第19話

ドームから出ると、辺りは避難してくる人達で溢れだしていた。そのなかを縫うように通り抜け、避難の遅れている場所へと向かっていた。


「その先の交差点、右前方50メートル、複数の生命反応を感知。更に周囲を囲むようにヒュドラジアの改造兵を確認。急いでください。」


『イデ』からの通信を受けた俺は、ペースをあげ、目標を視界に捉えた。


女性3人が先導して多くの人々をドームへと引き連れていた。お年寄りや子供もいるためか歩くペースは遅く、俺が辿り着いた時にはすでに包囲されていた。


改造兵達は何かを確認するような仕種をしていた。その中の1体に走り込んだ勢いそのまま、ライ◯ーキックのような飛び蹴りを放った。


蹴飛ばした1体は立ち上がることなく、泡となり消えていき、他の改造兵に注意を払いながら、彼女達の元に駆けつけた。


「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」


「ええ、大丈夫で……って、鈴城君?」


助けたのは、高校の同級生だった。取り敢えず、彼女達の回りにバリアを張り、敵の攻撃に備えた。


「安野か。ん?よく見れば、大西と茅野も一緒か。同窓会以来だな。元気そうで何より。ちょっと待っててくれ、こいつら片付けるから。」


俺はそういうと、囲んでいる改造兵に向かって、取り出したガクセイバー(ガクレンジャー専用剣型武装)を取り出し、一刀のもと斬り倒していった。


周囲の敵を一掃した後、再び彼女等のもとに戻った。


「ほんとぅに鈴城君なのぉ~?何でそんなに強いの~?それに何でこんなところにいるの~?」


「何って、大西。今みたいなことと避難誘導と避難路の確保だ。それより、ドームに行こうとしてたんだろ。じゃあ、そのままドームに行って、地下に別のシェルターがあるから。着いたら案内に従って、避難してくれ。」


「鈴城君も一緒に逃げよう。確かにあなたは強いみたいだけど、あなたがする必要ないじゃない。そういうのは、ヒーローの役目でしょ。」


「心配してくれてありがとう、茅野。でも、俺はこのまま付近の状況を確認しつつ、逃げ遅れた人の誘導を行うよ。これは、俺の役目でもあるから。ほら、早く行かないと。今ならドームまで敵はいないから。」


『後方300メートルに新たな改造兵の集団を確認。先ほどの3倍の数と推定。』


イデからの再度の通信。ドームへと向かうよう促した。


「でも、鈴城君を置いて私たちだけなんて……。」


「さっきの3倍の数の敵が押し寄せてくるみたいだ。この人数を守りながらドームまで行くことは難しい。だから、君達は急いでドームに向かって。時間を稼いだら俺も撤退するから。俺のことなら大丈夫だ。ここは任せてドームへ急いで!」


「で、でも……。」


「俺なら本当に大丈夫だから。それに、これはヒーローの役目だって言ってたろ。だから、俺に任せてドームへ!」


俺は、安心させるように微笑みかけ、彼女達から離れていきながら、「転移無双、ガクレンジャー」と唱え、ガクレッドへと変身した。


俺がかつてのヒーローと気付いた彼女達は、戸惑いながらもドームへと逃げてくれた。


変身した俺は、ガクレーザーを取り出し、ガンカタスタイルで敵集団の中へと突っ込んでいった。


数分後、敵を一掃した俺は、避難率の低い場所へと向かって走りだした。



sideみずほ



「お兄ちゃん大丈夫かな?お母さん。」


お兄ちゃんが出ていった後、やっぱり不安な気持ちが拭えないまま、私はお母さんに抱きついた。


「将兵ならきっと大丈夫。信じて私達は避難しましょう。」


お母さんは微笑みながら、優しく私の頭を撫でてくれた。


「ごめんねお母さん。ありがと。……えへへ、葵さん達に恥ずかしいとこ見せちゃったね。」


「それはいいけど、将兵はどこ行ったの?みずほちゃん。」


「そうだ!ショウのやつ明日香とか言ってたけど、まさか!」


伊藤さんが急いでステージに目を向けると、お兄ちゃんがスタッフの人たちの間をすり抜けていた。


「ゲッ!ショウ、あいつなにやってんだ!追放され……って、ああっ!?」


ステージ上では、明日香さんがお兄ちゃんに抱きついていた。そして、事情を知る私たち以外は固まって呆然とその光景を見ていた。


そんな空気の中、さらっとキスしてお兄ちゃんは会場を出て行った。


不安によるざわつきは解消されたけど、別のざわつきが起こってしまっていた。


殺意と好奇心、その二つの感情によるざわつきを……戻ってこれるよね、お兄ちゃん。





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