第29話

「少し私の話を聞いていただけないでしょうか?」


浩平たちと話していると、指令室の大型モニターに明日香が映し出された。


「まず始めに皆様に謝らなければいけません。私のせいで皆様を巻き込んでしまうことを謝罪いたします。今現在私たちが置かれている状況、これからの事を順を追って説明させていただきます。すでにライブにお越しいただいた方にはお伝えしておりましたが、ヒュドラジア帝国によりこの星は襲撃を受けました。まずは、こちらをご覧ください。」


そう言って明日香は、避難誘導する会長たちや、ドームの外で避難する人々を守りながら戦う俺たちの姿を映しだした。


「現在、彼らの協力により危機は過ぎ去りました。彼らは、かつてこの星を守ってきた勇者たちです。ドーム内で誘導されていた方々はブレイブスワットのメンバーです。ドームのシェルターでは収容しきれないからと、ここ、彼らの基地であるブレイブベースへの避難を提案してくださいました。ドームの外で誘導していただいていた方々は、ガクレンジャーです。彼らもまた、この場へと誘導しながら脅威を撃退してくださりました。」


そこで一旦反応を確認するように見渡しそして続けた。


「ですが、これは一時的に凌いだにすぎません。私たちは現状の把握と今後の対応をどうするべきか、指令室で話し合っておりました。避難中、目撃された方もおられるでしょうが、避難を促していたブレイブスワットの方々へ抵抗をされた方々がいました。この件に関わりがある可能性を考え、彼らを無力化し、事情を聴くため指令室へと保護しました。落ち着かせ彼らに事情を伺いますと、彼ら自身も被害者であるということがわかりました。彼らのこの星を守りたいという想いを利用し、今回の事態を引き起こしたのは、特殊科学研究所所長 瓜生という人物です。先ほど彼が指令室へ襲撃をかけてきた際にヒュドラジア帝国の目的が判明しました。彼らの目的はこの宇宙を支配する為にこの星を隷属化させること。そして、1人の地球人が持つ力。それを知った瓜生は、己が欲望ー彼らの科学の研究、隷属化された後のこの星、自分を認めなかった世界への復讐と支配権ーを満たす。その目的の為、彼は私、御堂明日香がその力の持ち主であることを隠し、頃合いを見て私を手土産に相応の地位を手に入れることを考えていました。そして、その立場を利用しヒュドラジアと密かに通じ、ヒュドラジア帝国を手引きし、彼らに襲撃させました。その襲撃で起こる混乱に乗じて私を攫う計画は実行されました。しかし、私を攫うという彼の計画は、その場に居合わせた将兵さんを含めた皆様によって防がれました。ですが、引き際に彼は再び戦力を増やし攫いに来ると告げ撤退しました。分かったことは、現段階において次の襲撃で私を守ることは戦力的に厳しいということでした。それを踏まえ、私たちはこのブレイブベースでネルティエルターナへと向かい、かの国への救助要請を行い、戦力の増強を図ることにしました。以上が私たちが今わかり得ることと今後の予定です。」


状況を理解したのか周囲のざわめきが大きくなった。


いくつかのモニター越しに反応を見ていると大半の人たちが、明日香に対し同情的な感情を向け、ヒュドラジア帝国に対しての怒りの感情をぶつけているようだった。


「明日香のせいでこんなことになったってことか?」


そんな中誰かが発した一言が、水面に石を投じたかのように波紋を広げていった。


「そうよね、さっきそう言ってたわよね。」「でもそれって明日香のせいじゃないよな。」「いや、明日香がいなけりゃこんなことにならんかったんだろ。じゃあ、明日香のせいってことだろ。」「いや、でも、瓜生?ってやつが悪いんだろ。」「それはわかってるんだが、俺が納得できないのはこの星から逃げ出すってことだ。」「それは、一時的なものだろ。戦力整えたら戻るって。」「嘘かもしれないだろ。わざわざ危ないところに戻るなんて普通はしない。逃げるための言い訳だと思う。」「私もそう思う。自分たちのことは言ってても、残された人たちのことは何も言ってないから。」「てことは、もしかしたら明日香を差し出せば大丈夫じゃね?」「そ、そうよね。明日香を渡せば私たち助かるのよね。」「そうだ。明日香一人を差し出せば多くの命が救えるなら、明日香も本望だろ。」


それは明日香を非難するという小さなさざ波が巨大なうねりへと変わるまでそう時間はかからなかった。





「おっ、おい、ショウ。なんか変な流れになってるぞ。大丈夫なのか、明日香さん。」


「ねぇ、これってまずくない?ヘイトが明日香さんに向かってない?将兵、これってまずくない?」


モニターから流れてきた会話に浩平と葵が不安そうに声をかけてきた。


「やっぱり、こういう状況になったか・・・。大丈夫だ。問題ないよ。わかってたからね。それじゃあ、行ってくるよ。彼女のもとに。」


浩平の肩をぐっとつかんで、会長達の元へと向かった。


「ちょっと明日香のところに行ってくるんで、後はよろしく。」


そう言って明日香の元へと転移した。



Side 凉那


「彼女よ。将兵の婚約者は。」


私がそう告げた瞬間、3人はステージを見て、お互いの顔を見て突然大声を上げた。


突然の叫び声に周囲の人たちから奇異な視線を向けられたが、すぐにモニターに映し出された明日香へと視線を戻していた。


「ちょ、ちょっと凉那さん。御堂明日香が鈴城君の彼女ってホントなの?」


「えっ?えっ?なんで?うそでしょ?なんで彼女となの?鈴城君と御堂明日香ってどこで接点があったの?彼女って私たちの高校じゃなかったわよね?」


「凉那ちゃんでも冗談ゆうんだねぇ~。いくらなんでもそれは信じられないよ~。」


「嘘はついてないわよ。ホントのことよ。将兵から彼女って紹介されたからね。高校の時に。」


「いつ紹介されたの?それになんで?」


「さっき、将兵が大怪我して入院したって話してたでしょ。その時に。あの時将兵が倒れて、病院に担ぎ込まれてお見舞いに行ったときに・・・ね。落ち着いたときに紹介されたわ。彼女だって。」


「そうだったんだ。馴れ初めって聞いたの?」


「そうね、彼女のピンチに将兵が助けたことがきっかけって言ってたわ。お互いに一目ぼれだったそうよ。」


「そ~なんだ~。鈴城君かっこよかったもんね~。高校の時には付き合ってたんだ~。」


「ちなみに、出会ったのは12歳だったそうよ。機械生命体が攻めてきたときに怪我した彼女を助けたんだって。そこかららしいわ。将兵がスタークスアイゼンで戦ってる時も、宇宙からの犯罪シンジゲートと戦ってた時も、ガクレンジャーの時も、5年前の戦いの時もずっと寄り添って支えてきたそうよ。だからかな、2人には幸せになてもらいたいって。でも、それよりも今は彼女の話を聞いてほしい。今後に関わることだから。」


そう言って私は、ステージへと視線を向けた。話はちょうど瓜生が現れたところに差し掛かっていた。


「わかったわ、凉那さん。後でもっと詳しく聞かせてね。」


「せっかくだから、御堂明日香にも聞きたいんだけどお願いできる?」


「いいねぇ~、由衣。あっそうだ!冴島くんにスイーツ作ってもらって、食べながら話そうよ~。」


「わかってる範囲内でいいならね。明日香さんについては将兵に聞いてみるわよ。料太には言っとくわ。」


ようやく静かに明日香さんの話を聞き始めた3人。そのおかげか、周囲のざわめきが耳に入るようになった。


最初は戸惑いを感じるざわめきだったのが、誰かの発した一言で明日香さんを糾弾する流れへと変わっていった。


誠意をもって説明を続ける明日香さんに、多くの人たちがやり場のない気持ちを非難へと変えてぶつけだしていた。


この流れを変えようと私は明日香さんのもとへと行こうとしてやめた。いつの間にかステージ上が甘い空間へと変貌していた。


「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」


一瞬の静寂の後に、大きな驚きの声が会場中いたるところから上がった。


視線の先には明日香を抱きしめ、頭をなでている将兵がいた。







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