第32話

転送によって一瞬でブレイブベースから防衛ラインへと来た俺たちは、視界いっぱいに映る圧倒的な数の敵兵に、改めて気を引き締めなおした。


「フッ、わかっていたが、ここに来たらやっぱすごいな。」


「ほんとにそうだな、典膳。気を引き締めないとな。」


「秀一の言うとおりね。それよりも料太。わかってると思うけど、突っ込んでいかないでよ。」


「なんだよ。凉那。俺は突っ込む前提かよ。」


「悪いな、みんな。付き合わせて。勝利条件は、スタークスアイゼンの搬入、発進準備が完了するまでの40分間。ブレイブベースの防衛だ。くれぐれも無茶はするなよ。無理だと思ったらおとなしく引いてくれ。ここは最終決戦の場じゃないからな。」


「将兵。そっくりそのままお前に返すぜ。」


「まったく。鏡を見ていってほしいね。」


「フッ、それは、お前自身にかける言葉だ。」


「ほんと、一番無茶をする人が何言ってんだか。あなたを待ってる人がいるんだから、ちゃんと帰ってあげなさいよ。」


「わかってるよ。さっきも彼らに言ったけど、死ぬつもりはないさ。っと、無駄口はここまでのようだ。守るぞ。みんなの明日を。」


俺の言葉を合図に、各々が武器を構えて四方へと散開していった。


「アーティー。目標、ヒュドラジア帝国改造兵。薙ぎ払え。」


あいさつ代わりの一発として、宇宙戦艦に搭載された対人兵器による掃討を行った。


この一撃で6割ほど掃討出来、敵が混乱しているうちに切り込んでいった。


しかし、すぐに戦力が投入され、最初の状況へと戻ってしまった。再び、掃討を行い、戦っていたが先ほどと同じように戦力が投入された。


ネルティエルターナで上位に数えられる戦艦ではあるが、いつまでもこのような攻撃が続けられるわけではない。数を減らさなければ、この人数での防衛は難易度爆上がりとなるので、使い続けるしかなかった。


『警告。対人兵装のエネルギー残量0、及び、残弾0。チャージ及び、精製の開始、完了するまで兵装使用できません。』


何度か繰り返された攻防。ついに戦艦による掃討が出来なくなった。次の戦力の投入が行われると思い、覚悟を決め、戦っていたが、どうやら向こうも品切れだったようで、戦力の投入はなかった。


戦力の投入はなくなったが、依然敵からの攻撃を受け続けており、9年間戦いとは無縁の世界にいた凉那たちの体力も限界に近づいてきているようだった。それに加えて、装備も昔のまま、その為ヒュドラジアと渡り合うためには、常に高出力を維持し続けていかなければならなかった。結果、当然の帰結となるがエネルギーの消耗が早く、スーツからずっとアラート音が鳴り響いていた。


眼前の敵を切り伏せたところで、ガクセイバーのエネルギー残量が0となり、近づいてきた敵をガクレーザーで撃とうとしたが、銃口が一瞬光ったあと、トリガーを引くも反応せず、残量は0となっていた。その一瞬のスキをついて攻撃されたが、何とかガクレーザーの銃身で受け、弾き飛ばしその反動で敵との距離を取った。その瞬間、一筋の光線が視界の端に移った。反射的に身をひねりギリギリのところで躱すことが出来た。


発射地点には銃を構えた瓜生がたっており、2射目を撃とうとしているところだった。撃たせないよう近づこうとしたら、近くの敵の攻撃によって近づくことが出来なかった。


瓜生はそんな俺をあざ笑うかのような態度を見せ、周囲を見るように促してきた。


そこには、これまでの改造兵とは違う様相の敵が4体が残りのメンバーと交戦していた。


「またお会いしましたねぇ。将兵君。先ほどの失敗を活かさせてもらいましたよ。さすがのあなた方でも、あれだけの数を相手に戦えば、戦闘力が著しく低下していますねぇ。ここであなた方を倒し、後はゆっくりと彼女をいただけますねぇ。彼女のことは私に任せて、ゆっくりと休んでください。永遠にねぇ!」


そういうと、瓜生は注射器を取り出し、自らの体に薬品を流し込んだ。


嫌な予感がしたので、攻撃を加えようと近づいた瞬間、瓜生の体から覆うように激しく煙が噴き出してきた。とっさにバックステップで距離を取り、いつでも攻撃できる体勢で煙が晴れるのを待った。


煙が晴れると戸〇呂弟のようにパンクアップし、かつ、メタリックな光沢の皮膚へと変貌した瓜生が立っていた。


「フフッ、フハハハハハハハハ。素晴らしいでしょう。これが、ヒュドラジア、ネルティエルターナの技術、そして私の研究結果です。この偉業。まさしく神のごとき御業。ハハハハハ。感じる。感じますよ。この躰から溢れ出る圧倒的な力。この全能感。もはや、あなたたちごときが敵う相手ではなくなりましたよ。例えあなたが先ほどのような未知の力をもっていようとも、この力の奔流には抗えないでしょう。さぁ、諦めて私におとなしく殺されなさい。そして、研究材料になりなさい。あなたは優秀なモルモットとして、私の素晴らしい研究の礎となるのです。」


言うや否や瓜生は俺に突っ込んできた。見た目とは裏腹に俊敏な動きで俺に迫り、大ぶりの一撃を放ってきた。俺はとっさに後ろへと飛びのき躱した。振り下ろされた拳は俺に当たることなく地面へと吸い込まれ、爆音を響かせその衝撃も相まって1メートルほどのすり鉢状の穴を地面にあけた。


「よく今の攻撃を躱せましたね。ほめてあげましょう。ですがその幸運もここで終わりです。」


再び右の拳を振り上げ殴りかかってきたので、俺は慌てずに動きを見てその攻撃も躱した。続けて左の拳で殴りかかってきたのをギリギリでよけ、また右の拳が来たのでそれも躱した。何度かそれを繰り返していると、当たらないことにだんだんイライラしてきたようで、だんだんと攻撃が雑になってき始めた。俺はタイミングを見計らい、目の前にきた拳をいなして、その勢いを利用して背負い投げた。


一瞬何が起こったか理解できないようだったが、あおむけに倒れ、俺を見上げる形になった瓜生はようやくそこで投げられたと分かったようだ。


瓜生の動きを警戒しながら、仲間の状況を確認しようと目を向けると、防戦一方となっていた。現状なんとか均衡してはいるが、この状態を準備が完了するまで、持ちこたえられないいのは明白だった。集合をかけよう。そう思った瞬間スーツのエネルギーが切れ変身が解けた。



生身で戦い続ける仲間たちにこれ以上、無理はさせらない。それに彼らには『彼ら』を鍛えてもらわなきゃいけない。俺は覚悟を決め、呼びかけた。


「みんな、一旦こっちに集まってくれ!このまま続けても埒が明かない。今の状況を打破する作戦があるんだ!」


「「「「了解!」」」」


なんとかスキを付いて、全員俺のもとに集まった。


「それで将兵。作戦ってなんだ?」


「ああ、武装のエネルギー残量は0、スーツのエネルギーも残りわずか。みんなもそうだろう?」


皆がうなずいたのを確認して、俺は続けた。


「このままだと発進まで時間を稼げない。だから、悪いけどみんなにはブレイブベースへと戻ってもらう。」


「ちょ、ちょっ、待てよ。お前は何を言ってるんだ。現状ジリ貧なのに俺たちが抜ける?馬鹿言うな!」


「そうよ。冗談でも笑えないわよ。」


「そんなのは作戦ではありません。確かにこのまま行けば全滅の可能性が高いです。でも、今ここを放棄したら、ネルティエルターナへ行けなくなりますよ。」


「それに、死ぬとわかっていて、お前1人残していけるわけ無いだろう。」


予想はしていたけれど、猛烈に反対された。このまま残せば俺の命がない。あの時俺が死にかけたことが、今もまだ強く後悔として残っているからなおさらだった。


だが俺もここで引くわけにもいかないし、今後を踏まえて引かせなければいけない。説得する時間が惜しいし、恨まれるのを覚悟して強制転送することにした。


「このままじゃ、変身できずに戦っていたあの頃と同じだろう。それに俺には隠し球がある。ネルティエルターナ製の装備がある。出来れば使いたくなかったが、出しきらないと守れそうもないからな。だから大丈夫だ。」


そう言って俺は、『アーティー』彼らを転送させた。


無事転送されたことを確認し、オープンチャンネルで通信を繋いだ。


「あと10分で発進準備が完了する。ギリギリまで俺でここは押さえる!後でしっかりと文句は聞く。料太たちは待機していてくれ!」


一方的にそう告げると通信をカットした。


「さて、っと。待っててくれてありがとうございます。」


何故か大人しく待っていた瓜生たちに向き合った。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る