第31話

『イデ』の報告を受け、外部を映したモニターに目を向けると、画面を埋め尽くさんばかりの大軍がこちらへと押し寄せてきていた。


モニターに目を向けたのと同じくして、会長からの通信が入った


「将兵。緊急事態だ!」


「ああ、今、モニターを確認した。こっちで対応する。会長たちは引き続き発進準備を!」


「それだけじゃない。彼らがいなくなった。今、里浦たちが探しに出ている。見かけたらすぐにここに戻るよう伝えてくれ。」


「了解。」


俺は通信を長官へと切り替えた。


「長官。進捗は?準備が整い次第すぐに転送したいのですが?」


「こちらでも状況は確認している。あと1時間いや、30分で完了させる。」


「わかりました。それでお願いします。」


再び会長へと通信を切り替え、スタークスアイゼンを格納庫へと転送完了後発進するように伝えた。


俺は不安そうな眼をしていた明日香をぎゅっと抱きしめた。


「聞いていたと思うけど、発進までの時間を稼いでくる。大丈夫。必ず帰ってくるよ。」


いつまでも抱きしめていたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて離れた。


明日香も名残惜しそうにしていたが、ハッとした表情でモニターの1つを指差した。


それは外部を映し出しすモニターの1つで、ドーム入り口を映していた。そこに指令室から姿を消していたまどかちゃんたちがいた。


俺はすぐさま『イデ』に彼女たちの通信機へアクセスできるよう解析を頼んだ。


数秒して解析が完了したので、彼女達へ通信をひらいた。


「まどかちゃんたち!そこは危険だからすぐに戻ってくるんだ!」


『!?将兵おにいちゃん。なんで・・・?』


「通信プロトコルを解析して繋いだんだ。それよりもすぐこっちに戻ってくるんだ!今の君たちじゃ敵わない。」


『それは私たちだってわかってるの。でもね、将兵おにいちゃん。私たちは知らなかったとはいえ、取り返しのつかないことをしてしまった。敵わないかもしれない。だけど、時間を稼ぐことは出来るわ。ここは私たちが死んでも食い止める。だから、急いで逃げて!きっとそれが償いになるはずだから・・・。ごめんね。将兵おにいちゃん。』


そして強制的に通信を切られた。通信を開こうにも無情にも「blocking communications」と表示されるばかりで開くことすら出来なかった。

そこに彼女たちの覚悟を感じた。だが、俺はここで彼女たちを死なせたくなかった。これからの戦いにおいて彼女たちの力がきっと必要となるそんな確信を感じていたから。だから、急いでジェンからもらった宇宙戦艦のA.Iに彼女たち5人をこの場に転送するように命じた。


直ぐに実行され、彼女たちが俺たちの前に転送されてきた。状況が呑み込めず、混乱しているうちに、俺は彼女たちを拘束した。


そこでようやく自分たちの状況がわかったようで、キッと俺をにらんできた。


「将兵おにいちゃん。これはどういうことなの?なんで私たちにこんなことするの?敵が攻めてきてるんだよ。こんなことしてる場合じゃないんだよ。私たちが戦わないと・・・。そうしなきゃ明日香さんが・・・。世界が・・・。」


「そうだよ。俺たちは償わなきゃいけないんだ。この命を懸けてでも・・・。」


そういって無理に拘束を外そうともがく彼らを見て、フゥーと息を吐いてから話しかけた。


「そんなこと誰も望んじゃいないよ。それに戦って死ぬことが償いになるなんて間違ってる。それよりも、生きてより多くの命を守っていく事が償いになるんだよ。俺は君たちが咎人だとは思わない。瓜生によってさらわれた人たちは、その実験によって既に殺され、死してなお、奴の歪んだ実験に苦しめられていた。君たちは囚われていた彼らの魂を救ったんだ。それでも贖罪を求めるなら、その命の続く限り多くの人々の未来を守れ!だからといって、死んでもいいと思うな!生きて守り抜く。これを絶対に忘れず生き抜け!」


「うるさい。俺たちがここで死んだって問題ないでしょう。それで多くの命が救えるのならば。それなのになんで命を懸けちゃダメなんですか?この命で多くの人が守れるんならいいじゃないですか?命を賭して守れば償いになるじゃないですか?それのどこがいけないっていうんですか!!」


「確かに、君たちの言うことも正しいかもしれない。だけど、もし君たちが誰かを守って命を落としたら、そのあと誰がその人を守っていくんだい。」


「そんなのずっと狙われ続けるわけじゃないから俺たちが死んでも問題ないだろ。」


「それはどうかな。・・・そうだね。例えばなんだけど延岡君に聞くよ。もし君をかばって最高の医者が死んだとしよう。そのことについてどう思う?」


「突然何を・・・。どう思うかって・・・。それは、たぶん感謝すると思いますよ。助けてもらったんだから・・・。そうじゃないんですか?」


「そうだね。感謝はされるかもしれない。でも、その後は?どんなことが起こると思う?高原君。」


「他に何かあるのか?それで終わりと思ってたぜ。」


「それだけじゃないよ。その医者が死んだことによって、家族の悲しむ姿を見せ付けられ、さらに、その後助かる命が救えなくなる。そして、君を救ったせいで救えなかった患者の家族から恨まれる可能性だってある。心無い人たちからの誹謗中傷を受けるかもしれない。そして、心に傷を負って生きていく事になりかねない。一時的に守れてもその人の人生は守れない。でも、生きて救うことが出来れば、さっき言った事態にはならず、たとえその後関与しなくても、結果的に守れることになるんだ。俺は、守るということはそういうことだと思ってる。だから、今の君たちを戦わせることは出来ない。」


視界の端に料太たちがそばに来ようとしているのが見えた。それを横目で確認しつつ続けた。


「今は、俺たちに任せて。俺たちの戦いを見ていてほしい。そして、なんのために戦うのかを改めて考えてほしい。」


全員揃たところで、明日香へ


「というわけだから、行ってくるよ。しばらくここを頼むね。明日香。」


「承知いたしました。ここはお任せください。だから貴方も・・・」


一瞬不安そうな表情を見せた彼女を安心させるため、一度ぎゅっと抱きしめて、料太たちとうなずきあい、叫んだ。


「「「「「転衣無双、ガクレンジャー!!」」」」」



side明日香


モニターに目を向けると、そこには先ほどガクレンジャーへと変身し、転送された将兵さんたちが、四方に分かれそれぞれの武器を構えて、敵を薙ぎ払っていく姿が映し出されていた。


別れ際によぎった想い。将兵さんがどこか遠くへ行ってしまう。感じたことのない不安を感じてしまいました。何とか取りつくったつもりでしたが、直ぐに気が付いて私を抱きしめてくださいました。


危なげなく戦う将兵さんを見ていても、その言いようのない不安感は、ずっと消えず心にまとわりついたままでした。


最初はざわめいていた方々も、次第に落ち着きを取り戻されていかれました。


戦闘開始から30分が経過しようとしたとき、状況が変わりました。突然ガクレンジャーの変身が解け、生身のまま戦われていましたが、将兵さん以外が追い詰められていきました。


その瞬間、モニターから4人の姿が消え、私のそばに現れました。


そして、オープンチャンネルで将兵さんから、通信が入りました。


「あと10分で発進準備が完了する。ギリギリまで俺でここは押さえる!後でしっかりと文句は聞く。料太たちは待機していてくれ!」


そう言って一方的に通信が切られました。


将兵さんお一人で戦う姿を見て、更に不安感が高まりました。ですが、そんな気持ちを無理矢理押し込んで、将兵さんが為すべきことをなさっている。ならば私は私の為すべきことをなすと、歌姫として、今、ここにいる方々の不安を少しでも和らげるため、そして、将兵さんに私の想いを届けと歌いはじめました。


『ネルティエルターナへの発進準備が完了しました。』


気づけば10分が経ち、発進準備が完了していました。




















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