第34話

SIDE 鷲崎


ネルティエルターナに向かうことが決まり、ブレイブベースを宙間航行モードを起動した。5年ぶりの起動なので不具合がないか各所の発進シーケンスを確認しながら将兵たちの戦いを見ていた。


最初は安心してみていられたが、時間がたつにつれて劣勢へとなっていた。戦闘開始から30分が経過する頃にさらに事態が急変した。敵幹部が現れ、挙句変身が解け、生身で戦っていた。歯がゆい思いを抱きながら、発進シーケンスの進捗を確認すると残り20%のところまで来ていた。


これ以上の戦闘続行は不可能と思い、将兵たちを呼び寄せる為、通信を開こうとしたとき、将兵以外のメンバーが戦場から御堂明日香の周りへと転送された。


戦場には赤く流麗などこか古の騎士を思わせるような甲冑姿の将兵とドラゴンを模したロボットが戦闘を行っていた。


あと20項目でシーケンスの完了というところで将兵から緊急通信が入った。


「会長!ここにミサイルが接近している。着弾まであと4分もない。あとどれくらいで発進できるか」


『もうすぐ発進シーケンスが完了する。すぐに戻ってこい。回収次第発進する。』


「それは出来ない。放置すればこの付近60㎞が吹き飛ぶ。この付近のシェルターに避難している人たちを見捨てる選択なんてしたくない。悪いが俺はこのままミサイルを破壊しに行く。俺を置いてそのまま行ってくれ。」


直ぐに戻るよう伝えたが、将兵は迎え撃つつもりのようだった。それを聞いた瞬間、何故か将兵とはもう会えなくなる、急にそんな思いが浮かんできた。


そう思ったのは俺だけじゃなく、冴島君が通信に割り込んできた。画面には将兵の身を案じている表情のガクレンジャーと凛とした表情の御堂明日香が一緒に映っていた。


『何をいってるんだ、将兵。お前を置いていけるわけないだろう!ミサイルを破壊しに行くなら、俺たちも行く。スーツのエネルギーは少し回復した。ミサイル一発なら破壊できる。待ってろ!』


「料太!一時の感情で大局を見誤るな!今は俺よりもネルティエルターナへ行く事だけを考えろ!明日を守るために今何をなすべきかを考えるんだ!それに切り札はまだある。そいつを使えばミサイル一個余裕で破壊することが出来る。それに、何も俺は死にに行くわけじゃない。ミサイルを破壊したら必ず後から合流する。必ずだ。」


そう言った彼の言葉に、将兵は拒絶の意思を示した。そしてすぐに通信を切った。再び通信をつなごうとしたとき、『イデ』からアナウンスが入った。


『残りすべての発進シーケンスを破棄。本機はまもなく発進準備が完了いたします。総員直ちに所定の位置へと移動してください。』


俺は慌ててコマンドを入力したがすべてはじかれた。


「会長、発進するって何なんですか?将兵をおいていくつもりですか?」


「そんなわけあるか!今、止めるようコマンドを打ち込んでいるんだが、『イデ』がこちらの命令を受け付けないんだ。」


「会長どいてください!俺が打ち込みます。って、なんでだよ。なんでこっちからの命令を受け付けないんだ。クソっ、このままじゃ将兵を残してしまう。」


「落ち着け!増上寺。『イデ』!何故こちらからのコマンドを受け付けない!何故なんだ!」


『最上位ランクの命令を遂行中。現在、ショウヘイ スズキのコマンドのみ受け付けることが可能。』本機はこれより、ネルティエルターナ皇国へ向けて発進致します。発進まで10カウント。8、7、6、5、4、3、2、1、0、発進します。』


俺たちはなすすべなく、『イデ』によって宇宙へと打ち上げられた。モニターには巨大な、そして勇壮な騎士が空の一点を見上げ、飛び立つ姿が映し出されていた。


そんな荘厳なシーンに皆、目を奪われていた。すぐに気を取り直し、俺は急いで将兵へと通信をつないだ。



SIDE 将兵


ミサイルへと向かっていると再びブレイブベースにいる会長から通信が入った。


「将兵、『イデ』がコマンドを受け付けない!最上位ランクの命令と言ってお前の名前を出してきた。どうやってプログラムをいじったか知らないが、今すぐにこっちに指揮権を戻せ!このままだとお前を残して行ってしまう。」


「悪い、会長。こういう事態を想定してこの仕様に変更した。だから、変えるつもりもないよ。それに、変更するには俺とネルティエルターナ皇国第3皇女 ジェニファー・フランシス・ネルティエルターナ、第4皇女 ステラシャイン・リディア・ネルティエルターナ、3名の承認を必要としているんだ。」


「なんでそんな勝手なことを!じゃあ、今、このブレイブベースはどうやっても俺たちにはコントロール出来ないと!おまえを助けに行くことも出来ず、見捨てて行けというのか?そんなことを俺たちにしろと、将兵、お前はそういうのか!そうだったな、お前は昔からそうだ。あのときだって…。」


「文句なら後でいくらでも聞きます。今はそんなことを言っている場合ではないんです。だけど会長、俺だって勝手なことをしている自覚はあります。会長たちの気持ちもわかります。仲間を見捨てることはできない。共に戦う。その想いは俺も同じです。でも、今の状況では悪手なんです。ブレイブスワットは戦闘不可、ガクレンジャーはエネルギー切れ、スタークスアイゼンも使用不能。今ここで全員で立ち向かったとして、一時的には抑えられるかもしれません。多くの犠牲と引き換えに。たとえそうなることが分かっていても、会長たちは残ろうとするでしょう。それではダメなんです。会長たちがいますべきなのは、俺と共に戦うことじゃない。今ここで俺を切り捨ててでも、明日香を、次代の戦士たちをネルティエルターナへと連れていくことなんです。だから俺はシステムを改変したんです。こうなることが分かっていたから。」


そこでいったん話をやめ、迎撃ポイントに到達したため、各武装のセーフティーを解除し迎撃体制へと移行させた。


「会長、それにみんな。ワープポイント到達までもう時間がない。さっきも言ったけどお叱りなら後で受ける。だけど今は俺の頼みを聞いてほしい。これからの作戦の成否に関わる大事なことだから。ネルティエルターナについたら皇帝にヒュドラジア帝国に邪神の存在を感じると伝えてほしい。そして、まどかちゃんたちを鍛えること、ガクレンジャーシステムの改良、スタークスアイゼンの調査、宇宙警察へのブレイブスワットの戦闘許可の嘆願を頼んでくれ。」


「将兵。出来るわけないだろう。伝手のない俺達が行っても門前払いを受けるだけだ。それに、皇国には何のメリットもない。」


「俺の名前を言えば大丈夫だ。それに明日香もいる。問題はないよ。だから頼んだよみんな。」


俺はそこで通信をブレイブベース全てのチャンネルにつなげなおした。


「皆さん。緊急時だったとはいえ、俺たちの力及ばず、無理矢理故郷から引き離す結果になり申し訳ありません。皆さんが不安なのは十分承知しています。これだけは言わせてください。ネルティエルターナでの避難生活については便宜を図ってもらえるようにします。ですが、これから先絶望を味わうかもしれません。理不尽に嘆くかもしれません。でも、希望があることを忘れないでいてほしい。たとえ、小さくとも希望の灯は消えない。何人たりともその灯を消すことはできない。だから信じてほしい。これまでと同じように必ずヒュドラジアからの侵略を阻み、日常へと帰ることができると……。明日香、ごめん。またしばらく君の傍にはいられなくなってしまった。必ず合流するから、それまでの間おふくろたちを頼む。」


「わかりました。こちらのことはお任せください。将兵さん。食事を用意して愛するあなたのお帰りをお待ちしております。ご武運を。」


「ありがとう。明日香。楽しみにしてるよ。俺も愛する君のもとへ少しでも早く帰れるように頑張るよ。」


そう言って俺は通信を切り、迫りくるミサイルへと全武装の照準を合わせ引き金を引いた。


全弾命中。爆炎が上がり巨大なミサイルは破壊された。


ホッと一息つこうとした瞬間、警告音が鳴り響いた。


『アラート!爆発の中心部から高熱原体多数を感知。数100。小型ミサイルと推測。』


「アーティー、ブレア!全弾破壊するぞ。一発たりとも地球に落とさせはしない!」


武装の照準システムをシングルからマルチへと変更し、全弾撃ち落とすべく引き金を引き続けた。


撃ち漏らしたミサイルは、機体にバリアをまとわせあえてぶつかることで破壊した。


時間にして180秒。体感的にはそれ以上の時間を感じながら、ようやく全弾撃ち落とすことに成功した。


モニターの片隅に映していたブレイブベースは、ワープポイントへ到着するところだった。


やり切った達成感に身を任せようとしたとき、警告音と共に機体各所で爆発が起こっていた。


「アーティー!何が起こっている!」


『小型浮遊機雷と確認。ミサイルの破片に紛れていた模様。すでに周囲一帯囲まれています。』


これだけの機雷の攻撃を受けては、いくらこの機体でも持ちこたえられないのは明白だった。俺は機体へのダメージを最小に抑えるべく自身の持つシールド魔法でブレアを強化し、接続を解除しようとしたが、先ほどの爆発で破壊されていたためできなかった。


「ブレア。これから接続部を破壊する。関係ないこの世界のためにここまで付き合ってくれてありがとう。俺の魔力のすべてをかけてシールドをかけた。お前だけでもここから逃げてくれ。そして、ステラのもとに。」


「何を言っておる。我の力も合わせれば何とかなるやもしれん。」


決して引かないという意思を感じ、ため息をついて気持ちを切り替えた。


「ありがとうブレア。力を貸してくれ。」


そう言って俺はブレアの力を借りて強固なバリアを展開し、すべての機雷の爆発に備えた。


機雷の爆発が始まり、視界いっぱいに閃光。魔力切れを起こし意識が闇へと閉ざされる直前、うっすらとブレイブベースがワープ光に包まれるのが確認できた。


俺の意識はそこで途切れた。





その時ブレイブベースでは、ワープ直前、将兵の乗った機体が閃光の中消えていく映像が映し出され、すぐにモニターがブラックアウトし、ネルティエルターナへ向けワープした。

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