第28話

Side 凉那


将兵と話した後、ブレイブベース内のシェルター施設へと入り、私たちは避難した人たちの様子を見るために分かれて見回ることにした。


やはりというべきか、ほとんどの人たちが不安そうな表情で知り合い同士で固まっていた。が、たまに異様な熱気でドス黒い感情を持ったグループもいた。そんなグループを見て危険だと感じた私は、様子を探ろうと近づい・・・、すぐにその場を離れた。

だって、「処す?処す?」だの「俺のこの手が嫉妬で燃える。やつを殺せと轟叫ぶ!」だの「やつを滅する強力な毒を探せ」だの聞こえてきたら、さすがに近づきたくないでしょ。それに醜い嫉妬に狂った男たちに向かっていくなんて蛮勇、私には出来ないし、将兵案件として別の場所へと足を向けた。


「あ~、凉那ちゃんだ。凉那ちゃんがいる。」


「ちょっと、万梨阿。こんなところで大声出さないでよ!」


「状況を見てよ。でも、凉那さんもここに避難してたんだ。」


突然大声で名前を呼ばれ、声の発生源に顔を向けると、そこには高校時代の同級生、大西 万梨阿、茅野 由衣、安野 未可子の3人がいた。


「ええ。あなたたちも避難していたのね。ライブに来てたの?」


「私たちは近くのカフェでランチしてたの。そしたらサイレンが鳴って、とりあえずみんなでドーム目指しながら移動してたら、化け物に襲われそうになって、鈴城君に助けてもらったの。それでここに行くようにって。」


「それよりも聞いてよ。凉那ちゃん。その鈴城君のことでびっくりすることがあったんだから。」


由衣を押しのけるように、万梨阿が目をキラキラさせながら割って入ってきた。その圧に思わず後ずさってしまった。


「ちょっと、万梨阿落ちついて。凉那がひいてるから。あのね、凉那。鈴城君がガクレンジャーだったの。」


「あ~、それ言おうと思ってたのにぃ~。未可子ちゃん何で言っちゃうかなぁ。もう。」


「びっくりしたわ。いきなり現れたと思ったら、襲ってきた化け物を一瞬で倒して。それだけでも驚きなのにね。」


「ちょっとぉ~、由衣まで。なんでいっちゃうのかなぁ~。私が言いたかったのにぃ~。」


「由衣が、ヒーローに任せて一緒に逃げようって言ったら、目の前で変身して。私たちを逃がしてくれたの。」


昔と変わらない3人のやり取りにほっこりとしつつ眺めていた。


「ねぇ、凉那。鈴城君見かけなかった?ここに避難してから探してるんだけど見当たらなくて。」


「将兵?彼なら無事よ。ここにはいないけど、さっきまで一緒にいたから。安心して。」


「そうなんだ。よかt・・・って、今、鈴城君のこと下の名前で呼んだ?えっ、凉那って鈴城君を名前で呼ぶ仲なの?高校の頃って接点なかったよね?いつからなの?」


「ほんと~だ。将兵って言ってたぁ~。卒業してから何があったのぉ~。」


「私もそれききたい。あっ、でも、高校の頃鈴城君のことよく見てたわよね。もしかしてその頃から?」


「じゃ、じゃあ、秘めた想いが抑えられなくなって卒業後に告白したってこと?」


「いまぁ~、2人はいつ結婚するのぉ~?」


安心させようと言った一言から、いつの間にか私と将兵が結婚することになっていた。あいかわらず、こういった話女子の盛り上がり方はすごいわね。


「とりあえず、3人とも落ち着いて。私と将兵は付き合ってなんかないわよ。わけあって、最近までお互いに他人のふりをしてただけで。それに、私もだけど友人としか思ってないわ。」


「またまたぁ~。私たちには隠さなくていいって~。あれでしょ~、女優として今が大事な時期だから世間には隠さなきゃいけないんでしょぉ~。」


「うんうん。大丈夫。私たちは応援するから。隠さなくっていいのよ。なれそめだけ教えてもらえればね。」


「由衣の言うとおり。すこ~し私たちに糖分補給させてくれればいいだけだから。もし、付き合ってないんなら、私立候補しようかな~。鈴城君かっこよかったし。強いし。高校の頃少し気になってたのよね。」


「あぁ~、未可子ずる~い。わたしも鈴城君のことぉ~。気になってたんだからぁ~。」


「もう、2人とも。言いたい気持ちはわかるけどねぇ。あんなかっこいいことされちゃあ。惚れても仕方ないけどね。・・・で、凉那。ほんとのところはどうなの?鈴城君と付き合ってるの?」


「違うわよ。それに将兵には婚約者がいるわ。高校の頃、付き合ってた娘は知ってたけど、婚約者になったのは今日知ったわ。」


「それほんとなの?凉那。凉那じゃないとしたら・・・誰かしら?あの頃の鈴城君ってなんていうのか、印象が薄かったからあんまり覚えてないのよね。覚えてるって言ったら、高1の秋に日毎に傷が増えていって、大怪我で入院したっていうことぐらいしか残ってなかったから。その頃にはもう彼女がいたってこと?」


「ねぇ、その頃ってガクレンジャーが戦ってた頃よね。もしかして、ガクピンクは女の子で、その娘が彼女ってことじゃない?てことは、鈴城くんがガクレッドだったから、あの時の怪我って戦って?大怪我したっていうのも・・・」


「そうね。そのとおりよ。あの頃の将兵は段々と壊れていってたわ。そのせいで傷が増えていって、命に係わる大怪我を負った。だけど、私たちはわかっていても止めることなんて出来なかった。あの時ほど自分たちの無力さを思い知ったことはなかったわ。目の前で傷ついていく彼を見ても・・・ね。本当の意味で彼の苦しみを分かってあげられなかったから。でも、彼女は違った。彼女の言葉は彼の心に届いた。それは、ずっと彼に寄り添い、想い続けてきた彼女だからなんだと思う。それとね、ガクピンクは女の子だけど将兵の彼女じゃないわ。別の娘よ。」


「なんかぁ~。妙に詳しくない~?凉那ちゃん。まるですぐそばで見てきたように聞こえたんだけどぉ~。もしかして凉那ちゃんってぇ~。」


「鈴城君のストーカーなのぉ~?」「ガクピンクだからよ。」


「・・・。」「・・・。」


「「「「ええぇ~~~!」」」」


「「「凉那(ちゃん)がガクピンク!?」」」


「ちょっと!ストーカーって何よ!なんでそんな結論になるのよ!」


「そんなことより、本当に凉那がガクレンジャーなの?」


「そんなことよりって、違うから!違うからね!」


「凉那がストーカーかどうかなんてこの際どうでもいいの。今はあなたがガクレンジャーだったのが問題なの。」


「どうでもよくないわ!私の高校時代を汚されてるのよ!どうでもいいはずないでしょう!」


「ん~。じゃあぁ~、とりあえずぅ~、凉那ちゃんはストーカーじゃないということにしといてぇ~。他のメンバーも私たちが知る人なの~?」


ストーカー疑惑という爆弾を投げ込んでおいて、彼女たちはガクレンジャーに食いついてきた。


「あぁ~、もう。言いふらさないでよ。」


「ええ、言いふらさないわ。凉那がガクレンジャーだってことは。」


「それじゃないわよ!ストーカーだっていう嘘情報をよ!」


「まぁまぁ、落ち着いて凉那。そんなに興奮しないで。周りの目が痛いわ。」


「誰のせいで。こうなったと思ってるのよ!」


「凉那をからかうのはこのくらいにして、大変だったわね。」


「由衣のいうとおりね。じゃあ、さっきも鈴城君と一緒で守ってくれてたの?ありがとう。」


「それはそうとぉ~、ガクレンジャーの他のメンバーは誰なの~?それに鈴城君の彼女も~?」


「も~、なんなのよあなたたちは。それに大西さんも相変わらずだし。ええ、そうね、ガクレンジャーの他のメンバーは、冴島 料太と緑川 典膳、的井 秀一よ。司令官は早瀬先生だったわ。卒業してしばらくしたら、保護プログラムは解除されたけど、何故か将兵だけ解除されなかったのよ。だから料太からこないだ将兵と話したって、連絡もらった時はほっとしたわ。ようやく終わったんだって。」


「そうだったんだ。でも、冴島たちがねぇ。信じられないわ。」


「そうね。あの時の冴島たちって、凉那もそうだけど、そんなことするような感じはなかったわよね。なんか不思議な感じがするわ。」


「えぇ~、でも~、鈴城くん怪我していってるとき~、みんな心配そうにみてたよねぇ~。不思議だったんだぁ~。だからなんだねぇ~。」


「万梨阿、あんた意外と見てるわね。私たち全然気づかなかったわ。」


「それでぇ~、鈴城君の彼女は誰なの~?」


「それはね・・・」



「少し私の話を聞いていただけないでしょうか?」


答えようとしたとき、この施設の前方にあるステージのような場所に明日香さんと彼女を守るようにスタッフたちが立っていた。それと同時に私たちの目の前の空間にモニターが投影された。周りを見渡すとある程度の間隔で同じ現象が起こっており、ざわつきながらもみんなそのモニターとステージ、交互に目を向けていた。


「彼女よ。将兵の婚約者は。」


モニターを見ながらそう伝えると、3人は今日一番の驚きの声を上げて周囲の注目を集めた。

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