第30話

俺は明日香のそばに転移し、彼らの理不尽とも言える言葉の暴力に、震えながらも小さく綺麗な手を握りしめ、必死に耐えて真摯に対応している彼女を見て、思わず抱きしめ頭を撫でていた。


「ごめん。我慢できなくなった。後は、任せて。」


「っ将兵さん。これは私のっ」


軽くキスをして口を塞ぐことで、彼女の言葉を止め、額を合わせながらささやいた。


「これは、明日香だけがすることじゃないよ。俺たちですることなんだ。前に君が言ったろ。あなた一人で背負おうとしないでって。だから、ここからは俺も一緒に話すよ。いいね。」


「………はい。」


彼女の返事を聞いて、もう一度ぎゅっと抱きしめたときに、


「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」


全体に響き渡るその叫び声に驚いて、自分が今どこにいるのかを思い出した。


まだ何か言いたそうな顔をしている明日香を腕で制しながら、一歩前へ踏み出して一度周りを見渡した。


俺たちの周囲に浮かぶモニターには驚いた顔や、好奇に満ちた顔、うらやましそうな顔、嫉妬に満ちた顔が映っていた。


そこには、先ほどまでの明日香を責める空気は薄れており、いきなり現れていちゃつきだした俺に、一部の女性陣からは好奇心、男性からは空気を読めというイラ立ちや、ヘイトが高まっていた。


「ここからは、明日香に代わり、私、鈴城 将兵が相手を務めさせていただきます。先程、明日香が説明した内容は事実であり、この基地、ブレイブベースはスタークスアイゼンの搬入が完了次第、ネルティエルターナへと向け出発します。申し訳ありませんが、出立まであまり時間がございませんので、勝手ではありますが、皆様にはこのまま私たちとともに行動していただきます。」


「ふざけたことを言うなよ!明日香のせいでこうなったんだろ!元凶なんだろ!逃げ出さずに責任取れよ。明日香を差し出せば今まで通りの生活ができるんだろ!」


「そ、そうよ。自分は彼氏と一緒に逃げるんでしょ。納得いかないわよ。」


「地球を捨てて逃げようだなんて自分勝手すぎるだろ!明日香が目当てなら、明日香が先頭に立って戦うか、自ら奴らのもとに行けよ!俺たちを巻き込むな!」


1人が声を上げるとそれに追従するような非難の声がいたるところから上がりだした。


「いい加減にしてください!!いい大人が恥ずかしくないんですか!」


俺はスピーカのボリュームを上げ怒鳴った。おかげで、非難の声は収まり静かになった。


「本当にそう思っているんですか?あなた方は!明日香が悪いと・・・。本気でそう言ってるんですか?ただ、行き場のない憤りを感情のままにぶつけているだけなのでしょう。違いますか?・・・でしたら皆さん問いかけましょう。もし、あなた方自身が明日香の立場なら、先ほどおっしゃられていたことを実行しますか?」


適当にモニターの1つに映る男性に問いかけた。その男性に全員の視線が集まった。さっきまで意気揚々と明日香を糾弾していた態度は鳴りを潜めておどおどとしていた。


「う・・・、それは・・・。」


「他の方はどうですか?自分で戦いますか?おとなしく攫われますか?」


明日香を積極的に糾弾していた人たちに問いかけていった。


「すみません。少し意地悪が過ぎました。私の最愛を傷つけられていたので・・・。さて、ここからはきちんと説明させていただきます。現状、ヒュドラジアと戦える戦力は、ガクレンジャーのみということになります。かつてこの星を守ったカイザーたちは休眠状態にあり、スタークスアイゼンもあの戦いの後、システムがダウンし軌道の目途はたっていません。11年前に現れた巨人と、ブレイブスワットはともに宇宙警察の所属であり、宇宙警察憲章により戦闘が禁止されています。その為戦力の拡充が急務となりました。それと、特殊科学研究所所長 瓜生によって明日香の所在が知られ、いつここを襲撃されてもおかしくない状況となっており、本来なら、皆さんをこことは違うシェルターへと避難させる予定でしたが、緊急措置として我々とともにネルティエルターナへと向かってもらわなければいけなくなりました。他の地域に関しても避難は完了しております。我々の力不足で皆様に迷惑をかけることを心苦しく思っています。ですが、明日を守るため、どうかご協力お願いします。」


外部の状況をモニターに投影させながら、説明を行い俺は深々と頭を下げた。


「それでは、このままここで待機していてください。準備がありますので私たちはここで失礼させていただこうと思います。」


「なあ、あんた、鈴城と言ったか。一方的に言いたいことだけ言って去ろうとするなよ。まぁ、気持ちはわからんでもないがな。あんな胸糞わりぃー奴らがいれば誰だってな。だけどそんなバカはばっかじゃねぇんだ。まともな奴だっているんだ。そこんとこ踏まえて、もちっと詳しく話してくれねぇーかな。何も知らされないってぇーのは気持ち悪いからよ。」


俺が話を切り上げて立ち去ろうとした時に、そんな声が上がってきた。


「そう思ってるのは俺だけじゃねぇーぞ。何もすべて話せってことじゃねぇんだ。わかってることを少しだけでも話してくれってだけだ。」


モニター越しに見た相手の顔は真剣そのものだった。俺はイデに出立までの時間を確認して答えることにした。


「言いたいこと、思うところは多々あるでしょう。すべてを答えられるわけではありません。出立まであまり時間がありませんが、可能な限りお答えさせていただきます。それと、ありがとうございます。そのように言ってくださって・・・。では、何からお話ししましょうか?」


「おっ、おう。じゃあ、あんたナニモンだ?さっきは明日香と抱き合ってたし、しゃしゃって出てきたしな。俺たちはあんたを知らない。明日香やスタッフじゃない他人の指示に無条件で従えない。まずはそこから教えくれ。」


まさか答えが返ってくるとは思ってなかったようで驚いていた。


「改めまして私は鈴城 将兵と申します。御堂明日香の婚約者であり、15年前現われたイビルサタナーとの戦闘から5年前の邪神信仰の教団との戦闘までのすべての脅威と戦い続けていました。それと、ネルティエルターナでの内乱にも皇家側の協力者として戦闘をしていました。私自身、このような状況下での戦闘に関してはプロフェッショナルだと自負しております。本来であればここは明日香に任せ、裏方に徹し準備を進めるつもりでありましたが、彼女が傷つけられていることに耐え切れずしゃしゃり出てきてしましました。そういうわけで、これ以上彼女を傷つけさせたくないのと、出て来たからには私自身が対応したほうが無難だと思い、今こうしてここに立っているわけです。」


「それを信じると思うのか?あんた20代だろ。15年前なんてまだガキだったろ。戦えるわけがない。もし本当だというなら証拠を見せてみろ。」


「証拠ですか・・・。そうですね・・・。『転移無双  ガクレンジャー』。」


俺はガイザーブレスにコマンドをつぶやいてガクレッドへと変身した。


「カイザー達とスタークスアイゼンは眠りについてますし、ヴェヒター達は遥か彼方で任務中。ブレイブスワットの機能も制限されているので、現状見せられる証拠はこれぐらいです。これだけでは信じてもらえませんか?」


俺はすぐに変身をとき、彼らの答えを待った。


「本物…なん…だな。目の前で見せてくれたんだ。それだけでも十分だ。俺はあんたを信じるぜ。」


彼の言葉に賛同する声があちこちで上がった。次第に明日香に対する悪意が薄れていった。


「あんたらを信じる奴らだっているんだ。その、ネルティエルターナに向かうってんなら、俺にも何か手伝えることはあるか?俺は戦う術は持ってない。だからって全てあんたらに任せっきりなのはなんか違う気がしてよぉ。手伝いたいんだ。」


「そんな風に言っていただいてありがとうござます。その気持ちだけで十分です。作業に関しては、ブレイブベースの管理AI『イデ』が行っているので実際はあまりやることがないんです。あなたにはもう十分手助けしてもらっています。先ほどまでは安心できませんでした。『悪意ある空間に明日香にいてほしくない』そう思ったから退出しようとしました。でも、あなたの発言で、想いで、悪意を感じることがなくなりました。」


「そんなこと当たり前じゃねぇーか。そんなことぐらいで何を言ってやがるんだ。」


「あなたにとってはそんなことでしょうが、あなたのおかげで安心できたのには代わりないんです。本当にありがとうございます。では、引き続き質問タイムと致しましょう。何かありませんか。何でもいいですよ。」


「じゃあ~、明日香とぉ鈴城君のぉ~馴れ初めとか教えてほしいかなぁ~。」


「ちょ、ちょっと、万梨阿。少しは空気読みなさいよ。ここじゃないでしょ。そういうことを聞くのは。」


「でも、ほんとは聞きたいんでしょ。由衣は違うの?こんな時だからね。」


デジャヴュのようなやり取りをしているほうに目を向けると、大西たちとその横で苦笑いしている凉那だった。さすがにこれは断る方向で進めようと明日香に目を向けると、微笑みながらマイクを持って、


「わかりました。まずは、馴れ初めですね。あれは、13年前機械生命体が初めて地球を攻撃した日でした……。」


断るどころかめちゃくちゃ嬉しそうに満面の笑みを浮かべて話し出した。


そんな明日香を見ながらこれから行われるであろう暴露話に戦々恐々としていると、『イデ』から敵襲の報告を受けた。








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