第26話

「すみません、長官。早瀬指令。まさか逃げられるとは。あの状況で撤退する冷静さがあるとは思いませんでした。」


「いや、我々も油断していた。気にすることではないよ。」


「ええ、あいつの性格上逃げるという選択肢は選ばないと思ってましたから。ですが、ヒュドラジアの目的がはっきりした以上何かしらの対策が必要でしょう。」


「それについてなんですが、まずは、ネルティエルターナへ向かい、そこで、かの星に協力を要請します。協力を得て明日香の『力』というのを調べ、それと並行して我々の武装の改修とスタークスアイゼンのシステム解析、宇宙警察への協力要請を行い、整い次第反撃に移ろうと考えています。」


「将兵。ここで迎え撃つという選択はないのか。ネルティエルターナが受け入れてくれるとは限らないだろう。」


「会長、それなら大丈夫です。あいつらなら必ず協力してくれます。これは俺の予想なんですが、ヒュドラジアはこれから先も侵略を続け、侵略した星の力を取り込み、さらに力をつけいずれ銀河を覆う巨大な闇になっていくでしょう。そうなる前に対抗できる戦力を整える必要がある、彼女達もそう考えるはずですから。」


「少し相談したんだが、俺たちガクレンジャーは、将兵の提案に乗るぞ。瓜生つったけ?あいつがこのままあきらめるとは思えないし、ここには一般人が避難している。この場で戦うことなんてなったら、彼らに被害が及ぶかもしれん。だったら、少しでも彼らが安全になるように動いたほうがいいだろう。それに、俺たちの装備も今のままだと心細いしな。」


「将兵くん。さっきスタークスアイゼンの解析と言っていたが、大丈夫なのか?現在の科学力では解析不能だとネルティエルターナからも報告があったのだが、何かあるのだろう。すぐにこちらに搬入するよう真木君に伝えよう。では、雄二君1度基地へと戻ろうか。」


「長官、ありがとうございます。公式な科学局からの返答はそうだと俺も聞いています。でも、あそこには天才科学者が1人います。彼女なら解析できるかもしれません。あと、雄二もそれでいい?」


「ああ、問題ない。できれば俺もスタークスアイゼンなしでも戦えるようになりたいしな。」


「オーケー。それも大丈夫だと思う。そっちは頼んだ。」


俺の返事を聞いた後雄二は、長官と共にスタークスアイゼンを搬入するため、基地へと向かった。



「将兵、ここに避難していない人たちは見捨てるということなのか?それだと俺たちは賛成は出来ない。だったら明日香さんだけでも避難させて、残って戦うべきじゃないのか。」


「会長。そのことも考えたんですけど、俺たちがここを離れたほうがいいという根拠があるんです。もし、敗れて改造されたらこの星の侵略が加速度的に早まり守ることが出来なくなることが考えられるからです。それにシェルターの強度は今回クラスの襲撃であれば耐えられること。各地の防衛戦力でも反撃はともかく防衛だけなら可能なこと。数年は籠城できる備蓄があること。この点を踏まえると残るよりもいったん離れ、戦力を向上させたほうが成功率が高いと俺の鎧のサポートA.I『アーティー』の計算でも出ています。『イデ』ここに残って戦うのと、ネルティエルターナで戦力を向上させるのとではどちらの成功率が高いかと俺たちが抜けた状況でこの星の防衛は最低どれくらい持つかを教えてほしい。」


『その条件であれば、95%の確率で後者の成功率が高いです。また、防衛に関しては最低でも18か月は防衛可能となります。』


「そうか、なら大丈夫だ。俺たちも戦える手段を見つけさせてもらおう。では、俺たちはこれより、ネルティエルターナへ向けての出立の準備を始めよう。」


「将兵さん。彼らのことはどうなさるおつもりですか?」


「もちろんわかってるよ。明日香。ただ、こればっかりは難しいよなぁ。早瀬指令申し訳ないですけど簡単に瓜生の研究について教えてもらえませんか。」


「瓜生の研究についてか。時間がないから簡単に説明すると、投薬による人体改造。それがあいつの研究だった。投薬により肉体と脳を強化。常人の数百倍の能力を獲得できる。それが完成すれば、驚異の払拭となり、人類は新たな次元へと到達できる。だが、その研究は凍結された。理由はモルモットによる実験だったんだが、その段階ですでに投薬したモルモットの致死率は100%だった。実験は失敗の連続。成果の見込めない研究に投資し続けるなんてスポンサーはなく。すぐにスポンサーはすべて撤退した。それでも瓜生はあきらめなかったんだろう。その死体を操る術を模索し、作り上げた。私が知っているのはここまでかな。」


「ありがとうございます。指令。ちょっと彼女たちと話してきます。」


俺は、瓜生の言葉を受けて青ざめた顔でたたずんでいる5人のもとに向かった。


「あっ、将兵お兄ちゃん。・・・どうしよう。私、人を殺してたんだって。どうしたらいいの。何も知らなかった。ゲームと思ってたから、出てくる敵を倒してただけなのに、なのにこれは現実で倒した敵はすべて私たちと同じ人間だった。私はずっと人を殺したの。何も考え時に人を殺してたの。ねぇ、私どうしたらいいのお兄ちゃん私どうしたらいいの?」


「落ち着いて、まどかちゃん。それにみんなも。まぁ、落ち着けるとは思えないけどね。ただ、俺の話を聞いてほしい。」


5人は顔面蒼白といっていいほどの顔色でうつろな目をしていたが、人を殺したという潜在的な恐怖をどうにかしたいという思いがあるようでおとなしく耳を傾けようとしていた。


「まずは、厳しいことを言うけど、たとえどんな理由であろうとも人の命を奪ったという真実は消えることはないということを覚えておいて。ただ、君たちは殺したこと感じているようだけど、俺はそうは思ってはいない。説明を聞いたけど、瓜生の研究は人道に反していたんだ。投薬による人体改造。でも実態は致死率100%の薬をホームレスに投薬していた。そしてそれを操っていたんだ。だから、君たちが戦っていたのは人ではないんだ。それが事実だ。」


「でも、人だったことには変わりはない。俺たちはやっぱり人を殺してたんだ。」


「ただ、そうだとしても俺は君たちは人を殺してはいないと言うよ。死してなお実験に使いつぶされていた彼らを救ったんだって。君たちは彼らを救ったんだよ。」


「あなたに何がわかるんですか!人を殺したことがないあなたに!」


「昔俺も人の命を奪ったことはあるよ。ここではなく、別の世界でだけどね。守るためとはいえ人の命を奪ってしまった。しばらく悩んだし、悪夢で目覚めることも続いたよ。そんな日々が続いたときに助けた人から言われたんだ。『あなたのおかげで私とおなかの中の子供2人の命は救われました。あなたが彼らを殺さなければ多くの命が失われていました。あなたは命を奪ったのでは無く、救ったんです』と。それを聞いて俺は覚悟を決めたんだ。守るために多くの命を救っていこうと、そう決意したんだ。俺はそうすることで心の折り合いをつけたよ。でも、こればかりは心の問題だから、君たち自身で乗り越えてほしい。そして、改めて考えてほしい。戦うか否かを。」


フゥと息を吐き、


「まっ、難しく考えることはないよ。頭も心も追い付かないだろうから、しばらくは俺たちに任せて休んでいてほしい。」


「あの、将兵お兄ちゃん。ネルティエルターナに行くって聞こえたんだけど。」


「ああ、これからのためにネルティエルターナに行くよ。向こうにも協力してもらおうと思ってね。まどかちゃんたちは休んでてよ。ね。それと、明日香、ごめん。現状を説明するために君のことも話すけど大丈夫かな。」


「避難された方々への説明ですね。将兵さん、その説明ですが私にさせてもらえませんか?」


明日香からまっすぐに目を合わせられ、宿った意思の強さを見た俺は頷くしかなかった。



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