ステータスは見れちゃうみたいです
(ん……? ここはどこだ?)
俺は再び目を覚ます。
しかし、視界はぼんやりとしていて、身体を起こすこともできないでいた。
そしてとても大きな重圧が僕に襲いかかっている。
わずかながらだが、指を動かす感覚や匂いはわかる。
そして声も……
「あぁ、産まれたんだねカナリー!」
そんな男の声が聞こえ、僕は何者かに抱き抱えられてしまった。
まさか⁈ ……とは思ったが、どう考えても今の俺は赤ん坊になっている。
しかも普通に言葉がわかるから別の世界な気がしない。
名前がカタカナなのはまぁ……ちょっと外国感はあるけれど。
「えぇ、元気な男の子よレイブン」
俺の誕生を喜んでいるんだろうなぁ……
生まれ変わって新しい人生を。そんな小説を読んだことはあったが、こうして実際に転生させられて思うこともある。
(こんな大人の俺が転生してしまって、ごめんなさい……)
きっと本来なら俺では無い誰かとして生まれる予定だったのだろう。
少しだけ申し訳ない気持ちになってしまう……
「聞いてくれカナリー。先程、女神様から名前を授かったんだ、この子はクロウ!
誰よりも賢く、大空を羽ばたくような良い名前だと思わないか?」
「そうねレイブン。
素敵……とっても良い名前だと思うわよ」
なんだ、女神様は俺の名前をこの両親に教えてくれたのか。
それにしても、レイブンって確か大型のカラスのことじゃなかったか?
カナリーもなんだか鳥っぽいし、女神様は狙ってこの家に転生させたんだろうか?
「それにしても全然泣かないじゃないか。
大丈夫なのか?」
「きっと、貴方に似て強い子なのよ」
きっと二人も『普通の赤ん坊』が欲しかったに違いない。
とは言っても、わざと泣くのも恥ずかしい。
正直、身体が重くてそれどころではないのだし……
だが、わからない事だらけでは困る。俺は耳から入ってくる情報で、なんとかこの家の事を知ろうとしていた。
ほとんど動かせない身体に加え、頭を使うのは非常に疲れるもので、徐々に眠気に抗えず再び眠りについてしまった。
……
それから数日して、ようやく視界は少し晴れてきた。
いつも抱き上げてくれるのはカナリーであり、今の俺の母親だった。
少しづつ起きている時間も長くなって、俺は転生させられた事を少しだけ恨んでいた。
「おぎゃー!」
「あらあら、お腹が空いたのかしら?
それともこっちかしら?」
起きていようが寝ていようが、まだ力の入らない俺だけの力では何もできない。
カナリーが僕の股を確認し終えると、抱き上げて胸に寄せてくる。
そういうプレイどころか、何もかもが未経験の俺には少々キツいものがある。
ギュッと目を閉じて、生きる為にやむを得ないのだと自分に言い聞かせていたのだから。
……
生後数週間は経った。
モゾモゾと歯痒いときは、若干そんな声も出ていたが、全く泣かない俺に両親は心配し始めていた。
そりゃあ転生しても大人なのだから、むやみやたらと泣きたくはない。
だが、この辺りから『心配かけないように』わざと泣くように心がけていた。
主に食事とトイレである。
さすがにまだ立つこともできないのだから仕方ない。
……
何週間経ったろうか?
「うえーあぅ!」
身体も少しづつ動くようになって、『僕』は空に表示される自身のステータスを眺めていた。
本当に早く身体を動かしたくて、毎日頑張ったと思う。
まぁ赤ん坊なのだし、当然全てのステータスが『1』と表示されているのだけど……
おそらくこの頃で二ヶ月……くらいだろうか?
寝る頻度が多すぎて、全く時間の流れがわからない。
部屋が暗くなったら夜なので、感覚的に多分そのくらいだろうと思っている。
「ほら、クロウが少しだけ喋っているわよ」
「本当だな、1日違いで産まれたお隣のティナちゃんよりずいぶん早いじゃないか」
ティナちゃんねぇ……
多分名前からして女の子なんだろう。
それにしても、やはりテレビも無ければ車が外を通る様子もない。
まぁ、馬の蹄の音には少し興味があるけれど……
そんな時にちょうど、パカラッパカラッ……と再び馬が通る。
「ほらっ、クロウちゃんの好きなお馬さんが通るわよ」
嬉しそうな『母』の姿を見て、『僕』もそれに合わせて笑顔を作ってあげた。
……
「クロウー!
ねぇ、どこにいるのー?」
居間に連れてこられることが多くなったのは、10ヶ月頃だった。
そう母が言っていたのだから多分そうなのだろう。
隣のティナちゃんは、ようやくつかまり立ちができた頃らしいのだが、僕はもう普通に歩いていた。
隙をみてトイレを目指すのだけど、なかなかうまくいかない。早く布オムツから解放されたいというのに。
「あっ、こんなところにいたー」
ムッとした表情で、僕を睨む母のカナリー。
頬を膨らませてそんな可愛らしい表情をされても、全然怖くはなかった。
(今日も失敗かぁー、早くスキルを使ってみたいんだけどなぁ……)
「本当にクロウは逃げてばっかりで、どうしちゃったのかしら……」
心配するカナリーを見て、指を口に加えて赤ん坊らしいアピールをする僕。
その後も、僕を抱きながら食事の支度を続ける母。
生活魔法というものを使い、水を出したり火をつけたりして、料理を完成させていた。
僕はというと、暇があればステータスを見ていて、やはり赤ん坊の身体は成長が早いものだと感じていた。
多分一般的な2歳児くらいのステータスにはなったと思うのだ。
そして、いつまでも増えない数値が一つだけあった。
『魔力:0』
初期値から変動がないどころか、生まれ持った魔力ですら消えてしまっていた。
使い方もわからないし、せっかくの異世界だというのに旨味が無いじゃないか。
これも女神のせいだろう、嫌がらせにしか思えない……
身体も重いし、良いことなんて何一つない。
さっさとファミレスに……返してくれ。
ただ、それでも僕は、母の魔法を見て期待してしまっていた。
いつか僕にもこんな魔法がつかえるんじゃないのか……と思うと、少しだけワクワクもしてしまうのだった。
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