」
「プリンは魔物だよ。プルプルしてて弱いんだけど、汚い場所に出てくるから嫌われているの」
なるほど、だからヒガラお嬢様は嫌そうな顔をしたわけか。
よく見たら細かい虫も飛んでいるし、綺麗な場所ではないのは間違いなさそうだ。
こんな時に火魔法とか使えたら、簡単な消毒くらいは出来そうなものだけど……
「どうしたのクロウ君、手なんか突き出して」
「ううん、なんでもない」
まぁ当然出るわけもない……と。
しかしツグミちゃんは可愛らしいな。
僕が『知らない』と言えばすぐに教えてくれるし、ちょっとした仕草にもすぐ反応してくれる。
そんなツグミちゃんから『ちょっとくらい、いいじゃない』なんて言われてしまい、ヒガラお嬢様も僕の魔法が見たいらしいから渋々了承。
見たいと言われても、使えない魔法をどう見せたら良いものか。
ひとまず見せるのは後にして、思いつく理論を考えてみる。
「地魔法は……今までよりも魔力操作が大事かな?」
水魔法は、魔力で水を生み出して使う魔法。
待機中の水分とか、体内のものを使うのかと思ったけど、どうもそうではないみたい。
放った水魔法はすぐに消えるし、おそらく魔力が一時的に水の形を模しているだけなのだろう。
だけど地魔法は『実際の土を壁に使う魔法』だとツグミちゃんが言っていた。
「多分、慣れれば周りに土が無くても作れるよ。
でも授業じゃ実際の土を使うわけだから……」
ツグミちゃんには、魔力が土に纏い、持ち上げるイメージを持ってもらう。
……と言いたいところだが、踏み固められた地面はとんでもなく固く、簡単には動きそうにない。
「こっちの小石で練習すると良いと思うよ。
森の中だったら地面に落ちている葉っぱとか」
実はそこまで自信満々に言えるのには理由があった。
「でも葉っぱじゃ防御にならないんじゃないの?」
「なにも防御だけじゃなく、目隠しだって魔物から逃げるのには便利だと思うよ。
学院長も、昔はドラゴンスレイヤーに憧れて、魔法で色々試していたみたいだし」
そう。以前学院長に呼ばれた際に、そんな魔法の数々を耳にしていたのだった。
地魔法、というよりもただの操作系の魔法なのではないか?
ツグミちゃんはすぐに小さな石を動かした。
やはり普段から真面目に授業を受けているだけあって、とても優秀だ。
だが、思い込みというものはやはり厄介な存在だ。
操作することを理解できないヒガラお嬢様は、木の葉一枚動かせない。
「おいっ、やめろよヤン!」
「いいから黙って見てなって。
おいっクロウ、いくぞっ!」
なにを騒いでいるのかと思って見てみると、ヤンは僕に目掛けて思いっきり石を投げてきた。
えっ? ちょっと、何? いじめ?
僕はとっさに身を守ろうとする。
魔法で防ごうにも地魔法は使えない。
きっと、ヤンは僕が出し惜しみしているだけだと思ったのだろう。
「キャアッ!」
隣にいたツグミちゃんが叫ぶ。
僕はまだいいが、間違ってツグミちゃんに当たったらどうするのだ?
こんな時に魔法が使えたのならば……
盾のようなしっかりとした地魔法で守ってあげられるのに……
カンッ……コツッ。
何かが当たる音がする。
恐る恐る目を開けてみると、目の前には宙に浮かぶ『鍋のふた』があったのだ。
どこかでみた形状のフタ……
あぁ、これはドリンクバーの横に設置されている、スープの入った鍋のフタじゃないか……
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