第17話
観客のボルテージは一気に上がった。
1曲目が終わって、俺は初めて明日香とであったときを思いだした。回りは興奮冷めやらぬ中すぐに2曲目が始まった。
10曲目が終わる頃に違和感を感じた。構成がいつものライブとは違うような気がして、周りの反応を見てみると、多くの観客が戸惑っているように見えた。
「今日は皆様にお伝えしたいことがあり、いつもとは違う構成に変えさせていただきました。私には、心よりお慕い申し上げている方がおります。その方はこの会場内で私の歌を聴いてくださっています。私の歌は、10歳という幼い頃から、ずっと命を懸けて戦っておられました、そんな彼の心を支えたいという私の想いを込めて創り歌ってきました。次の曲は、大切な人を失う怖さを、『自身の心も身体も傷つけながら戦い続ける彼に知って欲しい、私の最愛を傷付けないでください』という想いを込めて作りました。では、聴いてください。『sorrow』」
悲しいメロディーに乗せて歌う彼女を見て、あの日の彼女の泣き顔を思い出し、もう二度と傷付けないと改めて誓った。
ライブは終盤へと差し掛かり、大きな盛り上がりを迎えていた。
歌い終えた彼女の隣に、女性の立体映像が映し出された。
それに気付いた観客達はざわめきだしていた。
そこに写し出されていたのは、最近ニュースやワイドショーで、明日香と同じくらい話題に上がっている女性だったからだ。
ステージ上では、明日香が彼女を紹介すべく口を開いた。
「本日のスペシャルゲストのジェニファー・フランシス・ネルティエルターナ皇女殿下です。」
「皆様、初めまして。ネルティエルターナ皇国第3皇女ジェニファー・フランシス・ネルティエルターナと申します。以後、お見知りおきをお願いします。」
優雅に一礼する彼女を見て、「何故皇国の第3皇女が写し出されているのか?」「彼女との関係は?」「何故、ライブで明日香の隣にいるのか?」様々な疑問を抱いているようで、観客達は戸惑いを隠せないでいた。
「彼女、ジェニファー皇女殿下にも想い人がいらっしゃいます。その方に想いを伝えてもらいたいと想い、ご招待させていただきました。」
「明日香。私のことはジェンと呼んでと言ってるでしょう。」
「形式は大事ですよ。殿下。ちゃんとしましょう。」
「彼と同じことを言わないでよ。…もう。……ふぅ~。よしっ。7年前、貴方が命を懸けて救っていただいた我が国は、ようやく復興を遂げました。そして、日本とコンタクトし、条約が纏まり、国交が開かれました。ここまで来るのに、7年もかかってしまいました。ですが、ようやく貴方を我が国へ、御招待できます。胸を張って。……あの日、貴方と共に祝うはずだった式典。直前で紙切れ一つ残し行方を眩ました貴方に、あの日の式典で、私達、ネルティエルターナ全皇国民が誓った誓いを果たす準備ができました。改めて場を用意いたします。今度は必ずいらしてください。楽しみにお待ちしております。」
「……さて、ここからは、ネルティエルターナ皇国第3皇女ジェニファー・フランシス・ネルティエルターナとしてではなく、1人の女性ジェンとしてお話しいたします。母を捕らわれ、国を追われ、流れ着いたこの地で終焉を迎えようとしていた私を、貴方は救ってくださいました。焦りと不安で周りが見えていなかった私は、貴方の気持ちを無視し要求ばかり押し付けていました。本心はともかく、力を貸してくださる貴方に、共に過ごす日々が続いていくうちに、次第に惹かれていきました。不謹慎ですが、貴方と過ごした日々はつらくとも楽しいかけがえのない日々となっておりました。でも、私には貴方を好きになる資格がない。私自身の願いのために貴方を傷付けた私には。貴方を想うこの気持ちは心に秘めたまま生きていこうと思っておりした。ですが、明日香から今回の依頼がきたときに言われたんです。「それでいいのですか?」と。「想いを伝えてみてはいかがですか?」と。一歩も前へ踏み出さない私に、踏み出す勇気を与えてくださいました。私は前に進むために想いを伝えます。お慕い申し上げております。す…」
振動と共にすべての電源が落ちたようで、会場は暗闇に閉ざされた。
その日、俺たちの世界は再び争いの渦へと沈んだ。
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