第23話
「つまり、まとめると、君達は特殊科学研究所にゲームのロケテ参加者として集められ、これまでの戦いはゲームだと思っていた。状況が知らされたのは2週間前。ヒュドラジア帝国による攻撃は4か月も前から行われていた…か。ネルティエルターナの技術を基に位相空間を作り出す技術をつくりだして、かつ、実用化にも成功。その位相空間に閉じ込め、そこに君達を送り込み戦わせていた。今回は解析されこの位相に現れたということか。そういえば、君達はどうしてここに来てたんだい?」
5人―眼鏡をかけた少年は延岡、筋肉質な少年は高原、ボーイッシュな少女は椎葉、内気そうな少年は日向、そしてまどかちゃん―は顔を見合わせ、まどかちゃんが受け答えをすることに決まったようだ。
「1週間前に送られてきたの、2枚。研究所から。手紙には友達を誘ってもいいから一緒に行くぞって。将兵お兄ちゃんも行くって聞いたから、気は進まなかったけど今日は所長たちと一緒にきたの。」
「そうか。・・・明日香、ちょっといい?」
空気を読んでこちらを見守っていた明日香を呼ぶと、嬉しそうに近寄ってきた。
「もしかして、チケット送った?」
「ええ、お送りいたしましたわ。以前コンタクトがありましたので。将兵さんから伺った時に思い出したので、送らせていただきました。ライブの後にお話をお聞かせいただこうと。ですが、一緒におられた方は今どちらに?」
5人は再び顔を見合わせ、かぶりを振った。
「わかりません。気付いたらいなくなってました。あっ、だから所長は私たちを連れてきたのかなぁ?」
「どういうことなんだい?まどかちゃん。何か知ってるの?」
「え、えーっと。知ってるとかじゃないんですけど、所長が言ってたんです。明日香さんが守るべき対象だと。敵の目的は彼女だと。」
何故、所長が知っていたのか?何故秘匿する?その理由は?思考の海に浸る直前に、袖を引っ張られる感覚で中断された。
「将兵お兄ちゃん。聞きたいことがあるの。今じゃないかもしれないんだけど、教えてほしいの。」
必死の表情のまどかちゃんを見て、出会った頃を思い出してしまった。あの頃と同じ迷子の目をしていたから。今応えなきゃいけない気がして続きを促した。
「将兵お兄ちゃんは、怖くなかったの?戦うことに。・・・私は2週間前、本当の事情を知って怖くなったの。ゲームと聞かされていたのに本当はそうじゃなかった。一歩間違えれば死んでいたかもしれない。そのことに気付いたら逃げ出したくなったの。その時に明日香さんのライブチケットが送られてきたの。明日香さんの歌で勇気をもらおうと思って。」
そこで、まどかちゃんは明日香のちらりと見て再び話し出した。
「だけど、明日香さんの話をきいて、衝撃を受けたの。そして私自身情けなかった。だって10歳、10歳よ。その頃から戦っていた人がいた。信じられなかった。10歳って言ったら子供なのに。そんな子供が世界を守るために命がけで戦っていた。そして、そんな私は怖くて逃げだしたのに、その人はずっと戦い続けてた。怖いのにそこから逃げずにずっとすっと・・・。ゲームの世界と信じて戦ってきたのに、それが現実と分かったら恐怖で竦んで動けなかった私とは違うってそう思ったの。それに、ネルティエルターナ皇国も救った人もいる。自分とは関係ない星のために戦うなんて、何故そんなことをするのかわからなかった。関わる必要なんてないのに・・・。きっと私にはない何かを持ってるんだって思い知ったの。」
そこで、一旦唇をぐっときつく結んでまるで何かに堪える様だった。今にも泣きだしそうな表情を見て俺は、軽く頭を撫でていた。
「そんなことはないと思うよ。俺もまどかちゃんも一緒だよ。それは誰しも通る道だから。」
「将兵お兄ちゃんも?」
「そうだよ。昔のことなんだけどね。カイザー達と戦ってた時には少しだけ怖いと思ったけど、守ってもらってたから本当の意味で怖くはなかった。でも、雄二とスタークスアイゼンに乗ってた時にね、1度だけ何もかも投げ捨てて逃げ出したんだ。巻き込まれてなし崩し的に戦うことになって、カイザー達とイビルサタナーを倒して、スタークスアイゼンに乗って快進撃を続けて、命の危険は感じてなかった。自分が死ぬことなんて考えてなかった。だって苦戦すらしてなかったし、敵も弱かったから。いつの間にかゲーム感覚でやってたんだ。でも、忘れちゃいけないことを忘れてた。『銃を撃つものは、撃たれる覚悟があるものだけ』その真理をね。だからだろうね、強敵にの襲来でぼこぼこにやられて、敵の攻撃がコックピットの装甲を貫き、初めて死の恐怖を肌で感じて、恐怖で竦んで動けなくなってしまっていたんだ。雄二がとっさに動いてくれたから、紙一重で死は免れた。その後は、雄二の機転で何とか撤退し、コックピットからしばらく出れなくなってたけど、気が付いたら逃げ出して、何もかもほっぽり出して布団にくるまって震えていた。もう二度と戦うもんかって思いながらね。数日間はそんな感じで閉じこもっていたよ。お袋たちには心配かけてたけどそんなこと気にしてる余裕なんかなかった。」
ここで一度まどかちゃんたちを見て続けた。
「でも、そんな俺の心情なんて関係なしに敵が再び襲来して町が攻撃され始めた。その日はお袋たちは街に買い物に出かけていた。通信機からはコールが鳴り続けたけど、布団にくるまってただただ震えていた。そんなとき、つきっぱなしになっていたテレビから被害区域の情報が流れてきたんだ。場所はお袋たちが出かけている場所だった。気になってテレビを見たら、避難所にいるお袋たち、そして明日香も映ってたんだ。気付いたらスタークスアイゼンで戦ってた。あんなに死ぬことが怖かったのに、戦いは嫌だと思ってたのに、家族をそして明日香を失う恐怖を想ったら戦えていた。まどかちゃんもそうだったんじゃないかな。」
俺の話を聞いてまどかちゃんは驚きながら頷いていた。
「そうなのかな。でも、確かに突然の停電、振動。非常灯が付いた頃には周囲の人たちが不安そうにしてた。それを見て、私の中に浮かんだのは将兵お兄ちゃんだったの。もし、将兵お兄ちゃんに何かあったら耐えられない。気付いたら出口に向かって体が動いていたの。行かなきゃいけないって。」
「その想いがあるならまどかちゃん、君にないものなんてないよ。ただ、気付いてないだけだから。でも、俺的にはそのまま戦わないっていう選択をしてもらったほうが嬉しいんだけどね。だから、まどかちゃん。違約金のことなら何とかするから、このままこのことから手を引いてほしい。こんな危険なこと君にはさせられない。それに、そのほうが俺も安心だし、俺が言うのもなんだけど、おじさんたちも安心すると思うな。」
そんな俺の言葉にまどかちゃんはかぶりを振った。
「将兵お兄ちゃん。私気付いたの。今日気付いちゃったの。明日香さんの話を聞いてそれが将兵お兄ちゃんってわかって余計にその想いは強くなった。戦いたい訳じゃないけど、私は将兵お兄ちゃんを守りたいって。だから私も戦います。お兄ちゃんたちと一緒に。」
「迷いは晴れたようだけど、仕方ないか。それがまどかちゃんの想いなら。わかったよ。よろしくね。まどかちゃん。」
「君達はどうする?答えが決まってる子もいるようだけど。」
「俺も戦うぜ。俺達が戦うことで守れるってんならな。」
「僕も高原と一緒で戦うことにします。出来ることと、望むことをするだけです。このままじゃ嫌だし、僕自身それで済むと思ってないから。」
「私も戦います。まだ怖いけど。でも怖いからって逃げて、何も出来ないっていって、何もしなかったら……もっと何も出来ないだろうから。日向は?」
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