ファミレス転生 〜デザートはケモノ成分大盛りで〜

紅柄ねこ

転生ボーナスは一つだけみたいです

 俺の名前は『三波 烏(クロウ)』、歳は25で就職活動中。

 この歳で未だに内定を頂いた事はない。


 理由はお察しの通り。名前のことを面接で聞かれることが多いのだから、やはり変わっているのだろう。

 カッコいいとは思うのだが、周りの意見はそうではないようだ。

 ただ自分で自分の名前を否定してしまうのは違うだろうし、正直好きな方ではある。


 親だって考えて付けてくれたのだろう、別に就活で苦労しているからって恨んだりはしていない。


『からす君……かね?』

『いえ、カラスと書いてクロウと読みます』

『ハハッ、そいつは本当にクロウしそうな名前だね』


 何度かそんなやりとりがあったが、そんなダジャレを言われても、俺は苦笑いを浮かべるしかないだろうが。


 残念だが今回も面接の選考で落ちるのだろうな。

 諦めたくはないが、何度も経験しているとどうしてもそんな気持ちになってしまう。


「お客様、御注文は決まりましたか?」

 今日も面接帰りに近所のファミレスへ。

 家に帰っても両親は仕事で家にいなかったし、俺もアルバイトでわずかばかりにお金を稼ぐ程度。

 高級なレストランや遊びを満喫するほどの余裕もなかったし、おかげで彼女などできたこともない。


「あ、えっと……直火焼きハンバーグ……」


 入店して、パンフレットを眺めていたら店員に声をかけられて……

 『今日も失敗したなぁー』なんて思い耽っていたから、痺れをきらした店員が注文を取りに来たのだろう。

ただ、この後起きたことを僕は全く理解してできていなかった。


「……の、スープとサラダセット。

 ドリンクバー付きでお願い」

 手にはメニュー表があって、俺は注文を終え顔を上げる。

 いわゆるサラダバー。資格のパンフレットでも眺めながら、夕暮れ時まで静かに食事をしていようと思っていたのだが……


「ドリンクバー……??」

 俺の横には、見たことのない店員が立っていた。

 白い衣装で、金髪の綺麗な女性が首を傾げて『はぁ?』とでも言いたげだ。

 いつからこんな美人を雇ったのだろうかと思ったくらいである。


「なんかよくわかんないけど、あのお店にあったやつのことよね。

 うーん……スープとサラダ? ……もついて一式かぁ……」


 ……美人の店員! と感じたのは一瞬だけ。

 それ以上に驚くことに気付いてしまった。

 大きく後ろに振り返り見回したところ、いつの間にかここは店ではない。


「わかった、じゃあアンタのスキルはそれで決定ね」

 ……はい? この女は一体、何を言っているんだろうか。


 しかも呆けていた俺に、続けて女は言った。

「そうそう、説明が後になっちゃったけど、アンタ死んじゃったから。

 まぁ、魔法世界の召喚技術もまだまだ発展途上だしね」


「ごめん、よくわかんないんだけど……」

 メニュー表を持ったまま、僕は女に尋ねる。

 何かの夢じゃないかと思いながら、視線は目の前のメニュー表にあった間違い探しへと。

 もちろん探そうなどという気にはなれないが……


「だからさぁ……」

 俺の理解が追いついていないことなど一切無視。

 ペラペラと説明は続き、俺も混乱しつつも理解する努力は行った。

 そして女が言うことを要約すると、こういうことらしい。


 俺を、というよりも異世界の者を召喚しようとした異世界人がいた。

 世界を跨ぐには、まだまだ技術が発展しておらず、結果僕の精神は次元の狭間でぐちゃぐちゃにされてしまったそうだ。


 日本にいた俺は、心肺停止で病院に運ばれ、すでに火葬されているらしい。

 じゃあここにいる俺は一体なんなのだと。


「次元の狭間で引っかかってもらっても迷惑なのよ。

 呼ばれてるんだから、さっさとあっちの世界に行ってきなさいよ」


 そしてこの女、この辺りのいくつもの世界を統括している女神らしい。

 ぐちゃぐちゃになった俺の魂を修復して、今に至るそうだが……


「いやいや、だったら日本に戻してよっ。

 女神様ならそのくらい余裕でしょ?」

 必死に訴える俺。

 漫画や小説の続きも知りたいし、異世界になんて行ったら、きっと車もテレビも無いに違いない。


「別にいいけど、もうアンタに力を与えちゃったし、地球に戻ってもまともに生活できないかもよ」

 付け加えて女神は、俺が死んでからすでに10年以上経っているという。


 女神的には10年が一瞬でも、今の俺が日本に戻ったところで『戸籍はどうするのだ?』『また親に心配かけるのか』と。


 そう言われて、少しでも『確かにな……』なんて思ってしまったのが悪かった。

「でしょ、じゃあ行ってらっしゃい」

 トンっ、と背中を押され、俺の身体は再び時空の狭間へと吸い込まれていったのだった。


「あ……肉体は用意してあげられないから、今から命を宿す予定の胎の子に入れてあげるからねぇ」

 すでに時空の向こうへと落ちていったクロウには、その女神の声は聞こえていないのだった。


「なんか……やっぱり不安だから、しばらくはスキルも封印しておこうかしら……

 力を使うのって疲れるんだから……特別だよ」


 そしてこのスキルの封印が、クロウの肉体に大きな負荷を与えてしまうのだった。

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