第27話

「それでは、私はスタッフの方々に説明してきますね。将兵さんはみずほさんを安心させてあげてきてください。」


そう言うと明日香はスタッフたちの元へと向かった。俺は、促される形で目を向けると確かに不安そうな様子のみずほがこちらを見ていた。


「まどかちゃんたち。ここにいたら安全だから。後は俺たちに任せて、今後のことを考えておいてね。」


俺はそう言ってみずほたちの元へと向かった。


「みんな大丈夫?ケガはない?再びこんなことになるなんてね。平和になったと思ったのになぁ。」


「お兄ちゃん。これから私たちどうなるの?」


「そのことなんだけどさ。どうやらヒュドラジアの目的は明日香の持つ何らかの力とこの星の侵略だと、さっき判明した。俺たちは一旦このブレイブベースでネルティエルターナへと避難する。あそこでなら安心してみんなを預けられるし、協力して対処できるから。だから不安がらなくて大丈夫。後はお兄ちゃんたちに任せておきなさい。ね。」


軽く頭をポンポンとみずほの不安を取り除くつもりでたたいていたが、ますます不安そうな顔を向けてきた。


「将兵、あんた何もわかってないわねぇ。みずほが心配なのはあなたよ。正直私も不安よ。また9年前みたいなことになるんじゃないかって。」


みずほの肩に手を置きながら母さんがそう言った。


「ん~。いや、まぁ、大丈夫だと思うよ。俺自身あの時みたいに壊れてないし、何よりも婚約したばかりなんだ。死なないような頑張るさ。『この命と引き換えに』なんて真似はしないよ。死んでも勝つなんて投げやりなことは言わない。生きて勝つよ。あんな悲しい顔もう二度とさせたくないからね。まぁ、ネルティエルターナにいれば安全だからね。安心して待ってて。みずほも。」


フゥーとため息をついて気持ちを切り替え、さっきからじっと何か言いたそうな目でこちらを見ている2人に声をかけた。


「残念だったな。浩平。楽しみにしてたライブがこんなことになって。それに葵も。」


「あ~、その、なんだ。さっきは悪かったな。夢を現実と勘違いしてたわ。お前が明日香さんの恋人なわけないよな。いやぁ、ほんと悪かった。で、それよりも今どんな状況?」


「どんだけ周りが見えてないのよ、あんたは。それより将兵、ここ最近いろいろありすぎて考えてたらわけわかんなくなってた。けど、明日香さんに言われて1つだけわかったことがあるの。私はあなたが好きだってこと。こんな時にだからこそ伝えなきゃって。もう私は後悔したくないから。あの日明日香さんの提案に乗ることにするわ。」


突然の事で、俺は戸惑っていた。それが顔に出ていたようで、


「今はまだわからなくていいわよ。また、改めて返事を聞くから。今は、この馬鹿に説明して、後で喚かれても面倒だから。」


そう言った葵の顔は久しぶりに晴れ晴れとしていた。


「お、おう。わかった。とりあえずありがとうでいいのか?すまん、落ち着いてから考えさせてくれ。にしても葵、浩平の扱いひどくないか?・・・ん、いや、あってるな。」


「お前ら俺の扱いひどくね。でも、まぁ、葵もようやく自分の気持ちを伝えられてほっとしたぜ。はよ告ればいいのにってずっと思ってたしな。つーか、ショウの鈍感さはありえねぇな。・・・じゃねぇ、葵が一歩前進できたのはうれしいけど、葵、御堂明日香と会ってたのか。それで後押ししてもらったと。なんでその時に俺を呼ばなかったんだ。何をおいてもすぐに向かったのに。」


「そんな余裕あるはずないでしょうが。・・・彼女がいるって知って、その子に私の想いまで知られて、器の大きさを見せられて、どれだけ自分がみじめな女かを思い知らされて、なのにあんな提案されて・・・、そんな状況だったのよ。今日だって迷ったのよ。みじめになるだけだと思ったから。思った通りライブが始まる前に女優の桃代 凉那と仲良さげに話してるのを見て、あきらめようって思ったわ。私じゃ敵わないって。でも、今は吹っ切れたわ。ライブでの明日香さんの言葉を聞いて、ジェニファー皇女殿下も、あなたに対する想いを持っていて、それにあの女の子も。あなたの真実を知って、ずっと一緒にいて支えたいって思ってしまった私がいたの。って、今はいいでしょこんな話。さっさとこのバカに説明して。」


「ちょっと待て、ショウ、お前彼女いるのかよ。くぁ~。水くせーな。教えてくれてもいいじゃないか。んっ?そういえば、ジェニファー皇女殿下とか、女優がどうとか、あの女の子もって。やっぱりあれって夢じゃなかったのかよ。お前、御堂明日香と付き合ってるのか!」


つかみかからん勢いで詰め寄ってきたので一歩後ろに下がったが、今回は多少冷静さを持っているようだった。鼻息は荒いままだったが・・・。


「ああ、先日婚約した。平和になったと思ったからね。」


「ほんとなんだな。婚約かぁ・・・。くっそうらやましいぞ。でも、大丈夫か?親衛隊とか結構武闘派らしいけど。こないだも前川って女癖の悪い俳優が明日香に近づいてボコられたって聞いたけど。お前荒事って苦手だろ。」


「まぁ、問題ないかな。そうなっても丁重におかえりいただくさ。婚約はしたけど結婚式は延期だな。状況が変わってしまったしな。これが解決できなきゃ安心してできないしな。」


「そういやここって、どっかの基地みたいだけど。何でここにいるんだ?」


「ここは、ドームの地下。ブレイブベースの指令室だ。ドームの観客と付近の住人は今ここに避難してもらっている。ドームじゃ収容できなかったからな。明日香に手伝ってもらってここに誘導してもらった。」


「そういえば、急に停電して、気付いたらお前がステージ上で明日香とキスしてたな。ん?そのあと一緒にいなかったけど、どこに行ってたんだ。普通なら一緒にいるだろ。」


「あの後、外に出て避難誘導とヒュドラジアの改造兵と戦ってた。避難完了とヒュドラジアの脅威度が下がったから、一旦ここに戻ってきて状況確認をしたところかな。」


「ん?ちょっ、待てよ。何でお前が戦ってるんだ?何も一般人のお前が戦うことないだろ。そんなん、専門家に任せたらいいんじゃないのか?それにここがブレイブベースだって!?なんでそんなとこに俺らがいるんだ?」


「なんでって、ドームと付近の住民の避難のために開放したってさっき言ったろ。それに、ドームよりもここの方が安全だからな。ちなみに俺は、お前が言うところの専門家に当たると思うぞ。明日香も言ってただろ。想い人はガクレンジャーであり、ブレイブスワットだって。多分、世界中で一番の専門家だと思うよ。15年前からこんなことに関わってきたからな。」


「う、うそだろ。そういう冗談、柄じゃないだろ。」


「残念ながら現実だ。かいつまんで説明するとな・・・。」


俺は浩平に現状と今後の予定を説明した。


話が終わるタイミングで、料太たちがやってきた。


「将兵、彼は大丈夫だったか?かなり錯乱していたし、すげぇ音で殴られてたけど。」


「ああ、大丈夫そうだ。っていうか、基本あれが正常運転だ。問題ない。大丈夫。それよりも、みんなしてどうした。とりあえず今はすることないから、休んでたらどうだ。」


「ちょっと落ち着かないし、みんなで話してたんだけど、一旦私たちは避難してきた人の様子を見てくるわ。何かあったられんらくしてね。」


「了解。凉那。気をつけてな。」


返事代わりに手を挙げて、料太たちは指令室を出て行った。


今度は明日香がスタッフとともにやってきた。


「将兵さん。行ってまいります。」


「ああ、わかった気をつけて。後から俺も行くから無茶はしないようにね。」


そう言って彼女を軽く抱きしめ、軽くキスをして彼女たちを送り出した。


指令室から出るときに彼女は軽く手を振って、そんな光景を見せつけられた男性スタッフたちには舌打ちと嫉妬の視線を俺に浴びせて行った。


「将兵、よく平気だな。あんな露骨な嫉妬の感情をぶつけられて。」


「ああ、本気の悪意に比べたら、かわいいもんだよ。」


「本気の悪意って、・・・お前。・・・まぁ大丈夫ならいいか。で、この状況で明日香さんどっか行くのか。」


「避難した人たちも不安だろうからって、状況を説明しに行っただけだよ。今わかったこと全て説明するって。まずは1人で説明してくるからと。まぁ、俺も状況見て向かうつもりだけどね。」

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