第25話

「それはこういうことだからですよ。」


そこには狂気をまとった白衣の男が女の子に銃を突き付けて立っていた。


「御堂明日香をこちらに渡してください。さもないとこの子がどうなっても知りませんよ。まさか、御堂明日香を守るためにこの幼い命を見捨てるなんてまね、皆さんがとるはずないですよね。」


「あんた誰だ?明日香のファンか?だとしたら、やりすぎじゃないかな。今なら冗談で済ませることができるぞ。」


「君は将兵くんといいましたか。私は本気ですよ。御堂明日香。確かに聞いていた通り素晴らしいエネルギーをお持ちのようだ。もうすぐあなたを研究できると思うと興奮しますね。・・・おや、そこにいるのは早瀬先輩じゃないですか。先輩もここに逃げ込んでおられたのですねぇ。ここは未知の技術の宝庫。素晴らしい。本当に正しい判断ですよ。ククク。」


「瓜生!今がどんなときかわかっているのか!いや、わかってやってるんだな。!まさか!ヒュドラジアとつながっているのか?だからか、明日香さんを求めるのは。」


「さすが優秀と言われている先輩ですね。姑息な手段で私を蹴落とし続けてきただけあります。まぁ、私の素晴らしい研究成果を理解できない低能どもにしっぽを振ることに関してですけどね。それはそうと、早くしてくれませんかねぇ。早くいじり倒したいので、さっさと渡しいただけませんかねぇ。いっそのこと見せしめにこの子を殺してしまいましょうか。人質は選り取り見取りですからね。」


「よせ!お前は何をいっているのかわかってるのか!こんなこと許されることじゃないぞ!」


「許される?誰に?おかしなことを言いますね、先輩。誰に、何を、許されると言うのです?私を断罪できるものなんてこの星には誰もいないんですよ。もうじきここはヒュドラジア帝国に隷属されるんです。この宇宙をヒュドラジア帝国が支配する為、地球人は奴隷としてヒュドラジアに接収されるのですよ。そんな世界で誰が断罪するんですか?笑わせないでください。もうあなたは優秀なんかじゃない。只の凡人になるんですよ。」


「なるほど。大方、明日香を連れていけば、見返りにこの星の管理者と研究の自由を与えられると言ったところですか。本当にそんな未来があるとでも?隷属させようとしている星の人間にそんな権利を与えるとは思えないけどなぁ。」


「ほう。思ったより賢いじゃないですか、将兵くん。普通はそうでしょうね。帝国には目的の地球人が明日香さんだとは教えていませんよ。こちら要求を確実に通すための切り札なんでね。それと、なんの対策もなくこの私が事を起こすわけがないでしょう。今の私は誰も傷つけることはできませんし、相手を殲滅するだけの力を得ているんですよ!それこそ、君たちのガクレンジャーの力が霞んで見えるほどのね!」


なにかに気づいたのか、早瀬指令と長官がハッとした表情を見せた。


「まさかお前、あの研究を続けていたのか。凍結されたあの研究を。データは全て処分されていたはずだ。その研究を彼らで実験したのか!」


「何をいってるんですか、先輩。そんなことするわけないでしょう。これには先輩と同じシステムを使ってるだけですよ。それに実験は、ホームレスを拐って行ってましたしね。その処理もヒュドラジアの兵に見せかけ、てこれらに処分させてましたけどね。中々見物でしたよ。力を得たと錯覚して、嬉々として倒している姿を見るのは。・・・何て顔をしているんですか、先輩。悔しそうですねぇ。でも、これが正しいんですよ?あなたのその顔を私が見るのは。それなのに、あの老害どもは!自身の保身と名誉しか考えない低能どもが!私の研究を認めなかった!何が非人道的だ!何が危険だ!人類が生き残るために必要な研究だろうが!それをあのクズどもは理解もせずに拒否しやがった!それだけならまだしも、無能な先輩の研究を称賛した!あんなぬるい研究をだ!さらに、業腹だったのは、ネルティエルターナの技術を、それも最先端でない技術を研究して使えるようにしろと命令してきやがった!」


瓜生が感情的になって、俺から意識が離れたのを感じて、女の子を救出するため、龍騎士の鎧に組み込まれているサポートA.Iと通信を繋いだ。


(アーティー。奴の持つ銃は物理的なシールドと防御魔法で防げる確率は?)


(その両方を使用した場合では、90%以上と推定。)


(サンキュー。アーティー。後は、タイミングだけか。)


気づかれぬようプランを送りその時を待った。


意識を瓜生に戻すと大きく肩で息をしていた。


「おっと、私としたことが少々乱れてしまいました。そんな世界を恨んでいた私は、ある日微弱な通信を拾ったんです。最初は内容がわかりませんでしたが、ネルティエルターナからの翻訳装置で、それが、別系統の銀河公用語と言われる言語での通信でした。この星についてにやり取りをする未知の異星人。これを利用すれば、私を不当に扱ってきた老害どもを見下せるのではないかと。そこからの私は、老害どもに従順なフリをして、水面下では、研究データをもとに自身に施し、さらに改良を繰り返した。それと平行してヒュドラジアにコンタクトをとり、今日、この日を迎えるまでしっかりと準備をして来た。ようやくです。ようやく私を見下したこの世界を見返すことができるのです。己の無力さを感じながら屈服しなさい。フハ、フハハ、ハハハッハハハハッハ!」


優越感に浸り、女の子とこちらへの意識が薄くなった。


「アーティー!防御シールド!対象は瓜生以外!更にシールド!」


掛け声と共に、俺は瓜生に突っ込んでいき、慌てて引き金を引こうとするギリギリのタイミングで女の子を奪い去った。


直後、銃声が響いたが、シールドと防御魔法によって撃ち抜かれることはなかった。


救出が成功したタイミングで、早瀬指令と長官が瓜生に銃口を向けた。俺も鎧の武装のひとつであるファ◯ネルのようなガンビットの銃口を向けた。


「瓜生!人質は救出した!おとなしく投降しろ!お前の持つ情報を吐くんだ!これ以上罪を重ねるな!」


銃口を向けられ、警告を発していたが、瓜生は気に止めたふうもなく、むしろそんなことよりも新しいおもちゃを見つけた子供のような目を向けてきた。


「なんなんですか!なんなんですか、それは?ネルティエルターナのバリアでも破壊できる銃だったんですよ!それに、この回りに浮いている武器!これも既存の技術じゃないですよねぇ!あなたいったい何者なんですか?どうやって防いだんですか?動力源は?どこの技術なんですか?いや、この系統の感じはネルティエルターナの技術ですね。ということは最新式の技術。調べたい。調べたい調べたい調べたい調べたい。ああぁ!今日はなんていい日でしょう。先輩を見返せて、御堂明日香を手に入れられて、さらにはネルティエルターナの最新の技術と未知の技術に触れるなんて。今、この時この場所に導いてくれたヒュドラジア帝国には感謝しかありません。さぁ、早く御堂明日香を、未知の技術を、最新の技術を渡してください!さもないとここにいるすべての命を奪っていきますよ。」


「この状況でその余裕。大した自信家だな。あんたも言った通り傷ひとつつけることなど出来ない。おとなしく投降したほうが身のためだが。」


「将兵くん。何を言ってるんですか?確かに先ほどの武器では無理でしょうが、切り札はまだこちらの手の中にあります。何故なら私にはヒュドラジアの技術もあるのですから。それにバリアを私が展開していないとでも。私にも攻撃は効きませんよ。試しに撃ち合いましょうか。かけ金はそうですね。私の命とこの場全員の命。さぁ、どうしますか?あなたたちには出来ないでしょう。自分の命ならともかく一般人の命を賭けるなど。わかったのなら早くしてください。」


「確かに、あんたの言う通り今のままじゃ守れないかもしれない。でもな、あんたも言ってた通りこっちにも切り札はあるんだよ。『パラライズ』。」


瞬間、瓜生は崩れ落ちた。『パラライズ』はラノベとかでよくある麻痺の状態異常魔法だ。


すぐさま拘束し、武装を奪い、情報を聞き出すため『パラライズ』を解いた。


「さて、教えてもらおうか?あんたの持つ情報を。黙秘は無駄だ。まずは、明日香の持つエネルギーとは何だ?」


瓜生は不敵に笑った。


「私が答えるとでも。今の私には自白剤など効きませんよ。この身体は薬物に対する耐性もつけてますから。残念でしたね。ですが、先ほどの攻撃は対応できませんでした。そうですね。このままではこちらの目的も果たせなさそうですし、情報もただ搾り取られるだけでしょうから、残念ですがこの星の支配はあきらめるしかないようです。でも、明日香さんの力の研究だけでも出来るように手を打つことにしましょう。では、ここはいったん引かせてもらいましょう。改めて今度は今回の戦力以上を引き連れて奪いに来ますので、それまでお待ちください。それでは失礼します。」


「待て!」


奴の行動を止めようとしたが、すんでのところで眩しい光が辺りを照らし出し、消えた頃にはいなくなっていた。



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