第16話

ループの音で起こされた。


「ショウ!とうとうこの日が着たぞ!明日香のライブの日が!!待ちきれなくて起きちまった」


寝起きに耳元がうるさかったから、思わず切ってしまった。でも、俺は悪くない。朝の4時に電話を掛けてくる方が悪い。


「うるさい!!今何時だと思ってるんだ!時間まで寝かせろ!」


また掛かってきたので、言うことだけ言ってガチャ切りし、電源を落とした。それと、使ってなかった目覚ましをセットし、もう一度夢の世界へと旅だった。




午後2時前、俺は家族と共にライブ会場に来てみんなを待っていた。今回は、湖の上に建つ収容人数5万人というドームが会場となっており、開始2時間前だというのに、多くの人で溢れかえっていた。そんな人々を眺めながら、地下にあるブレイブスワットの基地を思い出し、こんな平和なイベントでここに来たことを嬉しく思っていた。


「将兵、みずほちゃん。お待たせ。遅くなったわ。それと、将兵。何で電源落としてるの?」


声のした方へ目を向けると、何故か大荷物を持った浩平の耳を引っ張りながら、葵がやって来た。


「悪い。忘れてた。すぐ入れるよ。」


「葵さん、こんにちわ。ついでに伊東さんも。大丈夫ですよ。時間通りです。」


ようやく解放された浩平は、耳をさすりつつ、不満をぶちまけてきた。


「そうだった!ショウ!ひどいじゃないか。わざわざ寝坊しないよう、親友がモーニングコールしたってのに怒鳴り付けて切るなんて!挙げ句、電源落としただろう。何度かけても繋がりゃしねぇ。」


「朝の4時。あんな時間にかけられたら、誰だって切るに決まってるだろう。当たり前の事をしただけだ。浮かれすぎだ。」


「そうよ。伊東。待ち合わせ時間になろうってときに買い物してるんじゃないわよ。しかも、何度声かけても無視するし。」


「なるほど、それでか。少し落ち着け。時間までみんなで物販付き合うから。みずほも買いたいものがあるらしいし。」


「わかったけど、浮かれるのもしょうがないだろ。まさか、最前列のチケットが買えたんだ。こんな奇跡はないだろう。」


「わかったから、さっさと行くぞ。」


俺達は、物販エリアへ移動を開始した。途中、葵が何か言いたそうにこっちを見ていたので、聞こうとしたら、目を背けられみずほと話し出していた。

結局、思いもよらぬサプライズで、その事をすっかりと忘れてしまっていた。




会場に入り終始テンション暴上げの浩平に引きずられるように、自分達のスペースへとたどり着いた。


「将兵に葵じゃないか!元気にしてたか?」


そこには、大学のサークルメンバーが揃っていた。


「会長、それにみんなも。何でここに?」


「その事なんだが、将兵。ちょっといいか?」


会長に促され、みんなから少し離れた。


「感謝を込めてのメッセージと共に明日香から直々に招待されたんだよ。俺たちの事を知っているみたいだ。何があるかわからないから、気には止めておいてくれよ。」


会長の言葉に苦笑しながら頷いた。

皆のところに戻ろうとしたとき、また、声をかけられた。


「将兵か?」


会長には先に戻るよう合図して、振り返った先には13年振りの友人と初老の男が立っていた。


「雄二!久し振り!それに長官もご無沙汰しております。どうしてここに二人が?」


「明日香からこのライブの招待状が届いてね。大丈夫だよ。彼女が我々の事を知っているのは、君の事と一緒に把握しているから、ただ、世界の歌姫の歌を楽しみに来ただけだよ。」


一応、長官や早瀬先生には、報告していたから不信感は抱かなかったようだ。


恐らく俺達の近くだろうから、少し話をしながら皆の元に戻った。


「よぉ、将兵。2週間ぶりだな。」


料太の声が聞こえたので目を向けると、高校時代の仲間達と早瀬先生がにこやかにやって来た。


「みんな久し振り。ずっと連絡できなくてごめん。」


「気にしてないわよ。将兵。あんなことがあったんだから、心の傷が癒えるまで時間がかかって当然よ。でも、良かった。元気な姿が見れて安心したわ。」


そう言ってきたのは、ガクレンジャーの紅一点、桃代 凉那ももしろすずなだった。


「心配してくれてサンキューな、凉那。テレビで見たときは驚いたよ。女優になってたなんて。頑張ってたんだな。」


せっかくなので、全員で自己紹介をしていたら、突然会場の電気が消え、軽快な音楽と共に明日香の歌声が会場内に響き渡った。




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