他にも転生者がいたのです

「なっ……これはどういうことだ!」


 水流を勢いよく放つだけの『水弾』は、少し練習した生徒ならすぐに使いこなしていた。


 放出する穴が小さければ、必要とする魔力も少ない。

 ごく少量の水弾を、なるべく離れたところに飛ばす『遊び』をしていたのだ。


 ちなみにめっちゃ怒られた。


 魔法は危険だから先生のいないところで使うのはダメだと言われ、更にヤンは保健室へ運ばれたのだと伝えたら、更に怒られた。


「全く……お前たちには、まだ当分実技はさせられん!」

 そんなことを言われて、少しだけ残念な気持ちになってしまう。


 しかも僕は学院長の部屋へと呼び出されてしまった。僕だけが。


「例の少年を連れてきました」

 先生も少しだけ緊張している様子だった。

 僕への監督不十分で、先生にも処分が言い渡されるのだろうか?

 だとしたら申し訳ないのだが……


「ふむ……

 君みたいな少年が……ねぇ」

 高齢の女性が立派な席に腰かけており、やはりここでも水晶玉が準備されていた。


 隣に立つ先生に、再び目の前の水晶玉を触るように言われる。

 やはり他の生徒でごまかしてみたくらいでは、僕の退学は免れないのだろう。


「ほう……それで、この子が魔法を使ったというのは本当なんだね?」

「はい、まるで高位の魔導師のように強い力で……」


 僕の壊してしまった的を取り出し、学院長に見せる先生。

 これは賠償請求確定コースか?

 いや……だが、それにしては雰囲気がおかしい。


 学院長は壊れた的を見ると、僕に向かって声をかけた。

「君は、ドラゴンスレイヤーのホークという者を知っているかね?」

「いえ……?」


 今それが僕とどう関係あるのか?

 ドラゴンスレイヤー……と言ったと思うが、まさか巨大な竜がいたりするのだろうか?


 学院長が言うには、過去にも魔力をもたないのに魔法を……いや、正確には魔法なんかよりももっと強力な魔法を。

 あえて名前を付けるならば、そう……『究極魔法』を使っていた者がいたそうだ。


「はは……やっぱり僕には魔法が使えるような魔力は無いんですね。」

「ん? もしかしてクロウ君は自分で気付いていたのかい?」


 セキレイ先生は僕の言葉を聞いて驚いたようだ。

 知っていながら、なぜ魔法の勉強を続けていたのか。

 いや、それ以上になぜ魔法が使えるのか?


 さすがに女神からもらったスキルのことは内緒にしたいところだが……

 まぁドリンクバーだと言ったところで『?』だろうし。

 出現させた液体は数分で消えてしまう。


 最近はプロテイン効果が出ないなぁ……なんて思っていたのも、栄養が吸収される前に消失してしまうからだろうか?


 ちなみに、他にも言いたくない理由はあった。

 スープとサラダが付いているようなことが書いてあるのに、未だに出来ることは液体を出すことだけ。


 今はまだ水魔法の特訓だったからごまかせた。

 まぁ、しばらくすると地魔法の訓練も始まるから、どのみちそこでバレたのだろうけど。


 僕はもう学院を辞めても仕方ないだろうと思い、それを学院長に告げようとした。

 だがそれより一歩早く、学院長が先に言葉を発する。


「そうか……いや、ドラゴンスレイヤーの再来ではないかと思ってしまってな。

 私たちは魔力が高すぎて計測ができないのだと思っていたのだが、そうではなかったのか」

 ん……んん?


「ホークはね、噂では火の精霊様の化身だとも言われている」

 セキレイ先生まで、僕に喋らせる余裕を与えてくれない。


「は、はぁ……そうなんですか……」

 大昔にいたというドラゴンスレイヤーの話で二人が熱くなっていたので、僕は退学のことはもうどうでもよくなってしまう。


 とりあえず、二人が落ち着くまで聞きに徹してみた。

 少年時代から火魔法を使いこなし、子供ながらに冒険者として活躍していたそうだ。


 誰かに習ったわけでもなく、街の周りで魔物狩りを行なって暮らしていた。

 不思議なことに、ギルドで冒険者登録をした際も魔力が感じられなかったのだと。


「今でもギルドには白銀に輝く、彼のギルドプレートが飾られているのだよ」

 へぇ……でもそれが何故凄いのかがわからない。


 まぁ、実際にそんな人がいたのなら、僕と同じ転生者ということも考えられるのだろうけれど。

 火魔法は魔法ではなくスキルなのではないか?

 例えば『キャンプファイアーのスキルを得た少年』だったとか。


 無いな。

 きっと女神様に対して『ライターを持ってねぇか?』なんて聞いたんじゃないだろうか?

 あの女神様なら、それでスキルを与えかねないだろう。


「んん……話に熱くなってしまったようだ……」

 僕が冷めた表情をしていたものだから、先生も学院長も、ハッと我に帰ったようだ。


 とにかく僕には学院に居続けてほしいらしい。

 ただ、できれば力は抑えて授業に出てほしいなんてことも言われてしまった。

 一応願ってもないことだけど、本当にそれでいいのか学院よ。

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